<概略>
- 権威主義政府「中国」が世界経済を支配するという状況が確実に進行している。
- アメリカの自由市場資本主義が行き詰まり、各国が中国市場へのアクセスを渇望する状況につけこんで、中国は経済を「兵器化」してその影響力を増大させてきた。
- 武漢から広まったコロナ・パンデミックを逆手にとり、大量の医療用品を各国に供給することで支配力を広げ、経済的浸透と市場アクセスを武器に、ハリウッドも大学もその影響下におさめ、ITネットワークに介入して情報を統制し偽装してコントロールする。
- 巨大な市場を背景に経済を目に見えない「兵器」として世界の支配を進めている中国の恐るべき実態を詳細な取材をもとに描き出す。
<備忘録>
- 中国は2008年の米国金融危機において、米中間の相対的な力関係の変化をチャンスと捉え、対米強硬姿勢を開始した(胡錦濤政権後半)。直近では、中国はコロナ下、西側諸国が対応に苦慮し空転している時こそ、攻勢に転じるチャンスと考えた。
- かつて中国の「核心的利益」と言えば、中国共産党の正統性や〝三つのT〟としてタブー視されてきた台湾、チベット、天安門事件と決まっていた。しかし近年、核心的利益という考えは香港や新疆ウイグル自治区、時には南シナ海などの領土主権に関する問題にまで拡大され、現時点では非公式とはいえ、新型コロナウイルスの起源をめぐる物語にまで及んでいる。またその考え方をさらに大きな範囲でとらえ直そうとしており、核心的利益には中国の国境をはるかに越えた人びとにまで影響を与える世界の主要問題が取り込まれている。
- 中国は国境を越え、可能なかぎり検閲を拡大する力と、その権利が自分にはあると信じているのはもはや火を見るよりも明らかで、それを実現するため、あらゆる手段を目いっぱい駆使している。
- 現在の中国は、組織的かつ世界的な規模で、既存の自由民主主義を覆すため、自由民主主義に反する考えをあからさまに唱える国家事業を行っている。
- 中国の権威主義的エコノミック・ステイトクラフトは、純粋に経済的な目標の達成ではなく、政治的目標、即ち中国共産党の政治的利益を高めるためにある。また、「権威主義的エコノミック・ステイトクラフト」は、「飴と鞭」というかたちで相手(相手国や企業)にはっきりと伝えられる。
- 「民主主義的エコノミック・ステイトクラフト」の構築こそ、中国の「権威主義的エコノミック・ステイトクラフト」の挑戦に対抗するうえでもっとも効果的な戦術である。
- 中国法の学者たちは、中国の「法治権」という言葉に「法による支配」(rule by law)という言葉を使ってきた。「法による支配」とは、政府の意思を社会に押しつけるために法を用いることであり、これに反して「法の支配」は市民に権利を与え、多くの場合、政府の権力を抑制するために法を用いることを意味する。これらは、中国共産党の「法治権」と自由民主主義国家の「法の支配」を区別するために用いられてきた。
- 中国の反外国制裁法や反スパイ法の制定により、一方(中国)の法律を遵守すれば、もう一方(自国)の法律が遵守できなくなり、企業は八方ふさがりの状態に置かれている。
- 過去、西側諸国では非西洋の国家(中国)が経済力を背景に、地政学的利益を押しつけることに成功するなどとは想像もしていなかった。
- 非自由主義国(中国)が国際機関(WTO)に加盟することで、自由民主主義を受け入れるようになるのではないかという理想主義があったが、中国共産党は当初からそのようなつもりは全くなかった。自由主義に基づいた世界経済が、中国が展開するエコノミック・ステイトクラフトに理想的な条件を提供する結果となった。
- クリントンは貿易と人権をリンクさせて中国には厳しく当たるという選挙公約を掲げていたが、大統領就任後の一九九四年に人権と貿易の問題を切り離した。貿易を断ち切って中国を孤立されるのではなく、むしろ、「経済交流だけにとどまらず、文化や教育面などのさまざまな交流に中国を関与させながら、人権問題でも積極的な取り組みを続けることだ」と述べた。これがトランプが大統領に就任するまで続いた、米国の「関与政策」の要点だった。
- 米国ではレーガン政権以来、意図して産業政策をとってこなかったが(出来るだけ政府は経済に関与せず、市場原理に任せる)。米国の政策立案者がこうした考えを変えるきっかけとなった理由の一つがコロナであり、米国はコロナにてマスクのような必需品の生産が中国に依存しており、それがどのような結果を招くかを痛感した。他にも、中国の台頭、トランプの大統領就任が理由として挙げられる。
- トランプの動きは当初、中国の政策に対する米国経済への影響に焦点が当てられていたが、間もなく、国内産業の保護は米国の国家安全保障においても不可欠だと考え始めた。
