2023/8/30 ナチュラリスト③ | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM


作家が描く世界への旅。


今週は、生物学者・福岡伸一のエッセイ『ナチュラリスト〜生命を愛でる人』を、番組用に編集してお届けしています。


今夜はその第3夜。



自然の不思議を感じる心、センス・オブ・ワンダー。


ハッとする事、気付きの喜び。


今も、少年少女はドリトル先生の物語に心躍らせ、大人たちは風の匂いや光の粒を、懐かしく思い出す。


ナチュラリスト・福岡伸一が語る、ドリトル先生の世界。


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ドリトル先生は、アヒルのダブダブを信頼し、豚のガブガブを可愛がり、家族として、一緒に楽しく暮らしています。


どちらも家事を手伝い、ドリトル先生のために働きます。


今、私たちが抱える、生命と自然をめぐる厄介な問題を、もしドリトル先生に問うたら、先生は一体何と答えてくれるでしょうか?


ドリトル先生はしばらく考えた後、持ち前のひょうきんさと穏やかさで、きっと次のように言ってくれるに違いありません。


「それでは、儂に良い考えがある」


ドリトル先生の物語の舞台は、19世紀前半です。


この後、世界は一気に近代化されていきます。


産業革命が展開し、工業化が進みます。


強い国が、弱い国を植民地化していきます。


[産業革命]


ですから、ドリトル先生の物語なんて、まだ色んな事が、のんびりのどかだった時代の絵空事さと、片付けてしまう事は、いとも簡単です。


しかし今、だからこそ、ちょっとだけ立ち止まって、考えてみましょう。


それならなぜ、ドリトル先生の物語は、あれほどまで強く、私たち少年少女の心を捕らえ得たのでしょうか?


どうして、ドリトル先生の物語を思い出す事は、これほどまでに、私たちに懐かしさを感じさせるのでしょうか?


少し読むだけで、そうなるのです。


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私たちに、最初にあったもの。


それは一体、何でしょうか?


それは、おそらく自然の美しさに打たれる事、精妙さに驚く事。


フォルムの奇抜さに、引き込まれる事。


動きのしなやかさに、魅せられる事。


温もりに、ホッとする事。


あるいは、風の匂いや光の粒立ちを、はっきりと感じる事。


そういう、一連の事ごとです。


それは、一言で言えば、"センス・オブ・ワンダー"と言う事ができるでしょう。


ハッとする事、気付きの喜び。


全ての事は、そこから始まります。


私たちと共に、最初にあったものは、紛れもなくセンス・オブ・ワンダーであったのです。


しかし、海洋生物学者レイチェル・カーソンが、著書『センス・オブ・ワンダー』で言う通り、つまらない人工的な物に夢中になる事、日常の良しなし事に紛れて、最初にあったものは鈍り遠ざけられ、あるいは自ら進んで、忘れ去られていてしまいます。


[レイチェル・カーソン]


大人になるとは、本来そういう事なのでしょう。


しかし、大人になっても、かつてのセンス・オブ・ワンダーは、完全に損なわれてしまう訳ではないはずです。


ほんの些細な手掛かりがあれば、全く同じではないにしろ、それを思い出す事ができるように感じるのです。


ドリトル先生の物語が持つ本当の意義も、ここにあるのではないでしょうか?


【画像出典】