<概略>(Amazonより引用)
- 中国のアジア太平洋覇権を阻止せよ!
- 米国が「世界の警官」だった時代は終わった。防衛戦略の優先順位は主敵を中国だけに絞り、米日印豪韓で反覇権連合を形成することだ。
- 「パワー」の集積地アジアで覇権を握りつつある中国。台湾統一を「歴史的必然」と明言し、軍事侵攻の危機がしのびよる。もはやアメリカ一国だけではその勢いを止めることはできない。では、日本はどう立ち向かうべきか? アメリカの対中戦略を変えた若き俊英が提言する。
<備忘録>
- 「拒否戦略」とは、「中国の覇権を拒否する」こと、つまり柔軟で適応可能な「優位なバランス・オブ・パワー」の維持によって、中国の軍事的な侵略を拒否すること。
- 今やアジアは世界のGDPで40~50%を占めており、中国に関してはアジアの中で50~60%のGDPを占める存在になっている。
- 「購買力平価(PPP)」で比較した場合、2024年ではアメリカのPPP GDPは約28.8兆ドルなのに対し、中国は35.3兆ドル。市場規模では中国よりもアメリカの方が大きいものの、経済力としては中国のほうが大きい。
- 中国が強大な存在として東アジアで台頭してくると、それは日本にとって死活的な問題となる。
- わざわざ北京と(軍事的な)生存競争を行う必要はなく、北京から「我々の境界線」や「バランス・オブ・パワー」を尊重してもらえさえすればよい。
- 最終的には「デタント」につながるが、デタントは軍事的な「強さ」を通じてしか実現できない。
- 日本こそがアメリカにとっての最も重要な同盟国だと考えているが、最大の課題は、日本、(そしてアメリカ)が、その戦略に同意しているにもかかわらず、それを実現するために必要なことを実行していないこと。
- 中国との「冷戦」は、いつ「熱戦」に変わってもおかしくない。採用された軍事戦略によって、結果的に冷戦が冷たいまま続くことになるだけ。もし私たちが準備していない場合、中国がそれを勝利の条件が整ったと見なす可能性が高い。
- アメリカは同盟国を守らなければならないが、その代わりに同盟諸国にも自ら責任を持って対処してほしい。具体的には、日本の防衛費をGDP比3%にすることが望ましい。
- 「有事が起こるか・起こらないか」に賭けるのではなく、「起こる前提」で考えることが重要。習近平の頭の中を予測する意味はなく、何もしないという可能性は認めるが、有事への準備はしなければならない。
- 第二次世界大戦を受けての正しい選択は「平和主義」ではなく、「集団防衛」。
- アメリカの現状で気になるのは、装備品の調達能力が足りていないこと。中国は米国の200倍以上の造船能力を有している。
- 今からアメリカが再工業化しようとしても十分なスピードで成し遂げることは難しいため、「多国籍」プロジェクトにする必要がある。
- 一方で、アメリカ政府の感情的には歓迎されないため、全体的な再工業化計画を提案する。海外に逃げていた製造業をもう一度国内に復活させて産業基盤を強化する。
- 日本は何のために防衛費を増強しなければならないのか?アメリカ政府ではなく、説得すべき相手は中国であるはず。
<考察>
- コルビーは、第二次トランプ政権で、国防総省のナンバー3にあたる国防次官(政策担当)に指名されている。ナンバー1、2が共に軍事の経験が浅いことから、今後の米国の軍事戦略は、事実上、このコルビーが担うと見られている。実際のところはわからないものの、事実、トランプ政権はロシアの軍事侵攻等の停戦や対中強硬姿勢、造船業などの産業の国内回帰(再工業化)政策を打ち出しており、本書で述べられていることと一致している部分も多い。そうした意味では、トランプ2.0における軍事・防衛戦略の方向性を理解するには必読書であると思われる。
- トランプ2.0における関税を始めとした各種政策は、企業にとってリスクとオポチュニティーの両面が存在するが、「再工業化」は米国への投資や政府間交渉における交渉カードとして、賢く利用する必要がある。とはいえ、一企業としては足元及び将来がUncertaintyな中では投資含めたビジネス戦略が立てられないため、日本政府としっかりと連携し、必要な情報を米国政府へインプットしていく。
- 個人的には、最近では少しずつ「軍事・防衛」の議論がされるようになってきた印象があるものの、まだまだ“タブー視”される風潮や雰囲気があるようにも感じている。コルビー氏の主張に全て同意するわけではないが、日本の平和維持、そして世界で戦争等による犠牲が少しでも少なくすることに対して、日本は何をすべきなのか、何が出来るのか、ソフトパワーだけでなくハードパワーも含めてよりオープンで活発な議論は必要だと考えさせられた。
- 一方で、中国との関係で言えば、米国と日本とでは地理的・経済的つながりにおいて必ずしも完全に利害は一致しない。中国への“対応”は慎重に行わなければ、エコノミック・ステイトクラフトによって日本の産業・経済に影響が及ぶリスクも考えられる。実際、中国は米国への報復措置としてレアアースの輸出規制を行っており、自産業でも影響が出始めている。
- 日米、米中、日中関係と、他の国・地域も巻き込んだ「バランス・オブ・パワー」は、普段の生活では意識したり、考えたりすることは少なく、且つ個人で何か解決できるものではないが、自分の子どもたちにより良い未来を繋げていくために自分は何が出来るのか、考えるよい機会となった。
=========[引用開始](p13)=========
私が提唱した、今後、中国に対してとるべき最適な戦略、それは「拒否戦略」(Strategy of Denial)というものです。 「拒否戦略」とは、ひとことで言うと「中国の覇権を拒否する」ということです。ではその拒否戦略とは何か。
後に詳しく述べますが、中国がアジアで覇権を確立する際には一帯一路などの経済的覇権だけでは不十分であり、必ず軍事的な侵攻と占領を仕掛けてくるはずです。その先駆けが南シナ海での基地建設であり、今後、最も危険性が高いのが台湾侵攻でしょう。それに対して、中国の侵略を「拒否」する、侵攻を不可能にするための圧倒的な能力を備え、それによって地域のバランスを安定させることを目指す必要があります。
