2024/4/9 マジカル・ラテンアメリカ・ツアー② | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。


今週は、撮影コーディネーター・嘉山正太のエッセイ集『マジカル・ラテンアメリカ・ツアー 妖精とワニと、移民にギャング』より、「星のない東京から、星だらけのアタカマ砂漠へ_チリ」を、番組用に編集してお届けしています。


今夜はその第2夜。


光をテーマにした企画を考える嘉山に、ある映画がインスピレーションを与えた。


そして、いよいよアタカマ砂漠への旅が、始まる。


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ラテンアメリカと言えば、光よりも闇の方がしっくり来るんだよなぁ。


そんな事を思いながら、日々が過ぎた。


人々が見ようとしなかったものを、見つけようとする人たちがいる。


僕は、それを1本のドキュメンタリー映画から教わった。


それは、『光のノスタルジア』という作品だ。


チリの星空と、軍事政権下で殺された、地中に埋まる人々の亡骸に関する、深く人間の想像力に語りかけてくるような作品だ。


『光のノスタルジア』]


僕はちょうど、光のテーマを貰った時に、この『光のノスタルジア』の噂を聞いていた。


どうやら、チリの伝説の映画監督、パトリシオ・グスマンの新作が、キレキレらしい。


山形国際ドキュメンタリー映画祭でも、話題騒然だったらしい、と。


そういえば、僕の仕事仲間も最近チリ人と仕事したばかりで、チリがいかにいい所かを語ってくれていた。


へえ〜、チリかぁ。


光のノスタルジアか。


なんか、行けるんじゃないかと思った。


チリ、天体観測、光の3つのキーワードで、何か企画を1本生み出せないか、格闘し始めた。


うんうん考えていると、ある日天啓にうたれたように、面白いものが見つかった。


チリの消えゆく星々。


チリは、天体観測の分野で世界をリードするほどまでに成長したのだが、星が消えているという。


それはなぜか?


僕は、できる限りみっちりとリサーチをし、企画書にまとめて、テレビ局に送った。


そして数日後、電話が鳴った。


「チリの企画、ゴーになったよ」


やった。


企画が通った時の嬉しさは、この仕事をしていて何物にも変え難い。


めちゃくちゃ嬉しい瞬間、である。


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「緊張するなぁ」


「初めてでしょ、そんな高い場所に行くの」


「標高5000メートル超えは、確かに初めてですねぇ」


「凄い所にあるよなぁ、その天文台」


チリ人スタッフのアレハンドロが、僕と日本人カメラマンの会話から察したのか、にやけながらスペイン語で呟く。


「高山病になったら、その場に置いていくから、干からびるなよ!」


笑いながら周りを見渡し、確かにここに置いていかれたら、骨もさらっさらになるまで、干からびるだろうなと思った。


僕らは、世界で一番高い場所にある天文台、アルマ天文台へ向けて車を走らせていた。


そこは、からっからに乾いた、砂漠の高地。


「あ、車。


ちょっと停めて」


カメラマンの声。


何かと思って窓を開けると、そこには野生のリャマが、丘から僕らを見下ろしていた。


[リャマ]


もう標高は4000メートルをとっくに超えているはずだ。


岩だらけで休むような木陰も無ければ、食料になる草の1本も生えていない所で、そのリャマは1匹だけだった。


群れからはぐれてしまったのか、砂漠に迷い込んだのか。


それとも、これから世界一高い天文台に上る僕らを見に来た、使いなのか。


今でも、僕のパソコンの壁紙には、この時の写真が設定されている。


このリャマを見ると、感じるのだ。


砂漠で生きる孤独と、力強さを。


【画像出典】