「いいよねぇ、猫はテストとか無くて」

「ふっ、羨ましいか?」


飼い猫の銀光する毛を撫でながら言うと、瞼の裏に隠れていた筈の瞳が私を見ていた。

左右で色の違う瞳に、思わずぞくりとした。


「別に……羨ましい訳じゃないけど、さ」

「私には羨ましいとしか聞こえないが?」


見透かす様な視線。


「――猫の癖に、生意気!」

「うあっ!」


どきどきと脈打つ心臓。

動揺を隠そうとして、飼い猫の尻尾を引っ張る。

普段、滅多に聞かない悲鳴にも似た声の後、ぼふんと煙が部屋に充満した。

――瞬間、抱き寄せられる身体。


「ちょっと、なんで人型になってるのよ!」


そう、この猫は普通の猫ではないのだ。

尤も、会話をしている時点で気付いているかも知れないけど。

何故かきちんと服を着ている事が気になったが、あれは“毛皮”らしい。……毛皮刈ったら、裸になるのかな?


「尻尾を引っ張るとは、良い度胸だ」


オッドアイが、妖しく光る。

ぞくりと腰の辺りが疼いた。


「ちょっと、待って。あ、謝るから、謝るから!」

「待たん」

「待ってってば! 私、勉強しなきゃ……」


骨張った大きな手が、腰を撫でる。

その手を退かそうとすれば、猫らしく、かぷりと耳朶に噛み付かれた。


「勉強ならば、私が教えてやろう」


鼓膜を打つよりも先に、脳に直接響く様な声。

ぞくぞくとした感覚が止まない。


「さあ、良い子だから……私に堕ちなさい」


嗚呼、飼い猫に手を噛まれた気分だわ。