- 2018年8月の(当時)マイク・ペンス副大統領のスピーチでは、数十年にわたって続いてきた「エンゲージメント時代」、つまり深いつながりの時代から、事実上、アメリカが全面的に手を引くことに言及した。
- 中国へのサプライチェーンの過度な依存は、国家安全保障上のリスクとなる。現在、北京に対抗するため、民主主義国は断固とした統一的な措置をとらなければならないというコンセンサスが高まっている。
- 企業は中国に対するバランスを欠いた過度な依存を避けるという姿勢が重要であり、短期的・中長期的な戦略を実行していかなければならない。そのためにも、企業と政府のあいだにこれまで以上に強固なコミュニケーション・チャネルが必要となる。
<考察>
- 米国と日本は同盟国であるが、地政学的に中国に対する“距離”は日本独自のスタンスが必要。日米で政治的には足並みをそろえるが、対中における経済面では分離するところは分離して考える必要があるのではないか。
- 中国共産党の内政及び外交戦略は一朝一夕のものではなく、何十年もある程度一貫した戦略のもとで実行されてきた。そのため、今後少なくとも習近平体制が続くと想定される先10年は変わらない。中国における対米、米国における対中は緩和される傾向にはないと考えるべき(直近の三中全会コミュニケからもそう言える。むしろ、双方向に強まる可能性あり)。
- 自社のビジネスは、「販売については米国依存が極めて高い一方、サプライチェーンは中国依存が高い」。中国への過度の依存は不確実性や複雑性が増していき、見えないリスク・将来リスクが高まる可能性。現実的にはビジネスを行う上で一定程度の中国依存はやむを得ないとしても、それは持続可能な状態か?今後、米国でこれまで通りのビジネスが継続できなくなるリスクを考えなければならない。
- 要するに経営にとって、これまでの「経済合理性」による判断軸だけでなく、これからは「経済(国家)安全保障」という判断軸がより重要となってくる。経済安全保障の軸はより幅広くなっていき、発生可能性や影響度は複雑化且つ常に変化していくことも念頭におかなければならない。
- アメリカ政治、政策・規制を理解する(解像度を上げる・ピントを合わせる)には、中国(相手)の理解が重要。中国を知ることで、中国の言動に対する理解や米国のアクション、中国のリアクションの考えを深めることにつながる。ただし、中国(共産党)に関しては、言っていることを鵜呑みにせず、行動を見て理解することが重要。
- 経営や実務において、そうしたことは総論では賛成・理解されるが、各論では難しいのが実情。総論では継続的に社内へインプットしつつも、経済安全保障(リスク)に関しては出来るだけ可視化・具体化して伝えていくことを心掛ける。
=========[引用開始](p28)=========
イーライ・ラトナーは、二〇〇八年の金融危機は「北京を奮い立たせ、米中間の相対的な力関係に向けられた世界の認識を変化させる決定的な瞬間だった」とツイッターに投稿し、
===========[引用終了]===========
=========[引用開始](p29-30)=========
二〇二〇年末までにアメリカでは三〇万人以上が死亡、ヨーロッパでもほぼ同数の人間が犠牲になっていた(48)。これに対して中国では、人口がはるかに多いにもかかわらず、死者数は五〇〇〇人に満たなかった。
(中略)
西側諸国が空転しているいまこそ、攻勢に転じる好機だと見たのだ。
===========[引用終了]===========
=========[引用開始](p32)=========
中国の「権威主義的エコノミック・ステイトクラフト」は、「飴と鞭」というかたちで相手にはっきりと伝えられる。「飴と鞭」はこの国の巨大な市場、資本、投資を守護している門番にアクセスできるかどうかにかかっており、世界の多くの国や企業が自身の繁栄にとって、この門番へのアクセスは不可欠だと日増しに考えるようになっている。要するに中国は、相手国や企業に対して、自国のもっとも基本的な地政学的目標に固執せざるをえない動機を植えつけるためにグローバル市場を形成しているのだ。
(中略)
中国が国外の機関や政府にどのように圧力をかけているのか理解するうえで、より正確な枠組みとなるのは「エコノミック・ステイトクラフト」というコンセプトであり、アメリカの政治学者ウィリアム・ノリスは、それについて「戦略的目的のために国際的な経済活動を国家が操作すること(53)」とざっくりと定義している。中国はこうした外交術を使うことで国外の企業や政府に対して、特定の行動を控えるように圧力をかけているのだ。
