2024/10/3 散歩のとき何か食べたくなって④ | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM Skyway Chronicle


今週は、国際線就航70年を記念した、スペシャルフライト。


新東京国際空港が開港した1978年、その時代の東京への旅。


時代小説作家・池波正太郎による、1977年刊行の随筆集『散歩のとき何か食べたくなって』の中から、「渋谷と目黒」と題された一篇を、お届けしています。


今夜は、その第4夜。


折々に出会った懐かしい味や、心温まる店の佇まい。


時代小説の名手・池波正太郎による食のエッセイは、しみじみと奥深い。


そして、店の味や街の情景を描く筆致は、どこまでも温かい。


今夜は、人生の達人・池波正太郎と、1970年代の東京の街へ、目黒のカツレツを食べに行く。


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その頃からのとんきファンだった、歌舞伎俳優の故・市川中車は、生前私に、とんきの事を褒め称えたあげく、


「私は、とんき以外のとんかつは、認めない心境ですよ」


とまで、言い切った。


ま、人それぞれの好みはあるにしても、ともかくも、とんきのとんかつを食べて、不味いと言う人はいないだろう。


[とんかつ]


半袖の白いユニフォームを身に着けて、はつらつと立ち働くサービスの乙女たち。


新鮮なキャベツが無くなると、彼女たちが走り寄ってきて、さっとおかわりのキャベツを皿に入れてくれる。


「ああもう、ここへ来ると、キャバレーやバーへ、行く気がしなくなります」


といった中年の客もいる。


磨き抜いた、清潔な店内。


皿の上で、タップダンスでも踊りそうに、活きが良いカツレツ。


私はまず、ロースカツレツで酒かビールを飲み、次いで串カツレツで飯を食べる事に、している。


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今のとんきは、旧店を駅ビルのために捨てて、目と鼻の先に、これまでの小さな木造建築とは比べものにならぬ、立派な店を構えているが、よく見ると、主の心構えの少しも変わらぬ事が、店構えにも店内の作りにも、見て取れる。


[店内]


乙女たちのダイナミックなサービスも、全く変わらぬ。


この店に長らく勤めた男女の店員の中で、支店を任せられている人たちも、少なくないらしい。


とんきで食べて、勘定を払って、心身に満足と愉快を覚えぬ客は、まずあるまい。


外国人の熱狂的なファンも、多い。


私は、とんきの主が、どのような経歴の人であるかを知らぬけれども、天変ただならぬ戦後のおよそ30年間を、誠実な商売で貫き通してきて、それが昔も今も、客層の圧倒的な支持を得ているのは、それこそ真にただならぬ人という気が、私はしている。


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