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=========[引用開始](p13-14)=========
経済力がパワーの根源であり、さらに、そこから軍事力が生まれます。
(中略)
です。アメリカや中国のソフトパワーと呼ばれるものは、究極的に言えば、両国の経済的な生産力が強いからこそ生み出されたものです。
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=========[引用開始](p14-15)=========
経済力を計る場合、「購買力平価(PPP:purchasing power parity)」で比較するほうがGDPよりも戦略的な意味で国家の力を正確にあらわしていると言えます。
(中略)
2024年ではアメリカの購買力平価GDPは28兆7810億ドルですが、なんと中国は35兆2910億ドル。つまりアメリカは市場規模という点では中国よりもまだ大きいものの、中国のほうが経済力としてアメリカよりもやや大きいことがわかります。
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=========[引用開始](p18)=========
中国が強大な存在として東アジアで台頭してくると、それは日本にとって死活的な問題となるわけです。
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=========[引用開始](p22)=========
私は、「バランス・オブ・パワー」の状態を追求すること、つまり基本的にはアメリカに有利な勢力均衡の状態を維持することだと考えています。この根本にあるのは、「他国が彼らの意志をアメリカに押し付けることができるほど強大になることは望まない」という考えです。
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=========[引用開始](p29)=========
ここで重要なのは、私が提唱している反覇権連合が狙っている「目標」が、中国打倒、すなわち「中国を弱体化させる」、あるいは「中国の体制転換をさせる」ことではないことです。
(中略)
しかし私の提唱している目標は、中国のアジアにおける覇権を「拒否」すること、つまりその侵略を止めることにあります。
(中略)
拒否戦略の目標は、柔軟で適応可能な「優位なバランス・オブ・パワー」の維持だからです。
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=========[引用開始](p30)=========
わざわざ北京と生存競争を行う必要はありません。これは日本にも台湾にも当てはまります。われわれは北京から「我々の境界線」や「バランス・オブ・パワー」を尊重してもらえさえすればいいのです。
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=========[引用開始](p31-36)=========
こうした中国を相手にしたゲームのゴールは彼らの戦略を不可能にするパワーバランスの構築であり、最終的には「デタント(緊張緩和)」なのです。
ただし、そのデタントは、軍事的な「強さ」を通じてしか実現できません。
(中略)
私が主張したいのは、「中国の覇権を阻止するためには、軍事をきちんとしなければならない」ということです。
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=========[引用開始](p42-43)=========
その同盟の主要なメンバーは日本と韓国、そして第一列島線を下って台湾、フィリピン、そしてオーストラリアです。
(中略)
ところが最大の課題は、日本、そしてアメリカが、その戦略に同意しているにもかかわらず、それを実現するために必要なことを実行していないということです。
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=========[引用開始](p47)=========
我々は「決定的な戦域」において軍事力状況にもっと真剣に取り組まなければならないし、中東やウクライナに目を奪われるのではなく、アジアに集中しようということです。
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=========[引用開始](p49)=========
拒否戦略が伝えようとしているメッセージは「侵略を拒否できるようにする必要がある」ということだけです。
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=========[引用開始](p61-62)=========
現在直面している中国との冷戦は、いつ「熱戦」に変わってもおかしくありません。
(中略)
私の主張は「冷戦になるという想定はできない」というものです。
(中略)
結果的に、そこで採用された軍事戦略によって、冷戦が冷たいまま続くことになったわけです。
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=========[引用開始](p86)=========
英語ではよく「馬の前に荷馬車をつなぐ」という表現をしますが、要するに順番が逆なのです。まず先に考慮しておかなければならないのはハードパワーのバランスなのです。
(中略)
TikTokについては、私たちが今持っている政治的なエネルギーをわざわざ投じるべき問題だとは思えません。
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=========[引用開始](p91)=========
逆に中国からすれば、自国の目的を達成するためには日本を中国の影響下におさめる必要が出てくる。
