シンポジウム 『障害者雇用施策を横断的な視点から考える』
コーディネーター 志賀利一(社会福祉法人横浜やまびこの里)
私たちの国の障害者雇用は、新しいステージに移ったようです。
このシンポジウムは、過去の就労支援・障害者雇用の経過ならびに実践を振り返り、新しいステージではどのようなものが望まれるか、そのためにはどのような準備が必要か、夢物語から現実的な意見も含め、様々な立場から、横断的に提案してもらう時間です。
シンポジウムのテーマである「障害者雇用促進施策」について、厚生労働省で研究会の報告書をまとめています。2018年夏に発表された「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」の報告書です。その中で、「障害者の働き方の質の向上」に関する内容が、トップに書かれており、それももっとも多くの分量が割かれています。障害者雇用は、これまでの量(雇用数や雇用率)から質に転換する必要があることは、私も含め、研究会の参加者が共通に認識していた内容でした。しかし、その質の中身については、明確な提案ができませんでした。正社員転換、配置転換等によるキャリアップ、さらには定着支援による長期雇用の模索など議論されると同時に、加齢による変化に応じた退職(福祉的就労等へのスムーズな移行)についても意見が出されました。また、企業等の雇用の質に対する様々な試みを評価するための「雇用率カウント方法」の改定意見が出るなど、量を抜きにして質を論じるのは難しかったのが現実です。
どうして、「雇用の質」を検討するのが難しかったのか、コーディネーターの立場から『縦断的』に考察しています。
20世紀の終わりに、知的障害者の雇用が義務化され、職業生活と日常生活の支援を、企業等と地域の福祉機関が連携して支える在り方が提案され、この分野に浸透してきました。一方、企業はこのような障害者雇用をはじめる際、①障害者向けの仕事の切り出しを検討し、②学歴・職歴・資格情報ではなく実習等の時間をかけた評価を優先し、③地域の就労支援機関と長期的な連携が図れるか確認するといった、一般の求人とは異なるプロセスを積極的に用いることになりました。同時に、付加価値が高い仕事の切り出しの困難さもあり、雇用する障害者は最低賃金(あるいは少し多い)と週30時間(場合によっては20時間)の労働条件が多数になってきた。もちろん、すべての障害者雇用がこのようなプロセスと労働条件ではないものの、新規就労のかなりがこのような実態であることは周知の事実です。そして、これは知的障害者だけでなく、最近増えている精神障害者の雇用においても同様です。
国の統計資料でも明らかなように、最近の新規の障害者雇用は、その種別として精神障害者が圧倒的に多くなっています。障害特性からすると、その職業能力は知的障害者と比べると、バラエティーに富んでいるはずです。このバラエティーさが、「雇用の質」の議論の震源になっているのではないでしょうか。
バラエティーさとは、労働集約的な数種類の仕事の習熟が容易ではない人から、多くの人が羨む学歴・資格を持っている人、さらには同年代の平均以上の賃金で何年も働いてきた職歴のある人まで存在することを意味します。また、うつ病等の病状により職業能力の発揮に大きな波のある人、発達障害のように障害特性自体は大きく変化しない人(何らかの精神科症状を併存している人は別)までいます。精神障害者保健福祉手帳の交付を受けていても、職歴や資格を活かし、同年代の賃金に遜色のない仕事に新たに就く人もいます。一方、知的障害者と同じプロセスを経て、最低賃金と週30時間(20時間)の採用に至っている人もいます。就労支援の現場では、この知的障害と同等の採用が圧倒的に多いのも現実です。つまり、職歴や資格が、採用後の職務や処遇に反映されない就職です。実際、このような就労支援のニーズは多く、就職してからの満足度が高い人もたくさんいます。そういた意味では、これも「質の高い」雇用であると考えられます。