『JET STREAM』
作家が描く世界への旅。
今週は、女優・杏によるエッセイ集『杏の気分ほろほろ』から、一部編集してお送りします。
杏は、1986年東京生まれ。
海外のファッションショーで活躍し、2006年ニューズウィーク誌の「世界が尊敬する日本人100人」に、選ばれる。
2007年に、女優活動をスタート。
彼女の2冊目の著書『杏の気分ほろほろ』は、女優の仕事に取り組んだ日々を綴っている。
今夜はその第1夜。
「ニューヨークでの修行」前半。
2013年1月。
彼女は、忙しい日々の中で時間を作り、プライベートでニューヨークに行く。
休みを"修行"と名付けた、真意とは?
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年末から、ニューヨークに来ている。
滞在中1週間、仕事でキューバに行ったのを加えると、3週間の海外だ。
ニューヨークの期間は、修行と称した冬休みだ。
このところ、仕事でのアウトプットが多かったから、プライベートでインプットするための時間を、とにかくたっぷりと設けたかったのだ。
日中は演技やスピーチ、ダンスのレッスンや美術鑑賞などなど。
夜は舞台観劇に、その他の時間は読書に充てる。
ブロードウェイでは、ちょうどアル・パチーノが主演の舞台をやっていて、なんと観劇後、アル・パチーノご本人にお会いする機会を頂いた。
[アル・パチーノ]
70歳を超えているとは思えないくらいの、軽やかな身のこなし。
そして、舞台が終わってからのオフの表情が、とても柔らかいのが印象的だった。
お正月が明けて、日本もアメリカも、社会がどんどん動き出していく。
そんな中で、一人漂う時間を設けた事が、何とも言えない背徳感と高揚感をもたらしてくれる。
キッチン付きのホテルで自炊して過ごす。
現地の友人の連絡先もあえて持たず、ほとんど誰とも会わず、何だか瞑想でもしているかのような気分で、過ごしている。
にも関わらず、実際はアフリカンダンスのクラスを取って、猛烈に踊ったりしている。
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マンハッタンにあるダンススタジオはチケット制で、好きなオープンクラスを受講できるのだ。
ピラティスやヨガもあれば、バレエやジャズもあり、短期間で色々体験できる。
今回、私は初めての、アフリカンダンスに挑戦する事にした。
アフリカンダンスのクラスはとても人気らしく、鏡張りのスタジオは、受講者でひしめき合っていた。
先生は、とっても明るい、黒人の男性。
「ハイ!
みんな、行くよ〜!」
と、高い声で軽めに言うけれど、とにかく容赦なく腹筋をさせ続ける。
最初は、ただの筋トレに近い。
仰向け、うつ伏せ、捻りを入れたり、浮かせた足を回転させたり。
あらゆる角度からの、止まらない腹筋の動きに、スタジオのあちこちから、悲鳴が上がる。
先生がタンクトップを着ているのも手伝って、少し前に流行った、ビリーズブートキャンプを思い出す。
[ビリーズブートキャンプ]
すぐに、汗が吹き出た。
私の前に陣取っていた男性は、スキンヘッドだったので、へばる度に、頭の跡が床に点々と付いていた。
【画像出典】





