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トピックⅠ 変形労働時間制
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日本の労働時間は、
1日8時間、1週で40時間を超えてはならない、
と法律で定められています。(労働基準法第32条)
これを法定労働時間といいます。
しかしながら、業種・職種によっては
原則通りの法定労働時間では業務の遂行が困難となり、
やむを得ず時間外労働が発生するケースがあります。
そこで、あらかじめ1ヶ月や1年といった単位で労働時間の総枠を設定し、
繁閑に対応できる「変形労働時間制」の採用を認めています。
制度の内容と導入のための手続きについて確認しましょう。
□ 変形労働時間制とは
変形労働時間制は、労使の協調により
労働時間の短縮・長時間労働の抑制を図ることを目的として、
業務に応じた労働時間の配分等を行う仕組みのことです。
冒頭で述べた通り、通常であれば
1日8時間、1週40時間を超える労働をさせることはできません。
超えた場合には、
超えたところから割増賃金の支払いが必要となります。
そこで変形労働時間制を導入し
労働時間を月単位・年単位で調整することで、
閑散期の労働時間を短くする代わりに、
繁忙期の労働時間を長くすることができます。
ただし、その単位ごとに平均して1週間あたりの労働時間が
法定の労働時間(40時間)を超えないように設定しなければいけません。
□ 変形労働時間制の種類
労働基準法に規定された変形労働時間制は
下記の4種類となります。
(1)1か月単位の変形労働時間制
1か月以内の期間で、週の平均労働時間が40時間を超えない範囲で
労働日や労働日ごとの労働時間を設定する制度です。
特定の日や特定の週に法定労働時間を超えることが可能となり、
1か月の中で、忙しい時期と忙しくない時期が
はっきりわかれている業種・職種に適しています。
(例:月次決算期の経理担当、週末に来客数が増加する映画・娯楽業等)
【導入要件】
・就業規則に1か月の変形労働時間制採用を定める(届出不要)
もしくは
・労使協定の締結(届出必要) のどちらかになります。
【定めるべき事項】
①対象期間(1ヶ月以内)および起算日
②各日、各週の労働時間
始業および終業時刻を具体的に定め、これを労働者に周知
③労働者の範囲
④変形期間を平均し、法定労働時間を超えないことの定め
1か月の法定労働時間は、
(1週40時間×歴日数÷7日)のため
31日の月 177時間
30日の月 171時間
28日の月 160時間 となります。
⑤(労使協定の場合)有効期間
(2)1年単位の変形労働時間制
1か月を超えて1年以内の期間において、
週の平均労働時間が40時間を超えないように
労働日や労働日ごとの労働時間を設定する制度です。
季節単位で忙しい時期と忙しくない時期が
はっきりわかれている業種や、
例えば1日の所定労働時間が8時間の事業所において、
毎月第3土曜日は出勤、
それ以外の土日祝日が休みであるという場合、
祝日のある月は1週40時間に収まるので法違反にはなりませんが
6月など祝日がない月は、土曜日出勤することにより
その週の所定労働時間数が48時間となり、
法違反になってしまいます。
そこで1年単位の変形労働時間制を採用することで、
これを回避することができます。
【導入要件】
・労使協定の締結(届出必要)
必ず、労使協定の締結、届出が必要となり
一緒に1年間の年間休日表も添付します。
【定めるべき事項】
①対象労働者の範囲
②対象期間(1か月を超え1年以内)および起算日
1か月を超え、1年以内であれば、3か月、6か月という期間を
採用することも可能です。
③特定期間
特に業務が繁忙な期間を言います。
通常、連続労働日数の限度は原則6日であるところ
特定期間においては、1週に1日の休日が確保できること
すなわち最大12日の連続労働日数が可能です。
④労働日および労働日ごとの労働時間
対象期間を1ヶ月以上の期間ごとに区分し、
そのうち最初の期間のみ
労働日と各日の所定労働時間を特定し、
その他の期間は労働日数と総労働時間を定めます。
また下記のように、1日や1週間の労働時間が定められています。
・1日10時間を限度
・1週52時間を限度
・連続して労働させることのできる日数は6日まで
(ただし特定期間は上記③のとおり)
・1年間の出勤日数の上限が280日(休日が85日以上)
・対象期間が3か月を超える場合、
48時間を超える週は3か月で3回まで
⑤労使協定の有効期間
(3)1週間単位の変形労働時間制
1週間の労働時間が40時間を超えない範囲で
1日10時間まで労働時間を設定する制度です。
ただしこの変形労働時間制を採用できる業種が限定されており
小売業、旅館、料理店、飲食店であって
常時使用する労働者が30人未満の事業所のみとなっています。
そのため、あまりこの制度を採用している会社は多くありません。
【導入要件】
・労使協定の締結(届出必要)
・就業規則またはそれに準ずるものの規定
必ず、労使協定の締結、届出が必要となります。
また特例で週の法定労働時間が44時間とされている事業であっても
1週間単位の変形労働時間制を採用する場合には
週40時間の枠内で労働時間を定める必要があります。
【定めるべき事項】
①当該1週間が開始される前までに1週間の労働時間を書面で明示
(1日の労働時間の上限は10時間)
(4)フレックスタイム制
この制度は上記の3つとは違い、
一定の期間(清算期間という)の
総労働時間をあらかじめ定めておき、その範囲内で