===========[引用終了]===========
=========[引用開始](p33)=========
中国にサプライチェーンを依存する産業政策と、国家安全保障上のリスクという問題がふたたび浮上してくる。
===========[引用終了]===========
=========[引用開始](p36-37)=========
中国のWTO(世界貿易機関)加盟について触れた二〇〇〇年三月のビル・クリントンの演説だ。クリントンは貿易と人権をリンクさせて中国には厳しく当たるという選挙公約を掲げていたが、大統領就任後の一九九四年に人権と貿易の問題を切り離した。それ以降も中国の民主化は進まなかったが、開かれた市場の力が自由主義への変化をもたらすという大統領の信念は揺るがなかったようである。「WTOに加盟することは、中国が単にわれわれの製品を輸入することを承諾したのではなく、民主主義がもっとも重んじている価値観のひとつ──経済的自由を受け入れることに同意したということなのだ」と語り、「中国経済が自由化すればするほど、国民の潜在能力はますます解放され、個人は夢を見るだけでなく、その夢を実現する力を持つようになれば、さらに大きな発言権を求めるようになるだろう(57)」と述べている。しかし、世界の富が拡大を続ける共産党の手に集中したとき、開かれた市場と政治的自由を同一視する誤りは、痛いほど明らかになった。アメリカが主導する、あまりにも規制が緩い資本主義を全面的に受け入れたことで、中国共産党が経済的威圧を生み出し、それを展開するさまざまな手口を身につけることを許してしまった。
===========[引用終了]===========
=========[引用開始](p40-42)=========
民主主義的エコノミック・ステイトクラフトの構築
(中略)
アメリカ中の家庭が、フェイスマスクのようなどうしても必要とされるものの生産を中国に依存し、それが欠乏してしまうとどんな結果を招くかそれぞれで痛感していた。 「産業政策」という考えは、長いあいだタブーに近い言葉とされてきたばかりではなく、最近ではトランプ的な極右ナショナリストの領域で語られる言葉と見なされてきた。
(中略)
第二のトレンドは中国側のやりすぎである。経済制裁同様、「権威主義的エコノミック・ステイトクラフト」がもっとも効果を発揮するのはたまに用いられた場合だ。頻繁に繰り出せば、矛先を向けられた企業や政府にサプライチェーンを政治的リスクの少ない市場に分散させようという動機を植えつけてしまうだけに終わる。アメリカやヨーロッパをはじめとする国々はすでにそのように動き出した。党国家資本主義が突きつける政治的要求への認識が高まってきたことで、諸外国の政府関係者には、中国への経済的依存に対する疑念がますます醸成されてきた(60)。
(中略)
市場と経済構造には国内的にも国際的にも民主的な介入が必要という考えを受け入れることを意味する。 「民主主義的エコノミック・ステイトクラフト」の構築こそ、中国の「権威主義的エコノミック・ステイトクラフト」の挑戦に対抗するうえでもっとも効果的な戦術である。
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=========[引用開始](p45)=========
中国が「核心的利益」という考え方をさらに大きな範囲でとらえ直そうとしている事実であり、その核心的利益には中国の国境をはるかに越えた人びとにまで影響を与える世界の主要問題が取り込まれている。つまり、地政学上の特定の目標を達成するためなら、中国共産党は交渉力、影響力、政策の魅力、あるいは欺瞞だろうが威圧だろうがあらゆる手段を武器として進んで使うことを意味している。そうした地政学上の目的は、アメリカのみならずほかの多くの国々の安全保障や国益、さらには自由民主主義的価値観と重なり、それらを毀損するかもしれないのだ。
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=========[引用開始](p57-58)=========
中国の権威主義的エコノミック・ステイトクラフトは、「政治最優先」を意図し、その意図を隠そうともしない。政治的抑制を重んじるアメリカとはまさに正反対だ。国内外の経済活動に対する国家統制を強める第一の目的は、純粋に経済的な目標の達成ではなく、政治的目標──中国共産党の政治的利益を高めるためにある。しかもそれは、中国共産党が世界をよりまともな場所にすると考える普遍的な理念に基づくものではなく、党の自己利益を第一に考えて綿密に定義されている。
