「ちょっときて」
通夜は終わり
会場がほぼ親族のみになったころ
部屋の後ろで祭壇を向いて立っている僕をみつけて母は言いました。
「ついてきて」
母はパイプ椅子の間をとおり抜けて
僕を目を覆うほどの白い眉毛をもった老人の前に連れて行きました。
老人は杖に両手かけて椅子に座られて
おり気品が漂っています。
母は老人に向かい
「これが私の息子です」
と丁重に挨拶。
そして僕に
「この方が私たちの仲人さん」
と。
おぉ。
「お世話になっております。」
僕は全く世話になっていないのですが
咄嗟に亡き父に代わって発したことばでした。
「そうか、そうか」
老人は全てを悟っているかのように
ひとことひとこと自分のことばを噛みしめながら笑顔でうなずきます。
毎年、親に送られてくる年賀状で
小さい頃からこの人の名前は知っていましたが
最近までその先のことは詳しく知りませんでした。
ただ両親の出会いに関わる重要な人ということは
小さい頃からなんんとなく雰囲気で感じとれていましたが
それを確信に代えたところで
何か変化が起こるわけでもなく
根掘り聞く恥ずかしさが先行し
滲んだままにしていました。
父の死後
母だけでなく色々なところから馴れ初めを聞くことになり
滲んだ記録は補いつつ定着していきました。
この人は仲人であり
キューピットであった人です。
この白眉の老人がいなければ
おそらく父と母は出会わなかったでしょうし
僕も産まれていませんでした。
口には出していませんが
いま僕がこうして
あなたの前に立てているのも
全てあなたのおかげと思うと
うれしくて涙がでてきます。
僕は最敬礼して
その場を後にしました。
今日も暑かったです。
この暑さの中の礼服フル装備はサウナスーツでありました。
明日の葬儀は日中。
体感温度はさらには増すでしょう。
どなたさまもこの暑さで
倒れることありませんように
祈るばかりであります。
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