<概略>[*1]
- すでに戦時に突入してしまった世界で生きのびるための新常識。
- トランプ再選、中東での戦争拡大と台湾新政権にともなう緊張激化。
- 中国とロシア、北朝鮮に大きなチャンスが訪れる中、日本はどうすればよいか。
- いま待望される国際政治のリアリズムに基づいた、日本人向けの最新解説!
- 最悪の事態に対処できるようになるために最低限知っておくべき、世界を動かす論理。
- 最近の国際ニュースを題材に、アクションとリアクションの逆説的論理、戦争の三位一体、シーパワー優位の継続、抑止破綻、大国の恐怖、三大戦略地域、攻撃の限界 点、セオリーによるモデル化・ウォーゲームの重要性など、国際社会では常識なのに日本ではなかなか教わらない戦略論の基本概念をわかりやすく紹介する、画期的な入 門書
<備忘録>
- ビジネスの世界では、2024年大統領選(及びその結果を受けた先4年、8年)を向かえるにあたり、米中の動向はますます重要となってきている。本書は「新しい戦争の時代」をテーマに書かれた本であるが、過去から現在に至る主に米国の外交戦略(特に対中)がとても分かりやすくまとめられている。加えて、それら戦略はVUCAと言われる現代において、ビジネスの考え方に対し示唆に富む内容であり、「ビジネスの視点」を中心に備忘録及び考察を行う。
- 戦争における戦略もビジネスにおける戦略も「相手の存在」を認識することが非常に重要である。この「相手」という存在は、アクションをしかける自分たちに対して、必ずリアクションをとる。
- ビジネスのフレームワークでは5F分析が当てはまる。事前に「相手」を認識し自社に対して脅威となることを想定しておき、それに対してどのようなアクションを取るか、2手、3手…先を考えておくことが重要である。
- 要は、「敵を知り、己を知る」ことが重要性となる。さらに言えば、「敵への愛」を持たなければならない。愛があれば、例えば中国の意図や政治的背景、文化や歴史、民俗への理解にまで及ぶ深い洞察ができるようになる。
- グローバルでビジネスを行うにあたっては、米中対立の地政学リスクを考える必要があるが、同時にアメリカこそが世界最大の「地政学リスク」であるという状態であることを理解しておく必要がある。
- リベラル・保守で分断が進むアメリカを団結させられるのは外からの脅威に対する強い緊張感くらいであり、それが中国である。
- アメリカの世界戦略は「リムランド」と呼ばれるユーラシアの周辺部に、①西欧、②中東、③東アジアという3つの「三大戦略地域」を想定している。
- 現在、バイデン政権下での対中戦略の主流は戦略的競争派であり、Small Yard, High Fenceである。AIや量子、半導体が該当するが、直近では電気自動車やCV(コネクティッドビークル)も注目されている。
- 自社の「強み」であったことが外部・内部環境の変化により「弱み」に変わることがある。兵站が伸び切ってしまうどこかの時点で攻撃する側の戦力が落ち、この「時点」のことを「攻撃の限界点」と呼ぶ。
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常に変化する現実を認識し、強みが弱みに変わる限界点を見極め、戦略を変更していくことが必要であり、常に現実に合わせた修正を行っていかなければならない。
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戦略家の故コリン・グレイの格言として、「サプライズは避けられないが、それが及ぼす影響は避けられる」がある。様々なシナリオを想定することは重要であるが、本当に勝負が分かれるのは、その事態への迅速な対処能力の方である。
<考察>
- 自社はアメリカが最重要市場の製造業で、サプライチェーンは中国への依存度が高いこともあり、アメリカの対中外交戦略の考え方はとても良い学びとなった。
- 本書で紹介された戦略の数々は抽象度高く、とても大局的な内容であり、日々のビジネスに対しても示唆に富む内容であった。いわれてみれば基本的なことではあるが、ビジネスにおいて「敵を知り、己を知る(相手の存在を認識)」ことや自社のアクションに対して競合のリアクションが必ず存在すること、は大変重要な視点である。また、変化が激しくVUCAの現代、自社の強みが長く続くとは限らない。常に内外の変化を認識し、攻撃の限界点を見極め、現実に合わせて柔軟に対応していかなければ、生き残りはない。
- 加えて、大統領選に関しても、中国排除を意図した政策の数々に関しても、様々なシナリオは検討するが、それらが実際に発生した際の影響を最小限に抑えられるような「迅速な対処能力」には目が向けられていないと感じた。
- 今私はアメリカワシントンDCにて政府渉外を担当しているが、日本の本社に対して米国ビジネスが最適な方向へ向かうようなリスクヘッジを提案している。本書で学んだことを意識するとともに、有事の際の「迅速な対処能力(影響を最小限に抑えること)」という視点で改めて考えながら日々の業務にあたりたい。
=========[引用開始](p3)=========
戦略論における最も大事な要素を忘れてしまっているような気がしてならない。最も大事な要素、それはルトワックのような戦略論の大家たちが口を酸っぱくして強調する「相手の存在」である。
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=========[引用開始](p4-5)=========
「リアクション」を考慮してこその戦略
なぜ戦争や軍事では、このように本来こちらが計画した通りに行かない、いわば逆説的な事態が発生するのだろうか? それは戦略における実にシンプルな現実として「相手が存在する」からだ。
この「相手」という存在は、アクションをしかける自分たちに対して、必ずリアクションをとる。
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=========[引用開始](p42)=========
アメリカの戦略家であるエドワード・ルトワックは、意思を持った者(アクター)同士が互いに相手を出し抜き、殺し殺されないようにすることによって状況がダイナミックに進展するというメカニズムを「パラドキシカル・ロジック」(逆説的論理)と定義づけた。これは実に画期的な論理なのだが、概念としては非常にわかりづらいため、私が人に説明する際には「アクションとリアクションがある」とすることにしている。これにより、戦争や戦略における「敵対する二者の決闘」という本質がわかりやすくとらえられる。
