2025/9/4 旅の窓④ | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。


今週は、作家・沢木耕太郎のフォトエッセイ『旅の窓』を、一部抜粋してお届けしています。


今夜は、その第4夜。


その時々の自分の心を映し出すように、訪れた異国の町の風景を綴ってきた、沢木耕太郎。


今夜は、ドイツ・フランクフルト、そしてギリシャのケルキラ島での記憶に、思いを馳せる。


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「終着駅」


ヨーロッパに行って、初めて鉄道の中央駅を見たのは、ローマだった。


そこに至るまでの乗り物はバスだったが、観光案内所を求めて、駅の構内に入ったのだ。


そして、そのプラットホームが、まさに『終着駅』という映画の題名通り、片方が行き止まりになっているのを見て、なるほどと思ったものだった。


それ以後、様々な国で終着駅であると同時に、始発駅でもあるという、蒲鉾型の屋根を持った鉄道駅を見る事になるが、今でもそうした駅のプラットホームに立つと、日本の鉄道駅ではあまり感じる事の無い、「旅愁」といった言葉がぴったりするような感情を、覚える。


ここドイツのフランクフルトの中央駅も、屋根は蒲鉾型で、プラットホームの片方が行き止まりになっている。



[フランクフルト中央駅]


そこにぼんやり立っていると、自分がこれからどこかに出発するのか、それともどこからか到着したばかりなのか、よく分からなくなってくる。


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「炎に祈る」


炎というのは、どうしてこのように、人の心を動かすのだろう?


暖炉の炎、焚き火の炎、そして蝋燭の炎。


とりわけ、蝋燭の炎には、動きの激しい暖炉や焚き火の炎とは異なる、整った静謐さ、とでも言うべきものが感じられる。


そこに、蝋燭が祈りの場で重用される理由が、あるのだろう。


それは、ギリシャのケルキラ島にある、小さな教会だった。



[ケルキラ島]


夜、通りすがりに覗くと、祖母に連れられてきたらしい少女が、祭壇の前で蝋燭に火をつけていた。


その真剣な眼差しを見ているうちに、火をつけるという行為そのものが、一つの祈りになっている事に、気がついた。


たとえ、それがどのような対象であれ、またそこがどのような場所であれ、祈るという行為の持っている美しさには、世界共通のものがあるように思える。


しかし、今、日本の子供たちは、この少女のような祈りの場を、どこに持っているのだろうか?


【画像出典】