車椅子には乗っていたが、
背が高く大きな顔のその方が、
大きな声で怒鳴るととても迫力があり、
みんな震え上がった。
病院の若い理学療法士では手に負えず、
在宅復帰目的で当時私が勤めていた老人保健施設(老健)に入居してこられた。
もちろん普通にリハビリが出来るはずがなく、
その方の行動を観察した結果、
食べること、特に甘い物が好きだと気づいた。
チャンス到来。
おやつの時間前に居室に毎日迎えに行った。
怒鳴っても、「おやつですよ」と言いながら最低限しか手伝わない私に渋々従った。
徐々に出来る事が増えていった。
食事が終わったら、自身で部屋に帰れるようになった頃、
怒鳴ることも減り、在宅復帰が叶った。
デイケアで次の弱みが見つかった。
やさしい美人の職員に話しかけられると、
下を向いてはにかんだのだ。
ここからは彼女の出番だ。
「〇〇さん、人にやってもらって時は、ありがとうって言うんですよ」
しゃがんで目線を合わせながら言う彼女に、
心の鍵が開いたようで表情が変わっていった。
どちらかというと、いじられキャラになり、
大きな顔でニコニコ笑うその方を見て、
併設病院の理学療法士はビックリしていた。
私と筋トレや歩行練習をし、作業療法では革細工をするようになった。
チャリティバザーでその方が作った革細工のキーホルダーを買わせてもらった。
星型のキーホルダーは私の勲章のようだ。