今、テレビでブロムシュテットN響・ブルックナー9番を観ていますが、鳥肌がおさまりません!
あの時、弾いていて、今、僕の持てる力を全て出さなかったら、あなたはいつ本気を出すの?今でしょ!という気持ちにさせられました。
放送中のインタビューで、ブロムシュテット、学生の頃はお金がなくてスコアが買えなかったので、コンサートで聴いた曲を覚えて帰って、忘れないうちに楽譜に記したとおっしゃっていましたが、今だったら音楽なんて簡単にダウンロード出来てしまうのに、ブロムシュテットの中での音楽の大事さは、その初めの段階から別格だったのだと言う事が、よくわかり感銘を受けました。
クラシック音楽なんて、全身全霊で取り組まなければ、なんの価値もないという事を、ブロムシュテットの無言の背中から教わります。そう言えば、カザルスの写真集にも「音楽は水道のように出したり止めたりする安易なものではない」とあったなあ。

インターネット上にどこまで載せて良いのか迷いますが、ブロムシュテット、今までは仕事への集中力が凄まじ過ぎて、リハーサル中に地震が来て天井が落ちてもリハーサルをやめないだろうなという面がありました。
ところが今回のリハーサルの時に、おやっと思う事があったのです。
いつものように集中度の高いリハーサル中にオーケストラの背後に収納してあったのだろうシンバル(僕には見えませんでした)が、大音響と共に崩れ落ちたのです。最初のうちは案の定、そのくらいの事ではリハーサルを中断しませんでしたが、あまりに崩れ落ちが長引いたので、ブロムシュテットも堪らずリハーサルを中断。そして「ゴーストか?」とおっしゃったのです。
曲のいわれを説明される時などには、お話しの中で難しいジョークをおっしゃる事はありましたが(難しくて笑うのは、ほぼ御本人だけ)、今回のように皆が今、遭遇している庶民的な事象に対してジョークをおっしゃったのを聞いたのは初めてでした。
人間的な面を見せられた・・と驚きましたが、驚きは、それに留まらず、その直後にヴィオラ・セクションの方で鉛筆の転がる音がしたら

『another ghost?』と、すかさずおっしゃったのです。

これは超々画期的な事です!!


その尋常でない集中力と執着心、弛まない勉強と努力で到達された境地における、ほんの一瞬の脱力。
巨匠という安易な表現は嫌ですが(御本人だって絶え間なく勉強していて、たまたま現時点があるだけなのでしょうから)、人々がそう称する域に達せられ、脱力という武器も、おそらく無意識に併せ持たれたのでしょう。
あの瞬間、僕は更に進化されたブロムシュテットを感じました。

以上、テレビ放送に触発されて、皆様にお伝えしたかった事が一挙に溢れてきてしまったので。