焦らず、諦めず *くも膜下出血・高次脳機能障害の夫との記録*

焦らず、諦めず *くも膜下出血・高次脳機能障害の夫との記録*

夫がくも膜下出血で倒れました。
まだ40代。私は30代。
子どもは高校受験、中学進学間近。
グレード5でしたが、意識レベル300でしたが、
生きてます。
高次脳機能障害、右同名半盲という大きな障害が残りました。
焦らず、けれど諦めず。
ゆっくりと、少しずつ。

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私と主人は、いわゆる教師と生徒という関係でした。
主人が先生になったのは、私が高校3年生の時。
音楽の教員だったので、私と直接の接点はありませんでしたが。
主人が教員になった最初の日。
私は、その様子を見ていました。
いきなり怒られて、第一印象は最悪でした。
それが何故だか好きになってしまい、
実らない恋だと分かった上で、
自分の気持ちを断ち切るために振られようと告白したら、
何故かOKをもらい、
5年間の交際を経て結婚しました。

先日、主人の2年ぶりの授業を見ました。
失読があるので、名簿が読めません。
池田さんが読めない。
他にも読めない名字だらけ。
難しい名字はないそうです。
漢字の失読、そんなに酷かったのか。

でも、授業はできました。
途中で私語が出てきて、教室が一瞬騒がしくなったけど、主人は声を出しません。
沈黙を通し、生徒がその様子を見て静まり返った時に一言「先生の方を見てくれてありがとう」と言いました。

主人には伝説がありました。
主人の学校は、最底辺の学校です。
中学生の時に悪かった子、不登校だった子、いじめられた子、いじめてた子、勉強が苦手な子。
そんな子たちに、たった一人で、たった1時間で、校歌を歌わせることができます。
それも、怒鳴ったりせず、強制もせず、自主的に歌わせるのです。
他の先生方は、講堂から締め出され、完全に密室に主人と200名の生徒のみ。
どんなふうにやっているのかは、わからないそうですが、1時間後に校歌がきこえてくるそう。

怒鳴ったり怒られたりして、大人が信用できないと思っている子たちに、周りから威圧をかけられて歌わせることができるわけがない。
誰だってそんな状態で歌いたくない。
だから、退室してもらう。
自分と生徒たちだけでいい。
歌うことの素晴らしさは教えなくても知っている子たちだから、一緒に歌えばいいだけ。

主人はそう言っていました。

2年ぶりの授業後、同僚の先生に感想を聞かれました。
主人は覚えていませんでした。
「自分はちゃんと授業をしていましたか?」

あなたはやっぱりすごい先生だ。
名簿も読めないけど、
教科書も読めないけど、
話が飛んでしまうけど、
テストなんて作れないかもしれないけど、
たった1時間の授業で、
初対面の生徒たちに授業をした。
生徒たちは受け入れてくれた。


来月、査定授業があります。
教案、作れるだろうか。
名簿は…また読めないかな。
次は実技だから、厳しいかもしれない。

でも、あなたの教師人生最後の日。
きちんと見届けます。
最初の日を見た私にしかできない、あなたの教師人生の見送りだから。

妻という立場を投げ出してごめんね。
逃げ出してごめん。
向き合うと、またあなたを殺してしまいそうになるから。
本当にごめんなさい。