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=========[引用開始](p58-59)=========
かつて核心的利益と言えばその顔ぶれは決まっており、それらには中国共産党の正統性や〝三つのT〟としてタブー視されてきた台湾、チベット、天安門事件と相場は決まっていた。しかし近年、核心的利益という考えは香港や新疆ウイグル自治区、時には南シナ海などの領土主権に関する問題にまで拡大され、現時点では非公式とはいえ、新型コロナウイルスの起源をめぐる物語にまで及んでいる。全世界の人間に直接影響する問題を、中国共産党が核心的利益として扱うのはこれまでにはなかった。
(中略)
現在の中国のように、これほど組織的かつ世界的な規模で試みられた例はなく、既存の自由民主主義を覆すため、それに反する考えをあからさまに唱える国家事業が行われたことなどなかった。
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=========[引用開始](p63)=========
検閲や自己検閲は、市場アクセスを利用して相手のさまざまな行動を変えられる中国の能力が高まりつつある現象としてとらえたほうが見通しは深まる。つまり、これはある種のプロセスであり、このプロセスはやがて徐々に融合していき、世界の誰もが認めるしかない、中国の国際的な力を裏づける巨大な基盤がかたちづくられていく。
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=========[引用開始](p68)=========
こうした中国のエコノミック・ステイトクラフトの例には、共通してうかがえるひとつの決定的な特徴がある。いずれも中国共産党が核心的利益と見なすものを守るために用いられている点だ。これまでのように国家主権や領土保全──たとえばチベット、台湾、南シナ海、新疆ウイグル自治区など──に関する問題や、あるいは韓国のTHAADの配備など、明らかに軍事的安全保障にかかわる身近な問題である。
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=========[引用開始](p69)=========
巨大な経済力を政治力や外交力に変換する能力を中国が高めているという警告は、国際社会ではほとんど聞き入れられなかった。
(中略)
こうした集団的無知には、ヨーロッパやアメリカの自文化中心主義もいささか関係していたのかもしれない。ワシントン、ロンドン、ブリュッセルなどに住む大勢の人にすれば、非西洋の国家が経済力を背景に、地政学的利益を押しつけることにまんまと成功するなどとは想像の埒外の話にすぎず、したがって懸念する理由もたいしてなかった。
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=========[引用開始](p77)=========
合衆国国土安全保障省(DHS)は、二〇二〇年五月一日付の情報報告書において、中国政府が国内の流行の深刻さを公式には否定しつつも、意図的にPPEの輸出を減らす一方でその輸入を増やしている可能性は九五%だと発表している(11)。
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=========[引用開始](p91)=========
アメリカの社会や政治、政府を問わず信じられてきた考えがある。この国が継続的な経済支配を続けていけるのは市場原理のおかげであり、経済体制に政府が介入すると腐敗と非効率を招くだけに終わり、持続可能なイノベーションと経済的リーダーシップを駆り立てられるのは企業をおいてほかにはないという考えだ。
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=========[引用開始](p97-98)=========
レーガンの時代が始まって以来、アメリカは意図して産業政策をとってこなかったとも言えるだろう。
(中略)
アメリカの政策担当者がこのような前提を考え直すようになったのは、それまでにない、三つの決定的な要因が関係していた。ひとつは中国の台頭であり、二つ目はトランプの大統領就任、そして三つ目がこれまで触れてきたように新型コロナウイルスのパンデミックにほかならない。これらが触媒として作用していた。
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=========[引用開始](p99)=========
