2023/11/21 グアテマラの弟② | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM


作家が描く世界への旅。


今週は、俳優、片桐はいりのエッセイ『グアテマラの弟』を、一部編集してお送りしています。


今夜は、「ゼリーと辞書」の第1夜。


グアテマラでスペイン語学校を営む、片桐の弟とそのパートナー・ペトラさんの家には、いつも沢山の人が出入りしている。


そこで、片桐に訪れた出会いとは?


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一人の少年に、夢中になってしまった。


その少年は、お昼時になると、決まって弟の家に現れた。


この家には、何人か同じような年の頃の少年たちが出入りしていたが、中に一人、毎日のように来る子がいるのに気付いたのは、滞在して何日か経ってからである。


制服の紺のパンツから、開襟シャツをはみ出させ、通学カバンを背負って、その少年はやってくる。


最初のうちは、特に何をするでもなく、家の中をうろついて帰っていったが、そのうち必ず、お昼の食卓の私の向かいに座っているようになった。


親戚でもなさそうだ。


なのに、この家の子みたいに、お手伝いさんを仕切ったりしている。


この子は一体、何者?


毎日、何しに来るの?


ある日、私はたまりかねて弟に尋ねた。


弟の短い説明によると、彼はアンティグアの外れに大家族で住んでいて、アタバルに程近い中学校に通ってきている。


グアテマラの中学校はお昼までだから、学校帰りに毎日寄り道をしていく訳だ。


[中学校]


狭い家で、行き場が無いのか。


兄弟が多く、かまってもらえないのか。


2年ほど前から、ペトラさんに懐いて、午後中の時間をこの家で過ごしているんだそうだ。


名前を聞いて、驚いた。


フェルナンド。


冗談かと思った。


甥っ子のフェルナンドに、そっくりだったからである。


顔と言うよりも、その佇まいが。


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まるで、かつてのフェルナンドの幻のように、その少年は私の前に現れた。


この家の人たちは、大きい方をナンド、小さい方をナンディートなどと呼んでいるようだったが、私はややこしいので、簡単に大と小と呼び分ける事にした。


彼らは、体型がほぼ同じである。


見事なほどに、大小の相似形になっている。


デブと言うよりは、コロコロと言うのがふさわしい体型だ。


太っているのに、肩幅が狭い。


この国の男子にはよくある、なで肩体型だ。


短い首を押し潰すように、大きい頭が乗っかっているから、三頭身ぐらいに感じる。


この二人は子供のくせに、まるで大人の仕草や物言いをするところまで、そっくりだった。


三頭身がすかして足を組んだり、指の先で顎を摘んで、


「シー、シー」


つまり、


「イエス、イエス」


と、大人の話に相槌を打ったりするのだ。


何を話しているのか、フェルナンド小がペトラさんと対等に、すました身振りでお喋りをする様子は、子供には見えない。


ペトラさんも子供相手と言うよりは、同年輩の友人とお喋りをするような話しぶりである。


そんな二人を横目で見ながら、私は弟に、


「この子は何だ?


おばさんみたいだな」


と、囁いた。


その秘密は、彼のメガネにあった。


自分のメガネを壊してしまった小は、新しいのが買えなくて、ペトラさんのお古の金縁メガネをかけているのだ。


彼が小指を立てて、このメガネを持ち上げる様子は、まるで小金持ちのマダムのようだった。


そして彼が、そんな身に合わない仕草をすればするほど、より小癪なあどけなさが際立つ寸法に、なっていた。


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