<概略>[*1]
- 「国際政治学」とは、国家を主たるプレイヤーとする国際社会の政治を分析し、理論付けようとする学問です。しかし、冷戦終結やソ連崩壊、9.11同時多発テロ、「アメリカ・ファースト」など、生身の国際政治は、そんな理論を打ち砕き、私達の常識や予測を覆します。それでも、政治家、外交官、学者はもちろん、メディアや企業も世界の動きを注視し、先を読むことを求められます。本書は、そのための道具と枠組みを提供します。ホッブズ、マキャベリの昔から、現代の日米中の政治を動かす普遍の理論まで、日々のニュースを読み解く基本をわかりやすく解説。世界を読み解く方程式を学んで、ビジネスの最適解を身につけてください。
<備忘録>
- 国際社会は、国内社会に比べ未成熟で、主権国家(リヴァイアサン)以上の権力主体がない。そのため、主権国家が権力闘争を繰り広げる無秩序(アナキー)な状態にある。
- 「あるべき」姿を追求する理想主義=リベラリズム。「ある」姿を見極めようとする現実主義=リアリズム。国際情勢を分析する上では、リアリズムが有用。
- 国際政治を動かす3要素は、パワー・国益・価値(道義)。米国外交の底流には、道義を重視したウィルソン大統領の理想主義があり、それは「孤立主義」にもなれば、「国際主義」にもなる。
- 国家の「主権」は原則平等だが、国家の「パワーの分布」は平等ではない(大国と小国)。また、国際政治おけるパワーは相対的であり、変化もする。
- 国が戦争も辞さない姿勢で守り抜く「死活的国益」として、「国家・国民の安全」、「領土の防衛」、「主権の確保」が位置付けられている。
- 国益の決定過程では、国家・国民全体の利益に反映する「全体性」の理論が必要で、一部の利益が全体の利益を損なうことのないように注意すべき。
- スパイクマンは、マッキンダーの「内側の三日月地帯(ハートランド周辺の沿岸地帯)」を「リムランド」と呼び、人口や資源の豊かなリムランドこそが重要であると指摘。米国の国益はユーラシア大陸のパワーの均衡にあると認識した。
- マハンは、海を制する者が世界を制すとして、シー・パワーによって制海権を握ることが肝要だと説いた。
- 米国が恐れたのは、1つの大国が欧州やアジアの覇権を握ること。モーゲンソーは、米国の安全への脅威は西半球(南北アメリカ大陸)以外から来ると論じ、この認識に立つ戦略の一つがオフショア・バランシング。
- ルトワックは、経済的手段を用いて地政学的目的を実現する外交戦略或いは分析枠組みを論じた(地政学から地経学へ)。
- 「自由で開かれたインド太平洋」戦略は、アジアとアフリカの「2つの大陸」と太平洋とインド洋の「2つの大洋」の交わりが国際社会の安定と繁栄のカギを握るとの認識に立つ。
- リアリズムの安全保障政策論として、①自国パワーの増強、②同盟(①で不十分な場合)がある。
- 日本の「専守防衛」。「相当性の原則」として、自衛権の下で保有できる防衛力は可変的である(周辺諸国の軍事力増強に合わせる形)。
- ある国が軍事力を強化すると、その周辺国はこれを脅威と捉え軍事力増強を図る。その結果、望まずとも衝突につながるほどの緊張を生み出してしまう。これが「安全保障のジレンマ」。
- 中国の南シナ海での行動は「サラミ戦術」と表現される。利害関係国、とりわけ、米国の強い物理的反撃を招くようなレベルの措置は控え、その限度以下の低強度の措置を段階的に取ることによって、戦わずして現状変更とその既成事実化を図ることを意味する。
<考察>
- 国際社会においては、望まずとも世界各地で紛争が起きている。様々、複雑な背景があるだろうが、主権国家や「死活的国益」の考え方は、そうした紛争を考えるうえで根底として理解しておくべき考え方である。
- 米国の外交戦略に関しては、リムランドやシー・パワー、オフショア・バランシング等の考え方がベースとなっており、現在の米国外交戦略を見る上では、理解しておくべき重要な考え方だと感じた。こうした歴史的背景を理解しておくことで、米国政府の判断や行動一つ一つが線につながり、面として理解することが出来る。
- 4月上旬、岸田総理が国賓待遇で訪米したが、現在の国際情勢(ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエル・ガザ問題、中国の台頭)を踏まえると、日米同盟の強化は当然の動きと言える。“かつてないほど強固”な日米同盟を体現していくためには、日本にも相応の覚悟や構えが必要になってくるのではないか。私自身(また、恐らく広く、一般的な意見として)は決して力や武力行使を望んでいるわけではないため、日本政府としてはますます、見捨てられず・巻き込まれすぎずのバランス感覚が必要になってくると理解した。
- 現業に関する学びでいえば、「全体性の理論」が良い気づきとなった。自社では部門がサイロ化されており、往々にして部分最適な判断となってしまうことが多々ある。VUCA、そして100年に一度の大変革期の時代において、一部(各部門)の利益が全体(会社)の利益を損なうことのないよう、全社最適な視点に立った判断を行っていきたい。
=========[引用開始](p18)=========
国際社会は、国内社会に比べ未成熟で、主権国家以上の権力主体がないため、本質的に、主権国家すなわちリヴァイアサンが権力闘争を繰り広げる無秩序(「アナキー」)な状態にある。
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=========[引用開始](p20)=========
