2024/10/16 マジカル・ラテンアメリカ・ツアー③ | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。


今週は、嘉山正太のエッセイ集『マジカル・ラテンアメリカ・ツアー 妖精とワニと、移民にギャング』の中から、「壁が分かつ人々ーメキシコ」を、番組用に編集してお届けしています。


今夜はその第3夜。


2016年、ティファナを訪れた嘉山は、サン・イシドロ国境検問所の渋滞に巻き込まれる。


この光景は彼に、数年前、テキサスとの国境での出来事を、思い起こさせた。


その国境も、大渋滞。


嘉山は、メキシコの女の子の後ろに並んだ自分たちの列が、隣のアメリカ人専用レーンより、3倍進み方が遅いと気付く。


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ふと、僕らの隣の列に、女の子3人組が並んだ。


流暢なスペイン語で、話をしている。


そのトーンから、彼女たちの親は、多分メキシコ人だろうな、と思った。


よく見ると、肌の感じや目の色にも、そう感じさせるものがあった。


彼女たちは、学校の話をしている。


恋バナとか、どこにでもある会話。


女の子たちは、サングラスをかけて、気だるそうに、手で顔をあおいでいる。


持っているバッグは、シャネル。


サングラスだってブランド物の、レンズが馬鹿デカいやつだ。


染めたであろう金髪が、なびいている。


なんだか、アメリカのドラマに出てくる、女子高生みたいに見えた。


そして僕は、目の前の女の子に、目を戻した。


少しウェーブのかかった黒髪を後ろで束ね、ピンク色のアニメのイラストが描かれたリュックサックを、背負っていた。


化粧っ気は、ほとんど無い。


そして、額から汗がこぼれそうになっている。


今隣に来た、3人組のアメリカの女の子たちと、同じぐらいの歳だろうな、と思った。


この女の子は、一人で来ていた。


メキシコの、どこかから。


一方、3人組の女子はものの10分で、僕らの前から消え去った。


アメリカに、入国したのだ。


僕らは、それから数時間して、やっと入国手続きの建物に入る事ができた。


目の前にいた彼女は、分厚い書類の束を、係官に見せていた。


彼女は、別室に連れていかれた。


僕らがアメリカに入国できたのは、午後4時過ぎ。


実に、6時間もかかった。


彼女がアメリカに入国できたのかは、分からなかった。


しばらく経っても、出てこなかったからだ。


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再び、2016年の取材。


ティファナを象徴する場所、フレンドシップ・パーク(友情公園)と呼ばれる公園を、訪れる。


国境の壁は、ビーチから太平洋まで延びている。


公園は、ビーチから数百メートル陸側に入った辺り。


国境の壁沿いに造られており、アメリカ側とメキシコ側がある。


メキシコ側は、いつでも訪れる事ができて、壁に描かれたグラフィティや、ボランティアの人たちが世話をする花壇が見える。


そして、壁の向こうには、アメリカを見る事ができる。


[公園]


アメリカ側は、国境警備隊、通称ボーダーパトロールの管理下に置かれ、コンクリートの地面が広がるだけだ。


そして、誰も許可なくそこに入る事は、できない。


ただ、週末の午前10時から午後2時までの間、アメリカ側の敷地が開放され、その時間だけアメリカに住む人々は、その公園を訪れる事ができるようになる。


アメリカ側にやってくるのは、ビザを持たない人々。


メキシコに住む家族と再開するために、この公園に来るのだ。


週末の朝、メキシコ人の家族が、ポツリポツリと現れ始める。


10代の少年を連れた、若い母親に話を聞くと、夫と久しぶりに待ち合わせているという。


「旦那さんは、どこから来るんですか?」


と聞くと、


「ロスよ。


向こうで仕事をしていて、いつもお金を送ってくれてる。


この子の学校が終わるまでは、頑張ってくれるんだけど、その後はメキシコに戻ってきたいって言ってる。


向こうの生活は、厳しいから。


仕事して、仕事して、また仕事だって」


と、母親は答えた。


【画像出典】