酸ヶ湯温泉録/館内編 | 春昼閑話

酸ヶ湯温泉録/館内編

私の旅の楽しみのひとつが「館内探訪」だ。
いつも宿へつくなり、
迷惑にならない範囲で館内をうろうろするのが好きだ。

雪景色  部屋から見える雪景色
1日目に案内された部屋の窓をあけると、情緒漂う湯治所の雪景色。
奥に見えるのが、「玉の湯」だ。

階段  階段
昭和初期の建造物だけあり、磨かれた柱や廊下は木造ならではの
時代がかった綺麗な艶が出ていた。

売店  売店
こちらは自炊客や連泊者用の日用品を扱う売店。
古い病院の売店に似た雰囲気で
タオルや歯磨き、バナナ、調味料など何でも揃う。

トイレ  トイレ
トイレ室内にもガスストーブがたかれて暖かい。
便座ももちろんほっかほか。
掃除も行き届いてそこらのデパートのトイレより美しい。
それでも扉は凍結する事があるのか、こんな張り紙が。

自炊  自炊場
自炊棟にある洗い場。
ここでも水が凍結防止のためかちょろちょろと流れている。
外の光が差し込んで朝らしい光景だ。

かもしかちゃん  かもしかちゃん
傷付いたカモシカの子供を保護したが、
看護もあえなく天国へ旅立ったらしい。
本来は剥製には出来ないそうだが、「国民温泉第1号」であることで(?)
こうしてロビーに置かれることが実現したという。
まだ幼い愛らしい表情がたまらない。
何度もここの前へ行って、ひたすらカモシカちゃんを眺めていた。

つらら02  つらら
外は、暖かい館内とは反対の、零下の別世界。
つららって、こんなに長くなるんだ~へぇ~と感心。
私がまだ子供だったら親に注意されるまで
ボキボキ折ってまわったに違い無い。

窓  窓
ひ~!ここも凍りすぎです!!

この宿舎は、ひなびた温泉場によくあるような
レトロなゲームセンターも卓球場も、あやしい衛星放送もない。
また、色気を出したような近代的なものも
何ら見つけることが出来なかったが
逆にそれが、日常世界のせわしなさや現実感を徹底的に排除して
ただ、ひたすら「湯治」を目的とする場にしているのだ。
携帯の電波はもちろん「バリ0」。
サロン的なカラオケスナック「シュシュポッポ」はあったけど。

いちばん感心したのは、館内の清掃がスキがなく行き届いていること。
トイレの清潔さは本当に驚いた。
古いが、美しく清潔で間違えてスリッパを脱ぎそうになった事もあった。
温泉場というと、肩をすくめながら温泉に向かう姿が
イメージされるものだが、ここは寒風が入る場所もなく
どこへ行ってもあたたかく快適な室温に保たれているのだ。

さらに、従業員の対応も配膳や案内をはじめ気持ち良く、例えば、
すれ違う度に「こんにちは!」「こんばんは!」など事務的ではない
明るい挨拶をごく自然にしてくれるのも嬉しかった。
場所によっては客の身なりや年齢をみて威丈高に接する従業員もいる。
気の弱い私はそんな時、こっちが客なのに
不本意ながら、つい雰囲気に押されて低姿勢になってしまう事もあった。
そんな悲しい気分はここでは絶対に体験することはない。
ここは総合的に全体が気持ち良く過ごせる空気に満たされている。
堂々と、もしくは、だらだらと館内をゆったりした気分で徘徊できるのは
これら居心地の良い環境のお陰だと思う。

(続く)

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