2023/11/29 旅の断片③ | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

『JET STREAM』


作家が描く世界への旅。


今週は、若菜晃子によるエッセイ『旅の断片』より、一部編集してお送りしています。


今夜はその第3夜。


メキシコ、イギリス、キプロス、インド。


世界を巡り、旅の記憶を綴る、若菜晃子。


その国の人も行かないような地方を訪れ、自然の中に入り込み、そこに生きる人々と同じように生活する。


今夜は、南太平洋に浮かぶ島、ニューカレドニアでの記憶の断片。


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フランスの朝食は、クロワッサンとコーヒーという固定観念があって、フランス領ニューカレドニアでも、きっとそうなんだろうと思ってスーパーに行くと、クロワッサンの棚はほんの少しで、大量に並んでいたのはフランスパンであった。


いわゆる長い棒状のバゲットだが、それがボックス型の棚に、そのままボンボンと大量に積まれている。


[フランスパン]


見ている間に、補充のカートがやってきて、焼きたてが追加される。


スーパーによっては、横置きのボックスではなく、床に傘立てのように置かれたボックスに、無造作に投入されている店もある。


近づくと、パンの温かな良い香りがする。


次々に人がやってきて、その長いパンをスイっと手で取り出すと、備え付けの紙袋にザッと入れて、小脇に抱えて持っていく。


誰もその棚の前で、迷ったりしない。


自分が毎朝食べるパンは、決まっているのだ。


少しほっそりした、一番プレーンなものが、圧倒的に売れる。


1本だけでなく、2本、3本と買う人もいる。


その手慣れた様子が、粋である。


値段も、他の食品に比べてうんと安い。


日々の暮らしに欠かせないものだからだろう。


私も真似をして、ボックスから一瞬どれにしようか迷って、ちょっと小太りのにしてスイっと取り出し、長い袋にザッと入れた。


紙は、クラフト紙である。


少し短くて、パンの頭が出るようになっている。


パンを持った瞬間、まだホカホカと温かく、焼きたてだ!と思ったのだが、熱がこもらないようにしてあるのだろう。


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ニューカレドニアのスーパーで出会ったフランスパンは、表面にはほんのり焼き色が付いて、中はふわりと柔らかい。


日本のバゲットには、表面がバリバリに固く、中は気泡だらけで、食べると口の内側に刺さって痛く、ちぎれば大量の破片が出るようなのがあるが、ああいうのとは大違いである。


もう40年近く前だが、私が通っていた小学校では、給食に丸型のフランスパンが出た。


それは柔らかく、けれども歯応えはあって、フランスパンとはそういうものだと思ってきたが、ニューカレドニアでも、昔食べたのと同じようなフランスパンが、正統として食べられている。


フランスパンを抱えてレジに並んでいると、右隣のレーンでは、地元カナック族の家族連れが、買った物を袋に詰めているが、10代後半と思しき大きな息子が、フランスパンの頭をちぎって、モグモグ食べている。


育ち盛りだし、焼きたてパンの誘惑には抗えないのだろう。


と、左隣のレーンでは、手にちぎったフランスパンの頭を持ったまま、焦ってお会計をしている白人の中年女性がいた。


どうやらこの町では、焼きたてのフランスパンの頭をちぎって、つまみ食いするのも、お決まりの朝の風景のようであった。


【画像出典】