JET STREAM・・・作家が描く世界への旅。
今週は、撮影コーディネーター・嘉山正太のエッセイ集『マジカル・ラテンアメリカ・ツアー 妖精とワニと、移民にギャング』より、「星のない東京から、星だらけのアタカマ砂漠へ_チリ」を、番組用に編集してお届けしています。
今夜はその第2夜。
光をテーマにした企画を考える嘉山に、ある映画がインスピレーションを与えた。
そして、いよいよアタカマ砂漠への旅が、始まる。
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ラテンアメリカと言えば、光よりも闇の方がしっくり来るんだよなぁ。
そんな事を思いながら、日々が過ぎた。
人々が見ようとしなかったものを、見つけようとする人たちがいる。
僕は、それを1本のドキュメンタリー映画から教わった。
それは、『光のノスタルジア』という作品だ。
チリの星空と、軍事政権下で殺された、地中に埋まる人々の亡骸に関する、深く人間の想像力に語りかけてくるような作品だ。
[『光のノスタルジア』]
僕はちょうど、光のテーマを貰った時に、この『光のノスタルジア』の噂を聞いていた。
どうやら、チリの伝説の映画監督、パトリシオ・グスマンの新作が、キレキレらしい。
山形国際ドキュメンタリー映画祭でも、話題騒然だったらしい、と。
そういえば、僕の仕事仲間も最近チリ人と仕事したばかりで、チリがいかにいい所かを語ってくれていた。
へえ〜、チリかぁ。
光のノスタルジアか。
なんか、行けるんじゃないかと思った。
チリ、天体観測、光の3つのキーワードで、何か企画を1本生み出せないか、格闘し始めた。
うんうん考えていると、ある日天啓にうたれたように、面白いものが見つかった。
チリの消えゆく星々。
チリは、天体観測の分野で世界をリードするほどまでに成長したのだが、星が消えているという。
それはなぜか?
僕は、できる限りみっちりとリサーチをし、企画書にまとめて、テレビ局に送った。
そして数日後、電話が鳴った。
「チリの企画、ゴーになったよ」
やった。
企画が通った時の嬉しさは、この仕事をしていて何物にも変え難い。
めちゃくちゃ嬉しい瞬間、である。
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「緊張するなぁ」
「初めてでしょ、そんな高い場所に行くの」
「標高5000メートル超えは、確かに初めてですねぇ」
「凄い所にあるよなぁ、その天文台」
チリ人スタッフのアレハンドロが、僕と日本人カメラマンの会話から察したのか、にやけながらスペイン語で呟く。
「高山病になったら、その場に置いていくから、干からびるなよ!」
笑いながら周りを見渡し、確かにここに置いていかれたら、骨もさらっさらになるまで、干からびるだろうなと思った。
僕らは、世界で一番高い場所にある天文台、アルマ天文台へ向けて車を走らせていた。
そこは、からっからに乾いた、砂漠の高地。
「あ、車。
ちょっと停めて」
カメラマンの声。
何かと思って窓を開けると、そこには野生のリャマが、丘から僕らを見下ろしていた。
[リャマ]
もう標高は4000メートルをとっくに超えているはずだ。
岩だらけで休むような木陰も無ければ、食料になる草の1本も生えていない所で、そのリャマは1匹だけだった。
群れからはぐれてしまったのか、砂漠に迷い込んだのか。
それとも、これから世界一高い天文台に上る僕らを見に来た、使いなのか。
今でも、僕のパソコンの壁紙には、この時の写真が設定されている。
このリャマを見ると、感じるのだ。
砂漠で生きる孤独と、力強さを。
【画像出典】