キラのメンタル、実際はどうなるのかな。
コンパス再開が決まってキラとラクスが隠遁生活を送っている家に久しぶりにやってきたアスランは、キラからの頼みに眉を寄せた。
「それは…」
「無理かな」
「俺一人では決められない」
「うん、それは解ってる」
ラクスは二人の会話を黙って聞いている。
基本的にラクスはそれが雑談でない限り、キラとアスランの会話には口を出さない。
ラクスにとっても、これは痛みを伴う会話だ。
「僕の自己満足と言われたらそれまでだからね」
この言葉に、アスランはますます顔を歪めた。
こんな自虐的な発言をする性格ではなかったのだが、これはもう治らないのだろう。
「とにかくカガリには話をしておく。使うならズゴックになるだろうな」
「うん、お願い」
ファウンデーション事変直後よりは大分マシになったとはいえ、まだ完全に回復しているとは言えない表情にアスランは内心で溜息をついた。
これは…キラのメンタルには必要な儀式的な意味合いもあるのかもしれない。
玄関までアスランを見送りに来てキラだけが先に部屋に戻った後、ラクスがアスランに小さく頭を下げた。
「ラクス?」
「わたくし、自惚れておりましたわ」
「え?」
「以前のように、キラに寄り添い、キラを癒して行けると思っておりましたが…今のキラが抱える闇は以前よりもずっと深いのです」
「-----ああ」
それは解る。
幾ら操られたとはいえ、フリーダムの領空侵犯が最初だったのだから、キラがあの甚大な被害を自分の罪と判断してしまっても無理はない。
あの時、キラを殴った事は今でも必要だったと思っている。
だがあれも、結局は一時的な浮上でしかなかったのだという事だ。
ラクスからの愛。
ラクスへの愛。
それとは全く別の、それだけでは解決できないキラの闇。
“本当に余計な事をしてくれたよな”
改めてあの連中に対する怒りが込み上げる。
ストライクフリーダム弐式に残されていた、オルフェとのやり取り。
何が分断と争いの歴史を終わらせる、だ。
愚かな人類を導く、だ。
コンパスという組織が構成された事自体、世界が戦争に疲れ、少しずつでも平和に近づいて行こうとしている証だったのに。
そこへ新たな分断と犠牲、憎しみを生み出したのは、自分達ではないか。
自分が調べた限りの事からすれば、彼らもアウラの犠牲者と言えるかもしれないが、それはそれだ。やった事があれな以上、擁護できる範囲を越えている。
『アスランにもカガリさん達にも大きな負担になると解っていますが、よろしくお願い致します」
ラクスもまた、あの時攻撃許可を出した負い目を拭いきれないのだろう。
その辺は二人が解決することだとは思うが、かなり時間がかかるに違いない。
今日はカガリに直接会う予定がなかったので、連絡を入れて向こうからの返信を待つ。
30分ほどしてからカガリから通信が入った。
『エルドアに、か』
「ああ、一人ででも追悼したいんだそうだ」
『ミレニアムのパイロット…マースとヘルベルトの事だけではないんだよな』
「そうだろうな。キラの気が済むなら、と思うんだが…余計に思いつめそうな気もするんだよ」
『あの辺りはまだ放射能の影響が強いし、そもそもそう簡単に入国許可が下りんからな』
「キラの存在を隠していても、俺個人としては行く理由がないしな」
カガリは小さく息を吐いた。
『何時になったらキラは楽に生きられるんだろうな』
コンパスを立ち上げ、そこにキラを誘ったのはカガリだ。恐らくカガリにも罪悪感があるだろう。
”----それこそ何万回殺しても飽き足らない”
キラだけでなく、自分の最愛のカガリやキラの最愛のラクスまでもここまで苦しめているのだから、それくらい思うのは許されるだろう。
たまには明るい話も書きたいのだが。