2023/4/21 ファーブル昆虫記⑤ | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM


作家が描く世界への旅。


今週は、フランスの博物学者ジャン=アンリ・ファーブル著『完訳ファーブル昆虫記』第1 上から、「スカラベ・サクレ 5月のレ=ザングルの丘で」より、抜粋してお送りしています。


翻訳は、奥本大三郎。


今夜はその最終夜。


体の全てを使って、糞球を作り上げ動かす、スカラベ・サクレ。


その行手を邪魔するものは、坂道や草の根っこだけではない。


しかし、運良く巣穴まで持ち帰る事ができたら、待っているのは極上の時間である。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


スカラベは、大切な糞球を、いつも1頭で運ぶとは限らない。


しばしば仲間に手伝ってもらっている。


と言うより、仲間の方が手伝いに来る、と言った方が良いだろう。


普通、こんな風に事が運ぶ。


球が出来上がると、糞虫は雑踏を抜け出し、収穫物を後ろ向きに転がしながら、仕事場から遠ざかる。


すると、一番後から来た連中の中の一頭で、自分の糞球作りには、まだほんの少し手をつけただけなのが、そっちの方はほったらかしにして、転がっていく糞球の方に駆けつけ、幸せな球の持ち主に、手を貸してやるのである。


持ち主の方は、この手助けを喜んで受け入れるように見える。


それからというもの、2頭の仲間は協力して働き、競い合うようにして、球を安全な場所に運んでいく。


[仲間]


夫婦でもなく、仕事の仲間でもない。


それでは、この見かけの上の協力には、どんな理由があるのだろうか?


何の事はない。


球を、奪ってやろうとしているだけなのである。


熱心に手伝ってくれるこの仲間は、手を貸してやろうとまことしやかに持ちかけて、実は隙あらば、球を横取りしようと企んでいるのだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


食料を地下の食堂に取り込んでしまうと、スカラベは隅に取っておいた残土で、住まいの入り口を塞ぎ、中に閉じこもる。


扉が閉められると、ご馳走の詰まった部屋の事は、外からは伺い知れない。


さあ、今こそ人生の喜び万歳!


全ては、最前の世界の、最前のもののために、という訳である。


食卓には、豪勢なご馳走がある。


天井は太陽の暑さを和らげ、心良い、しっとり潤いのある温かさだけを通している。


静けさも暗さも、外で聞こえるコオロギの合唱も、全てが胃腸の働きを助けてくれる。


こんな夢想にふけっていると、自分がスカラベの戸口の所で、虫たちが食卓で歌う、オペラのガラテイヤの、有名な一節を聞いているような気がした。


「ああ、なんて気分がいいんだろう!


周りのみんなは忙しそう。


そんな時、何にもしないでいるなんて!」


こんな宴の喜びを、一体誰が、かき乱そうなどと思うだろうか?


しかし、知りたいという欲望は、何事も可能にする。


そして私は、その無遠慮さを持ち合わせていたのである。


ここに私は、住居侵入の結果を記しておく。


糞球は、それ1つだけで、部屋がいっぱいになっている。


豪勢な食料は、床から天井まで達しているのである。


球と内側の壁との間に、狭い通路があり、そこに食事の仲間がいる。


多くても2頭。


大抵は、1頭である。


[巣穴]


腹を食卓に、背を壁に向けている。


一旦席を定めると、もはや動かない。


全力を上げて、食べ物を消化する事に没頭している。


ちょっとでもふざけたりして、一口分食い損ねるような事はしないし、食べ物をいい加減に齧ってみたりして、無駄にする事はない。


何もかも、順序正しく、大切に食べ尽くされなければならないのである。


【画像出典】