この頃の体調は良くはない。
だが、一番悪い時を10だとしたら、
5,6ぐらいの悪さぐらいまで回復していた。
熱も38度前後まで、下がっていた。
そのくらいの熱であれば、風邪の熱ぐらい。
術後感染症の治療も上手く効いてくれてたよう。
自分で歩いて、排泄が出来るようになってもいた。
何よりも、
両親親戚が、毎日お見舞いに来てくれていたのも大きかった。
気管切開で喋る事は出来ないが、
筆談で看護師さんとコミュニケーションは取れるようになっていた。
持ち込んでいた「柔道部物語」を読むかスマホを見る以外は、
入院してから、天井を見ている時間がほとんど。
重症個室を出るのは、検査や、処置のみ。
重症個室には、窓はあるが、
頭の後ろ側で体を起こしてみる事は、まだ体力的にきつくて出来なかった。
唯一、重症個室内の簡易トイレから、ベットに戻る時には、
窓が見えるが、景色は窓枠全部、隣の病棟が見えるのみだった。
窓際に行って、のぞき込む体力もやはり無くて、
ベットへと、痛む右足でゆっくりと戻る事で瀬一杯だった。
ふと、空が見たくなった。
一か月以上も、空の青さを見ていない。
無性に空が見たくなった。
看護師さんが何かで部屋に来た時に、筆談で、
「空が見たい」
と伝えた。
突拍子も無い発言であったと思う。
それを見た看護師さんの回答は、
「見に行きましょう」
笑顔で即答だった。
その看護師さんは、とっても明るくて、気持ちの良い方だった。
だから、そんな事が言えたのだと思う。
看護師さんと一緒に歩いて、廊下を出た。
歩いて、
10メートルもない廊下の窓が見える場所に行く事が出来た。
ガラス越しだったが、青い空が見えた。
その日は、天気も良かった。
空が見えて、嬉しかった。
本当に、嬉しかった。
廊下まで、歩けた事も嬉しかった。
見れた事に満足し、直ぐに、また重症個室へと戻った。
普段、本当に忙しそうである看護師さんが、
そんな事に付き合ってくれた事も嬉しかった。