2024/9/10 グアテマラの弟② | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。


今週は、俳優・片桐はいりのエッセイ『グアテマラの弟』を、一部編集してお送りしています。


今夜は、「タバコと神様」の第2夜。


グアテマラの人たちが信じる神様、サンシモンとマシモン。


見た目は、背広を着て髭を生やした、ただの親父。


しかし、お酒やタバコを捧げると、あらゆる願いを叶えてくれるという。


話を聞いた片桐は、


「挨拶に行かねばなるまい!」


と、決意する。


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アンティグアの土産物屋の片隅に売られていた、自宅用のサンシモンは、等身大の単なる出来の悪い人形だった。


揃って白人風の、とんがった細面。


みんな、つばの広い帽子を被り、立派な8の字髭を蓄えている。


それだけはお決まりのようだったが、身なりはその辺のおっさんより、むしろみすぼらしい。


古着のチェックのネルシャツや、色褪せた紺のブレザーを着せられている。


この国の人たちは、この人形に、何をどう祈るのか?


私はどうしても、本物の神様に会ってみたくなってしまった。


1番目の神様には、アンティグアから30分ほど山の中に入った、サン・アンドレス・イタパの村で、お目持ちが叶った。


ペトラさんと一緒に、何度か訪れた事があるという明子さんが、案内を買って出てくれたので、村外れのお堂はすぐに見つかった。


無数に並んだ、色とりどりの蝋燭の明かり。


堂内は、それ以外に明かりは無い。


その暗闇の一番奥の祭壇の上に、目指すサンシモンがいた。


カウボーイハットに、黒い背広の上下。


右手に持ったステッキが、もしライフルだったなら、そのまま極悪非道な殺し屋の佇まいだ。


[サンシモン]


沢山の花に囲まれて、一応厳かな厨子に収まってはいるが、作りは相変わらず雑な、蝋人形風である。


外国人の私から見れば、この投げやりな安っぽさが、逆にこの神様に、言いようのない威圧感を与えている。


なんだか、気味が悪いのだ。


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祭壇の下で、願い事の叶う蝋燭を灯した。


蝋燭は全部で9色あり、それぞれの色、ご利益の種類が違う。


[蝋燭]


赤は恋愛、緑は仕事、水色はお金、ピンクは健康、というように。


黒は嫌いな相手に、災いをもたらす効果が、あるらしい。


弟は1度、真っ黒な太い蝋燭を前に、一心不乱に祈るお婆さんを見た事があるそうだ。


お嫁さんでも、呪っていたのかもしれない。


私は、9色セットの蝋燭を買い、念を込めて全部の色に、火をつけた。


私はさらに欲を出して、温泉旅行の行き帰り、山奥や湖畔の村に祀られているという、サンシモンとマシモンに、わざわざ会いに行く事にした。


ケツァルテナンゴの温泉街道の近く、スニルの村のサンシモンは、それにしてもまた、おかしな風貌の神様だった。


身なりはイタパのと同じく、『レザボア・ドッグス』ばりの黒スーツに、粋な帽子を被っているのだが、どう見ても顔が、子供なのである。


セルロイドのキューピーに、ダブダブの黒服を着せた、みたいな。


それがまた、ある種の凄みを醸し出している。


[スニルのサンシモン]


神様の前では、担当者がお酒を入れる陶器の器を持って、待ち構えていた。


お堂の入り口で買ったラムを、その器に注ぐと、神様の口を指差す。


お供えしろ、という事なのか、よく分からないまま、私がそのパクンと空いた小さな唇に器を当てると、ダン!と音がして、突然椅子が後ろに倒れた。


歯医者さん、もしくは床屋さんの椅子のからくり。


要するに、神様の体を斜めにするから、口から酒を注ぎ入れろ、という訳だ。


哺乳瓶が似合いそうな愛らしい口に、痺れるほどの強い酒を注ぐ。


キューピーみたいな神様は、音も立てずに、その安い鹿印のラムを、ボトル1本飲み干した。


【画像出典】