国際情勢を分析する上では、「あるべき」姿を追求する理想主義=リベラリズムより、「ある」姿を見極めようとする現実主義=リアリズムが有用である。
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=========[引用開始](p23)=========
EUは(イヌマエル・)カントが夢見た人類共同体への一歩
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=========[引用開始](p32-p33)=========
国際政治を動かす3要素:パワー・国益・価値(道義)
国際政治において価値の役割は小さくない。米国外交の底流には、道義を重視したウィルソン大統領の理想主義がある。それは、「悪しき世界」から「良き米国」を守るという「孤立主義」にもなれば、米国の進歩的価値を世界に広めるという「国際主義」ともなった。
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=========[引用開始](p34)=========
第一に、国家の「主権」は原則平等だが、国家の「パワーの分布」は平等ではない。主権国家以上の権力主体が存在しない「アナキー」な国際社会においてパワーの差(大国と小国)は決定的だ。国際政治が「権力政治」と言われるゆえんだ。
第二に、国際政治おけるパワーは相対的であり、変化もする。
(中略)
問題はパワーをどう測るかである。モーゲンソーは、国力の要素として、地理、天然資源、工業力、軍備、人口、国民性、国民の士気(世論)、政府の質(外交の質)を挙げた。
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=========[引用開始](p39)=========
国が守るべき最重要利益とは
・国家・国民の安全
・領土の防衛
・主権の確保
=死活的国益
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=========[引用開始](p46)=========
国益の確定において重要なのは、戦争も辞さない姿勢で守り抜く「死活的国益」を明確にすることである。
ドナルド・ニューヒターライン(1925-)は、長期的・基本的国益(「不変の国益」)を、①自国の安全と存立を維持する「国防上の国益」、②貿易などを通じて国家の繁栄を維持・拡大する「経済的国益」、③平和な国際環境を維持・増進する「世界秩序としての国益(国際的国益)とし、①を死活的国益に位置付けた。
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=========[引用開始](p48)=========
国益の決定過程では、国家・国民全体の利益に反映する「全体性」の理論が必要で、一部の利益が全体の利益を損なうことのないように注意すべきだ。同時に不利益を被る国民への誠意ある対応も必要である。例えば、「国家の利益」という全体の理論がその一部である「地方の利益」と対立する場合である。
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=========[引用開始](p60)=========
「ある(to be)」と「あるべき(ought to be)」を峻別し、世界をあるがままに捉える政治思想(現実主義)は、「目的のためには手段を選ぶな」といった政治術(マキャベリズム)とともに、欧州の政治に大きな影響を与えた。
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=========[引用開始](p100)=========
マッキンダーの理論は、ニコラス・スパイクマン(1983-1943)の「リムランド(rimland;縁辺地帯)」理論によって蘇る。スパイクマンは、第二次世界大戦中に書いた『平和の地政学』(1944年)において、マッキンダーの「内側の三日月地帯(the Inner Crescent;ハートランド周辺の沿岸地帯)」を「リムランド」と呼び、人口や資源の豊かなリムランドこそが重要であると指摘した。同書によれば、ハートランドにあるランド・パワーと「外側の三日月地帯」にある英国や日本などのシー・パワーの間にあるリムランドは緩衝地帯(バッファーゾーン)であり、海と陸の両方を見る両生類国家である。
米国の国益はユーラシア大陸のパワーの均衡にあると認識し、「リムランド統一への動きを阻止する国家たちとの協力」を提唱した。そして、「リムランドを支配するものがユーラシアを制し、ユーラシアを支配するものが世界の運命を制す」と結論づけた。
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=========[引用開始](p108)=========
「シー・パワー」の概念を確立したのは米軍人アルフレッド・マハン(1840-1914)である。マハンは、『海上権力史論』(1890年)において、海を制する者が世界を制すとして、海軍力、通商・海運、海外領土・市場を総合した国力であるシー・パワーによって制海権を握ることが肝要だと説いた。
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=========[引用開始](p112)=========
