術後せん妄が終えた頃、

他の重病個室からの声が聞こえるようになった。

 

重病個室には、カーテンも無ければ、ドアも無い。

 

プライバシーがどうとか言う状況の患者は居ない。

 

その名の通り、重症の患者が入っている。

 

 

聞こえてきた声は、恐らく先生の声だった。

 

 「○○さん、歩かないとだめですよ。」

 

 「きついと思いますが、リハビリで歩いてください。」

 

 「歩けなくなりますよ。」

 

ずっと、大きな声で、説得しているようだ。

 

 

次の日も、その次の日も先生らしき人が、説得に来ていた。

 

その他の話を聞いていると、高齢の女性のようで、おばあちゃんのようだ。

 

おばあちゃんの歩くのがしんどいという気持ちは自分も良く分かる。

 

自分が、今歩けと言われても、無理だから。

 

でも、先生が何日も説得している事を考えるに、

きついだろうが、歩ける状態なのだろうと思う。

 

 

その時、自分の事を考えた。

最初の手術から、約一か月経つ。

 

術後初日の立ちあがる以降、一度もリハビリの声は掛かっていない。

 

リハビリが必要な状態ではない事は理解している。

重病個室内のトイレですら、車椅子なのだから・・・

トイレまで普通に歩けば、10歩もかからない。

 

初めて、そういう状態が心配になった「声」だった。