二〇一七年に施行された「中華人民共和国国家情報法」には、「いかなる組織および国民も、法に基づき国家情報活動に対する支持、援助および協力を行う(88)」ことが義務づけられている。
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=========[引用開始](p103)=========
トランプの動きは当初、中国の政策がもたらすアメリカ経済への影響に焦点が当てられていたが、この国の政策立案者や政府高官は間もなく、国内産業の保護はアメリカの国家安全保障においても不可欠な事項だと考えはじめる。
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=========[引用開始](p198)=========
中国共産党が「法による支配」に重きを置いている事実がはっきりと現れている一例でもある。「法の支配」(rule of law)は中国語で「法治権」という文字が用いられるが、ジェローム・コーエンのような中国法の研究者たちは長いあいだこの中国語に、「法による支配」(rule by law)という言葉を使ってきた(59)。中国共産党の「法治権」と自由民主主義国家の「法の支配」を区別するためだ。「法による支配」とは、政府の意思を社会に押しつけるために法を用いることであり、これに反して「法の支配」は市民に権利を与え、多くの場合、政府の権力を抑制するために法を用いることを意味する。
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=========[引用開始](p276)=========
九〇年代以降、中国共産党は国外における政治戦への投資を増大させる一方で、他国の首都で党のためにロビー活動を行う友好団体を育成しながら、その活動に党が果たしている役割は隠してきた。党幹部の狙いは「戦わずして勝つ」ことだった。西側の政府高官には、市場を開放して、中国に十分な投資をしさえずれば、中国はいずれ民主的な未来をてにするだろうと内々にはほのめかしてきたが、そう言いながらも、党にはそんな考えなどないことは党幹部自身がよくわかっていた。
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=========[引用開始](p304-305)=========
二〇一八年八月五日、長きにわたって脅威を募らせてきた米中貿易戦争がついに始まる。
(中略)
この年の十月、副大統領のマイク・ペンスはワシントンDCの保守系シンクタンク「ハドソン研究所」のマイクの前に立ち、最終的にトランプ政権の中国政策の概要となる四〇分間のスピーチを行った(50)。
(中略)
数十年にわたって続いてきた「エンゲージメント時代」、つまり深いつながりの時代から、事実上、アメリカが全面的に手を引くことをいみしていたのだ。
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=========[引用開始](p315、320)=========
五月二十二日、全人代は事前通告なしに新たな国家安全保障法を発表、「香港基本法」の「付属文書三:香港特別行政区において施行される全国制法律」に追加し、香港において法的効力を与えると発表した。
(中略)
「香港特別行政区の永住者でないものが香港特別行政区以外で、本法で規定された犯罪を実行した場合、本法が適用される」と記されていた。この法律はあらゆる人、あらゆる国が対象なのだ。
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=========[引用開始](p341)=========
反外国制裁法は、中国政府が外国企業を罰するために以前用いていた非公式の措置をほぼ成文化し、強化したものだが、書類上とはいえ、西側の企業が制裁にしたがわなかった際に被るリスクと同様な法的リスクを、今度は中国の法律からも突きつけられることを意味している。「一方の法律を遵守すれば、もう一方の法律が遵守できなくなる。その意味で、企業は八方ふさがりの状態に置かれている」とクーは言う。
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=========[引用開始](p366-367)=========
中国政府は地政学上の目的を達成するため、経済的威圧という手段を使っている。
(中略)