海の地政学において重要なのがチョーク・ポイント(choke point)となる国際海峡である。
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=========[引用開始](p118)=========
米国が恐れたのは、1つの大国が欧州やアジアの覇権を握ることによって、米国の安全を脅かすことであった。モーゲンソーは、米国の安全への脅威は西半球(南北アメリカ大陸)以外から来るもので、それは欧州列強による脅威であると論じた(『米外交の行き詰まり』/1962年)。この認識に立つ戦略の一つがオフショア・バランシングだ。欧州やアジアにおける勢力均衡を維持するためには、同盟国等との負担分担ではなく、負担移動によってなされるべきで、直接のバランシングが必要となった時に初めて大洋を越えた「オフショア(沖合い)」から軍事力を投入することになる。
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=========[引用開始](p124)=========
中国の海洋進出によって、地政学リスクが増大している。
第一に、エネルギー資源や主権が絡む領土問題では、ナショナリズムを背景とする強硬外交や力の行使による現状変更が顕著で、周辺諸国との対立や摩擦が激しくなっている。
第二に、「戦略的辺境(疆)」において、中国軍の活動が活発化しており、「第一列島線」の内外で米国との角逐が激化している。
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=========[引用開始](p137)=========
「地政学から地経学へ」(1990年)(エドワード・ルトワック)
経済的手段を用いて地政学的目的を実現する外交戦略或いは分析枠組み
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=========[引用開始](p140)=========
「自由で開かれたインド太平洋」戦略は、アジアとアフリカの「2つの大陸」と太平洋とインド洋の「2つの大洋」の交わりが国際社会の安定と繁栄のカギを握るとの認識に立つ。その柱は、航行の自由を含む「法の支配」や自由で開かれた市場経済に基づく国際秩序の維持であり、防災・(大量破壊兵器の)不拡散や「質の高いインフラ整備」(連結性強化)による経済繁栄の追求などである。
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=========[引用開始](p145)=========
リアリズムの安全保障政策論
①自国パワーの増強
まずは自らの防衛力強化
②同盟(①で不十分な場合)
日米同盟+現行秩序維持を望む諸国との結束
「遠くの力とより強く結びついて、近くの力と均衡をとる必要」(高坂正堯/1965年)
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=========[引用開始](p153)=========
「専守防衛」
日本国憲法第9条
「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」
「自衛のための最小限」の防衛力の3要件
①自国に対する急迫不正の侵害がある
②ほかにこれを排除して国を防衛する手段がない
③必要な限度にとどめる
「相当性」の原則
自衛権の下で保有できる防衛力は可変的である(周辺諸国の軍事力増強に合わせる形)。
「自衛」の持つ曖昧性と危険性に注意。
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=========[引用開始](p156-p157)=========
ある国が自国の防衛のために軍事力を強化すると、その周辺国はこれを脅威と捉え、軍事力増強を図る。その結果、実際には双方とも軍事的衝突を望んでいないにも拘らず、衝突につながるほどの緊張を生み出してしまう。これが「安全保障のジレンマ」だ。
(中略)
国際政治では、不確実な「意思」より「能力」が重要
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=========[引用開始](p159)=========
《同盟の相互主義》
A=B同盟の信頼低下は、A=C同盟に伝播。同盟の維持には、相互の信頼を確固とする首脳会談や共同軍事演習など平時の確認努力が必要
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=========[引用開始](p188)=========
中国の南シナ海でのこうした行動は「サラミ戦術」と表現される。それは、サラミをスライスするように、利害関係国、とりわけ、米国の強い物理的反撃を招くようなレベルの措置は控え、その限度以下の低強度の措置を段階的に取ることによって、戦わずして現状変更とその既成事実化を図ることを意味する。
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【参照情報】
[*1]小原 雅博.大学4年間の国際政治学が10時間でざっと学べる Kindle版.2021年1月21日
(最終閲覧日:2024年4月21日)