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   トピックⅠ 出向と派遣
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その会社に籍を置きつつ、
他社での業務を行うのに、「出向」と「派遣」があります。
どう違うのか、法律によってどのように定められているのか
法違反しないためにも確認していきましょう。


□ 出向と派遣の違い
 

出向と派遣はどちらも労働契約を締結している会社ではなく
出向先、派遣先で働く労働形態です。
具体的にどのような違いがあるのでしょうか。

【出向】
それまで働いていた会社との関係が継続しつつ、
関連子会社等で業務を行う、という働き方です。
出向には「在籍出向」と「転籍出向」の2種類あります。

「在籍出向」
出向元である今まで働いていた会社と

出向先である業務を行う会社の
2つと労働契約を締結する働き方です。
そのため、

給与の支給やその他の労働条件は
出向契約によって定められます。

「転籍出向」
出向元である今まで働いていた会社を退職し
出向先へ移籍するため、

転職するのと同様となります。

出向の法的な性格については、
「労働者が

使用者(出向元)の従業員としての身分を有しながら、
第三者(出向先)の指揮監督の下に労務を提供する形態」
であると説明されています。
(古河電気工業事件 最高裁二小 昭60.4.5判決)

出向の目的としては
1.子会社・関連会社への経営、技術指導
2.従業員の能力開発、キャリア形成
3.人事交流
4.雇用調整
などがあります。

出向の特徴としては民間だけでなく、
公務員等でも頻繁に行われています。

【派遣】
まず派遣元と派遣労働者で労働契約を締結し
その内容によって、

派遣元と派遣先が派遣契約を締結し
派遣労働者は派遣先で業務を遂行します。
給与やその他の労働条件は、

派遣元と派遣従業員との労働契約によって
定められるものになります。

派遣の目的としては
1.スペシャリストをすぐに使いたい
2.すぐに働き手が見つかる
3.正社員への採用を見据えた試みの期間
4.雇用調整
などがあります。

また派遣と類似する働き方で「請負」があります。
派遣が

派遣労働者が

就業先である派遣先の指揮命令を受けるのに対し、
請負は

就業先の会社(発注元)が

請負労働者に直接指揮命令することはなく
発注元から仕事を請け負った請負会社が
請負労働者に指揮命令するものです。


□ 法律の適用範囲


労働関係・社会保険関係の法律において、
出向元と出向先、派遣元と派遣先で
どちらの所属の労働者としてとらえるかに違いがあります。
各法律について違いを確認しましょう。

【労働基準法】
○出向
 出向元、出向先の契約内容による
 出向元にも出向先ともに労働契約があるため
 出向契約により、両方に課せられることが多いです。
 ただし出向に関する法律がないため、
 あくまで両者の契約により労働条件が決定されます。
 なお、36協定は出向先で締結するものとされています。
○派遣
 法律で定められている主なものは以下の通りです。
 ・派遣元、派遣先双方に適用:均等待遇、強制労働の禁止
 ・派遣元に適用:
  労働条件の明示、解雇制限や解雇予告、賃金の支払(割増賃金含む)
  36協定、年次有給休暇、産前産後(休業に関する事項)、就業規則
 ・派遣先に適用:
  労働時間、休憩、休日、産前産後(時間外休日深夜に関する事項)

【労災保険】
○出向
 労災の書類は出向先が提出
 給与を出向先・出向元の2社で支払っている場合には、
 2社分合算した金額で申請
 保険料の支払いも出向先
○派遣
 労災の書類は派遣元が提出
 ただし、請求書は派遣元が記入し、派遣先の「派遣先証明欄」に
 派遣先の署名押印が必要
 派遣元、派遣先ともに「死傷病報告書」の提出が必要
 保険料の支払いは派遣元

【雇用保険】
○出向
 出向元か出向先のどちらか主たる給与を受ける会社で加入
○派遣
 派遣元で加入
 
【健康保険、厚生年金保険】
○出向
 どちから一方から支払われている場合には、支払先の会社で加入
 出向元、出向先どちらからも支払われている場合には
 「二以上勤務者」となり、どちらか「主たる事業所」を自身で決め、
 主たる事業所から被保険者証を発行してもらう。
 保険料は、合算した給与で保険料を計算し、按分して負担する。
○派遣
 派遣元で加入

以上のように、出向か派遣かによって
加入する保険もどちらで加入するのか
場合によっては両方で加入することもあるので注意が必要です。


□ 偽装出向・偽装請負の注意


出向や派遣に類似する請負契約ですが、
会社側が出向や請負と思っていても、
実態は労働者派遣となっている「偽装出向」「偽装請負」
とみなされる場合がありますので注意が必要です。

偽装請負とは、実態は違法な労働者供給(派遣)でありながら
形式上は出向や請負の形をとっているものです。
労働者供給とは、
「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて
労働に従事させること」であり
これを行うためには、行政の許可が必要となります。
許可なく自社の労働者を他社の指揮命令下で従事させる行為は
禁止されているのです。

どのような場合に偽装と判断されるかについての
明確な基準は定めていませんが
学説などからは下記の観点から判断されると考えられています。

・営利目的と判断されるケース
 出向先から出向元へ対価が発生している場合
 実質的には労働者供給ではないか、と判断される可能性があります。

・複数の会社に出向契約をしているケース
 複数の会社に出向契約をしている場合、「業として」
 労働者供給をしていると判断される可能性があります。

そのため、偽装と判断されないために
・出向の対価として疑われる支払いをしない
・出向先の会社を限定する
といった対策が必要です。

<参考>愛知労働局 請負自主点検表
https://www.sr-takai.jp/files/%e6%b4%be%e9%81%a3%e3%81%a8%e8%ab%8b%e8%b2%a0%e3%81%ae%e5%8c%ba%e5%88%86%e5%9f%ba%e6%ba%96%e3%81%ab%e9%96%a2%e3%81%99%e3%82%8b%e8%87%aa%e4%b8%bb%e7%82%b9%e6%a4%9c%e8%a1%a8.pdf