非自由主義国が国際機関に加盟することで、自由民主主義を受け入れるようになるのではないかという理想主義があげられるだろう。しかし、その結果はと言えば、国際機関が設立されたそもそもの理念そのものを、時に応じて積極的に毀損しようとする中国のような国を招き入れることになってしまった。
しかし、その根底にある決定的な理由は、アメリカと国際社会における新自由主義の台頭にほかならない。さまざまな色合いの新自由主義に基づいた国民経済や世界経済は、中国が展開するエコノミック・ステイトクラフトに理想的な条件を提供している。海外の個々の企業を相手に、時に民主主義国家の価値観や安全保障に害を及ぼしながら、自国の地政学的目標や安全保障上の目標を達成するため、国外企業の行動を変えさせることができるのが。
(中略)
市場における「中国対個々の企業」という構図になれば、中国共産党に有利な力が積み重ねられていくのは言うまでもない。
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=========[引用開始](p368)=========
現在、北京に対抗するため、民主主義国は断固とした統一的な措置をとらなければならないというコンセンサスが高まっており、新たな法的措置や規制の多くは、企業の経済行動に対する民主的なガードレールを強化することによって、中国政府の息のかかった経済主体による、不公正な取引慣行や国家安全保障上の脅威の取り締まりを狙いにしている。
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=========[引用開始](p379-380)=========
クリントン政権は天安門事件から四年後に誕生している。アメリカがまだ中国に対する一連の厳しい政策を実施していたころで、大統領選では、クリントンも対中強硬路線を訴え、中国政府が人権問題を改善しない限り、中国に約束している対米貿易の最恵国待遇を打ち切ると公約していた。しかし、就任から二年も経たないうちに、クリントンはこの方針を放棄した──
(中略)
貿易を断ち切って中国を孤立されるのではなく、自分の目的はむしろ、「経済交流だけにとどまらず、文化や教育面などのさまざまな交流に中国を関与させながら、人権問題でも積極的な取り組みを続けることだ」と述べた。
(中略)
トランプが大統領に就任するまで、クリントン以降の政権がいずれも踏襲するアメリカの方針になった(12)。
これがアメリカの「関与政策」の要点だった。中国をグローバルな政治制度や市場に取り込むことで民主的な価値観に触れさせ、必然的に自由民主主義へと引き寄せ、この国の制度や社会そのものを変えていく戦略である。
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=========[引用開始](p387)=========
中国が狙っているのは、経済的威圧による非自由主義的な地政学的目標の達成である。
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=========[引用開始](p407)=========
国境を越え、可能なかぎり検閲を拡大する力と、その権利が自分にはあると中国が信じているのはもはや火を見るよりも明らかで、それを実現するため、あらゆる手段を目いっぱい駆使している。
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=========[引用開始](p409)=========
中国に対するバランスを欠いた、過度な依存を避けるという姿勢だ。製品の販路の見直しや新たなサプライヤーの開拓という短期的なリスクの軽減などと同様、中期的なリスクの軽減は、貿易を多様化するためにより慎重に計画した行動をとりつつも、競争力のある戦略的生産分野で長期的な足場を維持していかなくてはならない。
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=========[引用開始](p412)=========
企業と政府のあいだにこれまで以上に強固なコミュニケーション・チャネルがあれば、企業に対する協力を強いる要求が突き付けられた場合、個々の企業は論争を国レベルに高め、官民あげての組織的な対抗が可能になる。
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【参照情報】
べサニー・アレン(著), 秋山 勝(翻訳). 中国はいかにして経済を兵器化してきたか Kindle版.2024年6月3