JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。
今週は、嘉山正太のエッセイ集『マジカル・ラテンアメリカ・ツアー 妖精とワニと、移民にギャング』の中から、「壁が分かつ人々ーメキシコ」を、番組用に編集してお届けしています。
今夜はその第3夜。
2016年、ティファナを訪れた嘉山は、サン・イシドロ国境検問所の渋滞に巻き込まれる。
この光景は彼に、数年前、テキサスとの国境での出来事を、思い起こさせた。
その国境も、大渋滞。
嘉山は、メキシコの女の子の後ろに並んだ自分たちの列が、隣のアメリカ人専用レーンより、3倍進み方が遅いと気付く。
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ふと、僕らの隣の列に、女の子3人組が並んだ。
流暢なスペイン語で、話をしている。
そのトーンから、彼女たちの親は、多分メキシコ人だろうな、と思った。
よく見ると、肌の感じや目の色にも、そう感じさせるものがあった。
彼女たちは、学校の話をしている。
恋バナとか、どこにでもある会話。
女の子たちは、サングラスをかけて、気だるそうに、手で顔をあおいでいる。
持っているバッグは、シャネル。
サングラスだってブランド物の、レンズが馬鹿デカいやつだ。
染めたであろう金髪が、なびいている。
なんだか、アメリカのドラマに出てくる、女子高生みたいに見えた。
そして僕は、目の前の女の子に、目を戻した。
少しウェーブのかかった黒髪を後ろで束ね、ピンク色のアニメのイラストが描かれたリュックサックを、背負っていた。
化粧っ気は、ほとんど無い。
そして、額から汗がこぼれそうになっている。
今隣に来た、3人組のアメリカの女の子たちと、同じぐらいの歳だろうな、と思った。
この女の子は、一人で来ていた。
メキシコの、どこかから。
一方、3人組の女子はものの10分で、僕らの前から消え去った。
アメリカに、入国したのだ。
僕らは、それから数時間して、やっと入国手続きの建物に入る事ができた。
目の前にいた彼女は、分厚い書類の束を、係官に見せていた。
彼女は、別室に連れていかれた。
僕らがアメリカに入国できたのは、午後4時過ぎ。
実に、6時間もかかった。
彼女がアメリカに入国できたのかは、分からなかった。
しばらく経っても、出てこなかったからだ。
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再び、2016年の取材。
ティファナを象徴する場所、フレンドシップ・パーク(友情公園)と呼ばれる公園を、訪れる。
国境の壁は、ビーチから太平洋まで延びている。
公園は、ビーチから数百メートル陸側に入った辺り。
国境の壁沿いに造られており、アメリカ側とメキシコ側がある。
メキシコ側は、いつでも訪れる事ができて、壁に描かれたグラフィティや、ボランティアの人たちが世話をする花壇が見える。
そして、壁の向こうには、アメリカを見る事ができる。
[公園]
アメリカ側は、国境警備隊、通称ボーダーパトロールの管理下に置かれ、コンクリートの地面が広がるだけだ。
そして、誰も許可なくそこに入る事は、できない。
ただ、週末の午前10時から午後2時までの間、アメリカ側の敷地が開放され、その時間だけアメリカに住む人々は、その公園を訪れる事ができるようになる。
アメリカ側にやってくるのは、ビザを持たない人々。
メキシコに住む家族と再開するために、この公園に来るのだ。
週末の朝、メキシコ人の家族が、ポツリポツリと現れ始める。
10代の少年を連れた、若い母親に話を聞くと、夫と久しぶりに待ち合わせているという。
「旦那さんは、どこから来るんですか?」
と聞くと、
「ロスよ。
向こうで仕事をしていて、いつもお金を送ってくれてる。
この子の学校が終わるまでは、頑張ってくれるんだけど、その後はメキシコに戻ってきたいって言ってる。
向こうの生活は、厳しいから。
仕事して、仕事して、また仕事だって」
と、母親は答えた。
【画像出典】
