おーーっ おおおおーー おーーーーー
新宿歌舞伎町の横の方にさり気なく口を広げているのは、魔界への入り口か・・・

おおーーおー おおおーーー
と、遠くからお坊さんの托鉢の声が近づいて来ます。
子供の頃、留守番をしている時にお坊さんが玄関先に来ると、僕の日頃の行いを叱責するかのようなそのお経の声量におののきながらも、玄関扉のすぐ内側に張り付いてみたり、時には覗き穴からお坊さんの事を見てみたりとスリル満点の居留守ごっこをしたものでした。
もちろんお坊さんは、全てわかっていらっしゃったのでしょうが。
しかし、今の僕は、もう立派な大人。今朝はお坊さんときちんと対面し、きちんとお布施をしました。
お坊さんはすぐに行ってしまわれるので、手元にあった100円玉3枚をとっさにひっ掴むと外に走り出て、お坊さんの広げた藍色の布の上に並べました。
ただ、そこには100円玉2枚と500円玉1枚が銀色に輝いていましたけどね・・
そして・・
おどろおどろしきかな

花園神社
ひょお~~~~っおっ
出ました!!
昭和の遺産、昭和の至宝!!
唐十郎率いるアングラ劇団 唐組、通称『紅テント』です。
この烏合の衆は、予想外にテキパキとしたアングラ役者の誘導により、紅テントに押し込められていきます。
中では境内に直接畳を敷いただけであろう床に2時間半も座るので、足の辛さたるや過去最高。おまけに前後左右の人との間に僅かに生まれたマイ敷地にも、自分の靴を置かなければならず、狭所恐怖症の僕は更なる忍耐を強いられるのでした。
そして、今宵の演目は
『吸血姫』!!
こんな、学校の学芸会でも狭いだろうステージで、どうするんだろうと思っていたら、先程の誘導係の役者さんが、普通の学芸会的スポットライトに照らされて登場。
これから始めますが、お手洗い休憩はどうのこうのと簡単な説明をしてくれます。
実は、これは客を油断させる伏線だったのか、話しが終わるやいなや、突然、割れんばかりの大音量の音楽とともに、ステージ後ろの幕が全開し、予想もしていなかった外の風景が飛び込んできたのでした!
なんと、この手があったか!!
街灯に照らされた境内は、もはや魔界と化し、そこから妖しい手押し車のような物に乗った白衣の看護婦長が大きくゆっくりと手を振りながら近付いて来るではありませんか!!何を隠そう、この方こそ、最後のアングラ女優にして、今回特別出演の
『銀粉蝶』!!
数人の看護婦に押され手押し車がステージに入るやいなや、
『愛染病院の皆々様!お久しゅうございます』
なんったる濃厚さっ!!なんったる妖艶さ!
これぞアングラ!!
そしてこの狭いステージは、たいしたセット替えもないのに、ある時は海辺の病院、ある時は関東大震災時の上野の森、またある時は夕陽に照らされた広々とした風景にと、空想力と魔界の力で、どんどん変化していくのでした。
爆発のようなエネルギーとエキサイティングなストーリーの展開で2時間半、我々を引っ張り回した役者さん達は、最後は、再び開いたステージ後方から、闇の中に消えていったのでした。
物語も終わり、役者もいなくなった境内を客は引き続き席から見ている訳ですが、水銀灯に照らし出されたそこは思いのほか明るく、
なにより静かでした。
お客は、水銀灯のジーーという音のする普通に戻され、何を思うか?
はてさて、もの凄いものを見ましたよ。
そして、役者さん達の全力の演技には感服しました。
また唐組、行きます!