2023/1/12 フィンランドは今日も平常運転④ | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM


作家が描く世界への旅。


今週は、芹澤桂のエッセイ集『フィンランドは今日も平常運転』より、一部編集してお送りしています。


今夜はその第4夜。


フィンランドの長距離電車(VR)に導入された、エクストラという特別車両に、お連れします。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


フィンランドの長距離電車に乗っている。


最近、フィンランドの国鉄VRに導入された、エクストラという特別車両の一席だ。


[VR]


ちょっと料金を上乗せするだけで、ゆったりとした椅子。


誰とも隣り合わない、一人だけの窓際の席、電源プラグ。


[エクストラ]


それから、フィンランド人が色めき立つ、無料のコーヒーと紅茶がついてくる。


その横には、機内食で出てくるような、背の低い透明プラスチックに、アルミ製の蓋がついた水も置かれていて、国内の移動なのに、ちょっとした旅行気分になる。


コーヒーの入った大型ポットは、あっという間に空になったのは言うまでもなく、新しいポットがやってくるまで、みんなソワソワしていた。


[ポット]


車窓からの清々しいほど退屈な風景。


牧草、白樺、湖、白樺、松、時々太陽、の繰り返しの鑑賞もさる事ながら、人間観察が捗ってしょうがない。


言うなれば、日本のグリーン車に当たるこの車両で、私はビジネスに集中する愛すべき乗客たちと、安らぎの時間を分かち合うものだと期待していたのだけれど、必ずしもそういう訳にはいかなかった。


2時間半に渡る旅程で、最初の1時間ほどは、ノートパソコン相手にオンラインミーティングで、フィンランド訛りの英語を喋りまくる人がいて、うるさかった。


それが終わったかと思ったら、後方席で、イヤホン無しに動画を視聴する輩がいた。


このイヤホン無し族は、残念ながらフィンランドの公共交通機関では、びっくりするほどの確率で遭遇する。


イヤホン、1個も持っていないなんて事、ないだろうに。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


冴えない天気の秋の週末、朝10時に、地方都市を出発した電車の特別車両は、ヘルシンキに着くまでに、およそ2時間でほぼ満席になった。


斜め向かいの二人席に、6歳くらいの男の子と並んで座っている女性は、足元に寒さ対策だろう、カラフルな手編みの毛糸の靴下を履いて、ブーツは脱いでいる。


電車の中でくつろぐ際に、毛糸の靴下を持っていくのは、スリッパよりもかさばらないし、いい方法だなと参考になった。


私の座っているシングル席が並ぶ列は、見事にノートパソコンを開いた人ばかりで、土曜の朝だというのに、働いている稀有なフィンランド人を見る事ができる。


とは言っても、誰一人この車両だけでなく、4両編成の電車の、おそらく誰一人として、スーツを着ている人はいない。


隣のボックス席に座る女性一人客は、分厚いペーパーバックを読んでいる。


フィンランドは、よく本を読む、と言われている。


1車両のうち1割くらいは、紙の本を読んでいる人がいるから、本当なのかもしれない。


それから、日常的すぎて書くのを忘れがちだけれど、編み物をしている人も必ずいる。


そういえば、先日も通勤バスの中で、前に座っていた、ちょっと大柄で髪が赤く、ピアスをいくつも着けた、一見怖そうなお姉さんが編み物をし出して、勝手に温かい気持ちになった。


見る者を、何となく平和な気持ちにさせるのだ、この高尚な趣味は。


【画像出典】