ベッドに崩れ落ちた私の頬をざらりとした舌が舐めた。

普通の人よりも、敏感な肌だからか、割と痛い。

舐められた手なんかを見ると、何時も赤くなってるんだ。


「今日は、やけに優しいんだね」


未だ夏毛のままのさらさらな毛並みを堪能しながら、呟く。

残念なことに、昨夜の余韻と、今夜のテスト勉強の疲れで、手以外は動いてくれなかった。

ぐったりとしたまま、うっすらと目を開き、左右の色が違う瞳を見つめた。

何処か心配気な瞳がくすぐったい。


「今宵はもう眠りなさい」


舌で舐められると痛いことが解ったのか、それとも、既に頬が赤らんできたのか解らないけど、今度はそっと頬に擦り寄ってきた。

さらさらな毛が心地良い。

微かに香る獣の匂いが私は好きだった。


「でも、もう少しやらないと……」

「駄目だ」

「……でも」


身体はもう、自分でもすら自由にコントロールできない程、疲れきっているけれど、一時間もあれば十分に回復できる筈。

今までだってずっと、そうしてきたんだから。


「眠りなさい」


ゆったりとした声が、眠りへと誘う。

ああ、そう言えば、何時もそうだ。

恐い程に静かな夜も、恐い程に鳴り響く雷雨の夜も、何時も彼が傍にいて、何時もこの声で私を寝かせてくれる。

私にとって、彼の声は、唯一の子守唄だった。


「眠れないのならば、眠れるまで私が傍に居よう」


ぼふんとまた、部屋が煙に包まれる。

――温かい。

抱き寄せる腕の意のままに、そっと近づいて、その厚い胸板に頬を寄せる。


「ふっ……まるで、君の方が猫の様だ」


ゆっくりとした、ゆったりとした声音。

頭を撫でる様に髪を梳く手が心地良い。

うっとりと目を瞑れば、自然と遠のく意識。


「おやすみ、私の愛しい人」


額にそっと、口付けが降り注ぐ。

おやすみ、と返したつもりだったけれど、それが彼に届いたかは解らない。

ただ、そっと強くなった腕が、その答えを示しているのかも知れない。