労働者が各日の始業および終業時刻を
自由に決めて働くことができる制度です。
会社は始業および終業時刻を決めることができないため
ある程度、仕事を労働者の裁量に任せられる業種に限って
運用している会社が多いようです。
【導入要件】
・労使協定の締結(届出必要)
・就業規則またはそれに準ずるものの規定
【定めるべき事項】
①対象労働者の範囲
②清算期間
最長3か月まで設定できます。
労働者はこの期間内の総所定労働時間を満たすように勤務します。
③清算期間における総労働時間
清算期間の所定労働時間を定めます。
これは法定労働時間を超えることはできません。
④標準となる1日の労働時間
⑤コアタイム、フレキシブルタイム
コアタイムは、必ず勤務する時間帯をいい
フレキシブルタイムは、
労働者が自由に労働時間を決めてよい時間帯になります。
コアタイムを設けるかどうかは会社の自由となります
(必須ではない)。
□ 時間外労働の計算方法
会社側の変形労働時間制を採用するメリットとして
時間外労働の割増賃金をおさえることができる
という点があげられます。
割増賃金が発生する労働時間は下記の通りとなります。
どの制度を採用するかにより
計算方法に差がありますのでご注意ください。
(1)1か月単位の変形労働時間制
<基準①1日について>
8時間を超える時間を定めた日はその時間を超えた分
それ以外の日は8時間を超えた時間
<基準②1週間について>
40時間を超える時間を定めた週はその時間を超えた分
それ以外の週は40時間を超えた時間
(①で時間外労働になる時間を除く)
<基準③対象期間について>
対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間
(①、②で時間外労働になる時間を除く)
そのため、1日の労働時間を8時間以上に設定した日については
その設定した時間までは時間外の割増賃金を支給しなくても
法律違反とはなりません。
(例:○月×日の労働時間10時間とした場合の割増賃金は
10時間を超えたところから支給)
厚生労働省 ~1か月単位の変形労働時間制~
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/dl/140811-2.pdf
(2)1年単位の変形労働時間制
<基準①1日について>
8時間を超える時間を定めた日はその時間を超えた分
それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
<基準②1週間について>
40時間を超える時間を定めた週はその時間を超えた分
それ以外の週は40時間を超えた時間
(①で時間外労働になる時間を除く)
<基準③対象期間について>
対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間
(①、②で時間外労働になる時間を除く)
1年単位も1か月単位と同じ計算となります。
厚生労働省 ~1年単位の変形労働時間制~
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/040324-6a.pdf
(3)1週間単位の変形労働時間制
<基準①1日について>
8時間を超える時間を定めた日はその時間
それ以外の日は8時間を超えた時間
<基準②1週間について>
40時間を超える時間を定めた週はその時間
それ以外の週は40時間を超えた時間
(①で時間外労働になる時間を除く)
(4)フレックスタイム制
<基準①>
清算期間の総労働時間が法定労働時間の枠数を超えた時間
フレックスタイムは他の変形労働時間制と違い
1日の労働時間は関係なく、清算期間(例えば1か月)内に
その法定労働時間を超えた部分が割増賃金の対象となります。
(ただし下記②を除く)
<基準②清算期間が1ヶ月を超える場合>
1ヶ月ごとの労働時間が週平均で50時間を超えた分
清算期間が以前の1ヶ月から最長3ヶ月に緩和されたことにより
新たに設定された基準になります。
厚生労働省 ~フレックスタイム制~
https://www.mhlw.go.jp/content/000476042.pdf
なお休日割増、深夜割増については
変形労働時間制を採用していても通常通り計算されます。
□ 変形労働時間制のメリット・デメリット
変形労働時間制を採用・導入することによる
労使双方のメリット・デメリットを見てみましょう。
【会社のメリット】
・業務の繁忙に合わせて労働時間を決めることができる
・時間外労働の割増賃金の削減
等があげられるでしょう。
労働時間を調節することができるため
業務多忙による過労をさけることもでき、
労働者の健康を維持することにもつながります。
【労働者のメリット】
繁忙期は労働時間が長く、閑散期は短く設定されるため
メリハリのある働き方ができます。
空いた時間に、家族と過ごす時間や趣味の時間を
増やしたりすることも可能です。
ワークライフバランスの実現につながります。
【会社のデメリット】
・効率的な労働時間の配分決定
・就業規則等の整備
等、手続きや制度設計に時間や手間がかかる点でしょう。
きちんとした理解と制度設計ができないと
複雑な労働時間管理は難しくなります。
また、導入後に正しく運用されているかの確認や、
複雑な時間外労働計算に対応しなければならない担当者の負担が増す、
といったことが想定できます。
【労働者のデメリット】
・残業代がいままでより減少する可能性がある
・対象になる部署とならない部署の間での不公平感の懸念
導入にあたっては上記のような影響をよく考慮・検討することが必要です。