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=========[引用開始](p52)=========
「ルート」の支配は権力そのもの 黒海のようなルート(通り道)の重要性というのは、地政学的な発想をする人間であれば誰もが当然のように着目する要素だ。というのも、貿易をはじめとする商業に使えるルートというのは、すなわちそのまま軍事作戦にも使えるからだ。
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=========[引用開始](p61)=========
日本のリーダーたちはこのような「見逃されていたリアクション」や、自らのアクションが引き起こすであろう影響を考慮できるような戦略的な視点を身につけておく必要があるだろう。
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=========[引用開始](p91)=========
一方で、極右側で不満を持った勢力は相変わらず存在している。その結果として、アメリカこそが世界最大の「地政学リスク」であるという状態は、根本的には改善していない。
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=========[引用開始](p92)=========
アメリカの混迷は国際社会にも暗い影を落としている。今のアメリカ人を団結させられるのは、外からの脅威に対する強い緊張感くらいのものだろう。
実に皮肉な発言だが、これは政治の分断にあえぐアメリカにとって、確かに「救世主」となる可能性がある。そしてその格好の存在が、東アジアで台頭し、アメリカが築いた国際的な秩序に挑戦する構えを見せている中国であることは言うまでもない。
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=========[引用開始](p93)=========
アメリカが20世紀前半から保持しているとされる世界戦略では、「リムランド」と呼ばれるユーラシアの周辺部に、①西欧、②中東、③東アジアという3つの「三大戦略地域」を想定している。
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=========[引用開始](p107)=========
現在の米国内の対中戦略:4つの派閥
1)戦略的競争派:現在の主流派(2018年~) ★多数派に
2)関与派:経済成長で民主化実現(1970-2020年代) 死滅
3)新冷戦闘志派:北京をつぶせ(1949年~) ごく少数派
4)競争的共存派:デタント、G2論(2022年~) ごく少数派
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=========[引用開始](p134)=========
・中国は数々の幸運によって劇的な経済成長と軍事費の拡大によりアメリカの覇権に挑戦しつつある。
・だが中国経済はいよいよ鈍化しつつあり、国力もピークを過ぎた。
・しかもその劇的な台頭に脅威を感じた周囲の国々に戦略的に包囲網をつくられつつある。
・これに焦った中国は、他の歴史上の大国たちを同じように対外的に危険な存在となる。
・このような危険な時代(デンジャー・ゾーン)は2030年まで続く。
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=========[引用開始](p141)=========
兵站が伸び切ってしまうとどこかの時点で攻撃する側の戦力が落ちる、ということを指摘している。この「時点」のことを「攻撃の限界点」と名付けたわけだが、これも戦いの中で強みが弱みに代わる現象を捉えたものだ。
(中略)
一時的な成功という強みも、弱みに変わってしまうことを心配しているのだ。
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=========[引用開始](p143)=========
・常に変化する現実をまず認識する
・強みが弱みに変わる限界点を見極める
・戦略を変更する
これは俗に「OODAループを回す」という意味で解釈される(Observe 観察、Orient 状況判断、Decide 意思決定、Act 実行をくり返して先の見えない状況下でも迅速に意思決定し行動する手法)。
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=========[引用開始](p150)=========
一定のセオリーを持つのも大事だが固執してはならず、常に現実に合わせた修正を行っていかなければならないということだ。
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=========[引用開始](p192)=========
戦略家の故コリン・グレイは『戦略の格言』(芙蓉書房出版)という戦略家としての心構えを記した貴重な著作の中で「サプライズは避けられないが、それが及ぼす影響は避けられる」という格言を提唱しつつ、さらにこう述べている。
(中略)
われわれは台湾有事のような「事態の予測」や「シナリオ」ばかりに目を向けがちだが、本当に勝負が分かれるのは、その事態への迅速な対処能力の方である。
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=========[引用開始](p213)=========
「戦略的状況」を想定できていない
第二に「戦略的な状況」を想定できていないという点だ。「戦略的状況」には必ず脅威となる競争相手の存在が欠かせないものだが、日本の報道ではまだそのような「戦略的な状況」は発生していないという前提であるため、必然的に「競争相手も存在しない」という設定になってしまう。
(中略)
これは先に述べた「敵を知り、己を知る」ことの重要性と共通する。さらに言えば、極端な表現に置き換えれば「敵への愛」が足りないといえる。愛があれば、中国の意図や政治的背景、文化や歴史、民俗への理解にまで及ぶ深い洞察ができるはずだ。
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【参照情報】
[*1]奥山真司.新しい戦争の時代の戦略的思考 Kindle版.2024年2月10日
(最終閲覧日:2024年3月18日)