2023/7/5 走ることについて語るときに僕の語ること③ | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM


作家が描く世界への旅。


今週は、作家・村上春樹のメモワール『走ることについて語るときに僕の語ること』より、第5章を番組用に編集してお届けしています。


今夜はその第3夜。


早朝、大学街を流れるチャールズ川沿いをランニングする作家の楽しみは、様々な人々に出会える事。


そして、川べりのランニングコースを走りながら聴く、音楽だ。


例えば、エリック・クラプトンのアルバム『レプタイル』。


何度聴いても聴き飽きないと、村上春樹は言う。


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これまでの走行記録を振り返ってみると、僕は悪くないペースで、レースのための準備を重ねてきたように思える。


6月、260キロ。


7月、310キロ。


8月、350キロ。


9月、300キロ。


走行距離は、美しいピラミッド型を描いている。


週の走行距離に換算すれば、60キロ、70キロ、80キロ、70キロ。


10月は、おそらく6月と大体同じペース。


週に、60キロで走る事になるだろう。


朝、川べりのコースで、大体同じ時間に顔を会わせる人々がいる。


インド人の小柄な夫人が、一人で散歩をしている。


年齢は、60代だろうか?


顔立ちは上品で、いつも小綺麗ななりをしている。


そして不思議に、あるいはちっとも不思議な事ではないのかもしれないが、毎日違う服を着ている。


瀟洒なサリーに身を包んでいる事もあれば、大学のネームの入った、大振りなスウェットシャツを着込んでいる事もある。


しかし、もし僕の記憶が正しければだが、一度として、彼女が同じ服を身に着けているのを、目にした事がない。


彼女が、今日はどんな服を着ているのかをチェックするのも、早朝ランニングにおける、僕のささやかな楽しみの一つになっている。


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昨日は、ローリング・ストーンズの『ベガーズ・バンケット』を聴きながら走った。


『悪魔を憐れむ歌』の、「ホーホー」という、例のファンキーなバックコーラスは、走るのには実にピッタリだ。


その前日は、エリック・クラプトンの『レプタイル』を聴きながら、走った。


どちらも、ケチの付けようの無い音楽だ。


心に沁みるし、何度聴いても飽きない。


特に『レプタイル』は、走りながら随分、何度も聴いた。


[『レプタイル』]


個人的な意見を言わせてもらえれば、『レプタイル』は、ゆっくりとランニングをする朝に聴くには、うってつけのアルバムである。


押し付けがましさや、わざとらしさが、微塵も無い。


リズムは常に確実であり、メロディはあくまで自然だ。


僕の意識は、静かに音楽に引き込まれ、僕の両足はリズムに合わせて、規則的に前に踏み出され、後ろに蹴られる。


ヘッドフォンから流れる音楽に混じって、時々後ろから、


「左を行くよ!(オン・ユア・レフト)」


という叫びが聞こえる。


そして、競技用の自転車が、シューっという音を立てて、僕の左側を走り過ぎる。


【画像出典】