(中略)
また、アメリカはナンバーワンという立場に慣れてきたため現状に対する危機感が乏しく、一方で中国は「屈辱の百年」で苦しんでいる。つまり、中国のほうが現状変更へのモチベーションが強いということになります。これは、日本にとって本当に重要なことなのですが、怖いのは日本政府がこの重要性を本当に理解しているかどうかわからないという点です。
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=========[引用開始](p99)=========
私の主張は「アメリカは同盟国を守らなければならないが、その代わりに同盟諸国にも自ら責任を持って対処してほしい」ということです。
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=========[引用開始](p105)=========
ここで理想的なのは、私たちが侵略をともに拒否できることを、中国に知らしめ、侵略を始めるのは止めておこうと決断させることです。もっとも『拒否戦略』の中で私はこの閾値が実際には固定的なものではなく、むしろ動的なものであることを詳しく説明しています。
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=========[引用開始](p118)=========
もちろん戦争が起こるかどうかは断言できませんが、以下の2つのことは確実に言えます。第一に、私たちは準備する必要があるということです。そして第二は、もし私たちが準備していない場合、中国がそれを勝利の条件が整ったと見なす可能性が高いということです。
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=========[引用開始](p118-119)=========
ところが多くの企業は「有事が起こるか・起こらないか」に賭けているのです。「起こる前提」では考えていません。これがビジネス界の発想です。
(中略)
したがって、私にとって習近平の頭の中を予測する意味はありません。習近平が何もしないという可能性は認めます。それでも私がここまで述べてきたような理由を元にして、有事への準備をしなければならないのです。
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=========[引用開始](p128)=========
私は日本こそがアメリカにとっての最も重要な同盟国だと考えています。
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=========[引用開始](p133)=========
今後の防衛モデルには、自国の防衛を主体的かつ積極的に遂行でき、アメリカと対等に活動できる日本が必要なのです。つまり単に兵站や基地を提供するだけではなく、「統合された軍事力を持った日本」でなければなりません。それが私のビジョンです。
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=========[引用開始](p135)=========
第二次世界大戦を受けての正しい選択は「平和主義」ではないはずです。正しいのは集団防衛なのです。我々が学んだのは、潜在的な侵略者たちがいざ行動を起こす前に、それを抑止するために集団防衛の体制を持っておかなければならない、ということです。
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=========[引用開始](p136)=========
とりわけアメリカの現状で気になるのは、装備品の調達能力です。先にも述べたように、中国は米国の200倍以上の造船能力を持っています。そして、世界の鉄鋼生産量の大部分を占めています。米国が世界最強の産業国家であった冷戦時代のイメージを前提に戦略を考えるような余裕はもうないのです。
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=========[引用開始](p137)=========
今からアメリカが再工業化しようとしても、十分なスピードで成し遂げることはできないでしょう。
(中略)
そのため、これは一国だけで対処できるものではなく、文字通りの「多国籍」のプロジェクトを必要とするはずです。
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=========[引用開始](p137)=========
しかし同時に、巨大な軍産複合体を持つアメリカ政府がそれを感情的に歓迎しないであろうこともわかっています。
(中略)
そこで私たちが行うべき理にかなったこととは、全体的な再工業化計画を提案することです。つまり、海軍の増強に必要な造船業を国内に回帰させるなど、海外に逃げていた製造業をもう一度国内に復活させて産業基盤を強化するのです。
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=========[引用開始](p138-142)=========
そうしたなか、私の見解では、日本の防衛費をGDP比3%にすることが望ましいと思っています。
(中略)
日本は何のために防衛費を増強しなければならないのでしょうか?アメリカや私を説得するためではありません。日本が説得すべき相手は中国です。それなのに、たったこれだけしか軍備の増強をせずに、中国に「日本に手出しをするな」と説得できるとは私には思えません。
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【参考資料】
アジア・ファースト 新・アメリカの軍事戦略 (文春新書) Kindle版.エルブリッジ・A・コルビー.2024/10/18.文藝春秋
https://www.amazon.co.jp/dp/B0DK2Z1QZS/
(最終閲覧日:2025年5月25日)