2023/10/3 走ることについて語るときに僕の語ること② | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM


作家が描く世界への旅。


今週は、作家・村上春樹のメモワール『走ることについて語るときに僕の語ること』より、第7章を番組用に編集してお届けしています。


今夜はその第2夜。


ボストン近郊の大学街で、作家・村上春樹は、ニューヨークシティマラソンのために、日々走り込んでいた。


だが、問題が起きた。


何の前触れも無く、膝が痛み出したのだ。


本格的な秋を前に、ランナー・村上春樹に、不安が募る。


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雨が長く断続的に降り続き、その間に仕事の上での小旅行もあって、しばらくの間、思うようには走れなかった。


しかし、ニューヨークでのレースも間近になっている訳だから、走れない事自体は、それほど問題にはならない。


逆に休養がしっかり取れる、という利点はある。


疲れを取るために、休んでいた方がいいと分かっていても、レースが近いと、それなりに気持ちが盛り上がっているから、ついつい走り込んでしまう。


でも、雨が降っていれば、


「まあ、しょうがないや」


と、あっさり諦めてしまえる。


これは、良き側面だ。


問題は、そのようにろくに走ってもいないのにも関わらず、膝が痛みを訴えてきた事だった。


[膝の痛み]


人生におけるトラブルの大半がそうであるように、その痛みは何の前触れも無く、唐突に訪れた。


10月1日。


朝、アパートの階段を降りようとして、右膝が突然ガクッと来た。


ある角度に曲げると、膝の皿が独特の痛みを訴える。


ただ痛い、というのとは、少し違う。


あるポイントで、違和感のようなものがあり、ふっと力が入らなくなるのだ。


膝が笑う、という奴だ。


手すりを掴まないと、階段が降りられない。


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多分、ハードな練習を積んだ期間の疲れが、気温が急激に下がったおかげで、表面に顔を出してきたのだろう。


10月に入っても、夏の暑さがまだしつこく居残っていたのだが、1週間ばかり降り続いた雨が、ニューイングランド一帯に、急速に本格的な秋をもたらした。


ついこの間まで、冷房をつけていたというのに、今ではもう冷たい風が街を吹き抜け、見渡す限りを、すっかり晩秋の風景に変えてしまった。


[ニューイングランド]


ハードな日々の練習を友とする長距離ランナーにとっては、膝は常に泣き所である。


走っていれば、着地する度に体重の3倍の衝撃が、足にかかってくると言われている。


それが、一日におそらくは、1万回近く繰り返されるのだ。


固いコンクリートの路面と、理不尽とも言える荷重との間で、その間にシューズのクッションが挟まれているとはいえ、膝はじっと黙して耐えている。


そう考えてみると、普段はほとんどそんな事考えもしないのだが、問題が出てこない方が、どうかしているという気がする。


だって、たまには文句を言いたくなるだろう。


「鼻息荒く走るのはいいですが、少しくらいは私の事も、気遣ってくださいよ。


一旦ダメになったら、代わりは無いんですからね」


と。


【画像出典】