2022/8/19 ハワイイ紀行⑤ | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM


作家が描く世界への旅。


今週は、『JET STREAM in HAWAII』。


作家・池澤夏樹の旅行記『ハワイイ紀行』より、一部編集してお送りしています。


今夜はその最終夜。


ハワイイ人が踊るフラ。


その言葉と踊りの意味を知れば知るほど、池澤はさらに興味を引かれていく。


例えば、首飾りのレイ。


花や緑の葉を編むレイはもちろん、貝殻でも作るという。


『ハワイイ紀行』第5夜は、ビショップ博物館に勤める、レイの専門家デイナの話。


ハワイイの伝統と人々の素顔に出会いながら、池澤夏樹の旅は続く。


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フラの先生ヴィッキー・ホールト・タカミネと会って話を聞いた時、彼女はレイを首にかけていた。


幾種類もの花を編んだり寄ったりして、ずっしりと重そうだ。


「とってもいいレイですね」


と言うと、


「友達に貰ったの」


という答えが返ってきた。


「今日はずっとこれをかけていようと思って」


そういえば、フラではレイも大事なものではないか。


競技会で踊る人たちは、みんなレイを頭に載せているし、特にカヒコの方の踊り手は、首や手首足首にもレイをしている。


[踊り手]


花のレイもあるが、緑の葉だけのものも多い。


踊りが激しいと、レイから葉や茎の破片が飛ぶ事もある。


だから競技会では、次のグループが出てくる前に、床を掃除する係までいた。


レイと言えば、つい観光客が空港で首にかけてもらうような、花を連ねた長いものを考えるけれども、レイにはもっと色々種類がありそうだ。


僕は、ヴィッキーに尋ねてみた。


すると、


「レイの話を始めたら大変。


フラと同じように種類も多いし、意味も様々だし。


いくら話しても、キリがないわ。


でも、レイの事を知りたいのなら、デイナに聞くのがいいと思う。


なんと言っても、専門家だから。


フラとレイの関係についても詳しいわ。


私も、大事な場で踊る前には、よく彼に作ってもらうの」


僕は、早速ビショップ博物館に勤務しているという、デイナ・カウアイ・イキ・オローレスに連絡を取り、ヴィッキーの紹介だと言って、話を聞かせてくれるよう頼んだ。


火曜日の午後、ビショップ博物館に行って、デイナに会った。


長髪で若い顔をしているが、実際には30代の半ばだろうか。


彼は何も知らない素人に、懇切丁寧にレイの事を教えてくれた。


デイナはカウアイ島の生まれ。


ハワイイ系の家に生まれ、伝統的な生活の中で育てられ、ハワイイの固有文化をたっぷりと身につけた。


そのおかげで、今はビショップ博物館で、レイをはじめとするハワイイ文物についての、専門家として働いている。


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「レイは、ただの飾りではない。


店に行って買うものでもない。


自然から霊力(マナ)を引き出すために、自分の手で作るものだ」


デイナが言う。


「僕のおばは、なんとなく元気がないなという時、僕たちに山へ行ってオラパの葉を採ってきてと頼んだものだ。


その葉を結んでレイを作るんだ。


そして、昼間は身につけていて、夜になると寝床に置いてその上で寝る。


そうすると、オラパのレイにこもったマナが、体に移ってくれる」


なるほど、と僕は感心した。


植物の使い方には色々ある。


薬草の事ならば、どの文化圏でもある程度は知られている。


しかし、身につける事で力を発揮するというのは、まさにハワイイ流のマナの考え方だ。


「ティーは知ってる?」


と、デイナが尋ねた。


ティーならば知っている。


ハワイイではどこにでもある小さな木で、小さい割に大きな葉が付いている。



[ティー]


「ティーは、邪心を払うんだ。


沢山の人の前に出る時、その中にはひょっとしたら、君を妬んでいる者がいるかもしれない。


そういう気持ちそのものが、本人の意思とは別に、良くない影響を与える事がある。


だから、人の集まりに出る時は、ティーの葉で作ったレイをしていく。


ティーは、精神的なのも肉体的なのも含めて、あらゆる害を払ってくれる。


煎じて飲むのもいい。


レイは、キノラウダと僕たちは言う。


つまり、神様の体。


神様の体を分けてもらって、それからマナを得る」


「それで、フラの場合は?」


と、僕は聞いた。


「フラの場合も同じ。


神様のために踊るのだから、そのための力をキノラウに仰ぐ。


それぞれの神様に合わせて、レイを作らなければならない」


ここでも自然観察者、自然素材活用者としての、ハワイイ人の感覚が発揮されている。


デイナは続ける。


「フラの時は、頭と首と、手首足首にレイを着ける。


頭のは、レイ・ボオ。


考えがよそに散らず、踊りに集中できるようにする。


首のは、レイ・アイ。


これは、声がナヘナヘ、つまり美しく優雅になるように着けるんだ。


手足のは、レイ・クペエ。


元々クペエは貝の一種で、昔はその貝殻でレイを作ったらしい。


今は、草やシダや花で作るけれど、貝殻のレイはニイハウ島の特産。


あの島は、花が少ないから、貝殻でレイを作った」


僕はもう、口を挟む事もせず、ただデイナの話を聞いた。


【画像出典】