「ゆき、ふらないね」
拙い口調で窓の外を見つめ、少女は言う。
夜空には散りばめられた星を嗤う様に満月が浮かんでいた。
「次期に嫌と言う程降るさ」
同じ様に窓の外を見つめ、男が言う。
「ほんとう?」
少女が夜空と同じ色の瞳で男を見た。
背後から月明かりを浴びた少女の表情(かお)は逆光で見えぬ筈なのに、その顔に光は当たらぬ筈なのに、夜空と同じ色の瞳がきらりと瞬いた気がした。
「その内、辺り一面を真っ新な雪が覆い尽くすだろう」
「まっさらなゆき……」
「そうなったら、外へ行ってみるか?」
再び窓の外を見る少女に、男が優しく問い掛ける。
景色を見つめる少女の瞳には、果たして何が映っているのか。もしかすると、真っ新な雪に覆い尽くされた世界を思い描いているのかも知れない。
嗚呼、けれど――
「ううん、いい」
拙い言葉が否定する。
それさえも想定していたのか、男が再び優しく問い掛ける。
「何故?」
「きえてしまうから、ゆきは。ふれてしまったら、きえてしまうから、だから、ここからみるだけでいい」
「……“消えてしまう”か」
小さな笑みを浮かべ、呟く。
それが聞こえたのか少女が振り返った。
そっと、外気に冷やされた腕が伸ばされ、背に回される。冷えた身体を温める様に頬を寄せ、その温もりに目を閉じる。
外気に冷やされているからこそ、男の体温を温かく感じているのだろう。でなければ、死人の様に白い男に温もりを求める筈がないのだから。
「わたしは、ここがいい」
ぽつりと、零された言の葉。
男がもう一度、笑みを浮かべる。
唇が緩やかに孤を描く。
「……良い子だ」
嗚呼、果たしてその隙間から見えたのは?
嗚呼、果たしてその細められた瞳の色は?
嗚呼……
「お前は永久に此処に居るが良い、私の腕の中に」
少女のその首筋に顔を埋めたその理由は?