2022/8/1 やせる旅① | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM


作家が描く世界への旅。


今週は、写真家・編集者・ジャーナリスト、都築響一のエッセイ『やせる旅』より、一部編集してお送りします。


今夜はその第1夜。


旅の目的は、人それぞれ。


しかし、その目的とセットになっている、と言っても過言ではないのが、食。


むしろ旅の醍醐味に、食を挙げる人も、多いだろう。


いつもと違う、美味しいもの。


せっかく来たんだから、元を取りたい。


そして、家に帰って思い知る事となる、体重の増加。


そう、旅は、太る。


これまで、どれだけ多くの人が、この事実に目を逸らしてきたのだろうか?


今週は、その事実に、真正面から立ち向かった男の物語。


その男は、こう言う。


「旅をしつつも、痩せてみたい!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ヒマラヤの深い山々に隠れた理想郷を、"シャングリラ(桃源郷)"という名で描いたのは、ジェイムズ・ヒルトン。


[ジェイムズ・ヒルトン]


『チップス先生さようなら』でお馴染みのイギリス人作家が、1983年に発表した『失われた地平線』の中で、初めて使った造語。


それが、"シャングリラ"である。


中国雲南地方からチベット、ネパールに至るまで、我こそはシャングリラと主張する観光地は少なくないが、その中でもとびっきり有力候補が、ブータン。


インドと中国チベット地区に挟まれた、ヒマラヤの小さな王国。


世界の旅行マニアたちが目指す、最終目的地の1つだ。


海抜100メートルの亜熱帯から、7561メートルの万年雪を抱く高山まで、圧倒的な標高差がある。


鎖国を解いたのが、1971年。


1982年になるまで、飛行機が入れなかった国。


今でも、旅行者は年間6000人ほどしか訪れなくて、全土で交通信号機がたった1つ、エレベーターが3つしかない国。


それが、ブータンだ。


世界中の王国で一番若くて、噂では一番ハンサムな国王が統治するこの国は、国民1人あたりの年収が5万円あまりと、世界最貧国の1つでありながら、GNP(国民総生産)ならぬGNH(国民総幸福量)を国の基本政策に掲げ、教育も医療も全て無料である。


水力発電所が1ヶ所だけある他は、国内に1つも工場を置かずに大気汚染を防いでいるし、2004年からはタバコの販売禁止、旅行者が持ち込む分には高額の関税がかけられるという、世界初の禁煙国家でもある。


半端なエコブームとは次元の違う、徹底した健康国家なのだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ブータンの料理は、世界一辛いと評判だ。


なんてったって世界で唯一、唐辛子を野菜として食べる人たちなのだから。


ヘトヘトになるまで山を歩いて、気絶するほど辛い料理を食べたら、1週間で2キロや3キロは軽く痩せられるかもしれない。


食事は基本的に実にシンプルで、エマダツィと呼ばれる、チーズと唐辛子を煮込んだおかずに、赤米を炊いたご飯を食べる。


[エマダツィ]


これが基本で、普通は昼も夜もこの組み合わせが一年中続く。


もちろん、他におかずが何品か増える場合があるが、王室から庶民まで、エマダツィとご飯のセットは欠かせない。


中国料理の肉ピーマン炒め。


あのピーマンが、唐辛子になったと思ってくれたら、大体イメージが掴めるだろうか?


唐辛子を野菜として食べるという未知の経験に、脳みそから指先まで、痺れが走るようなノックアウト級の辛さを、ぜひ一度は味わっていただきたい。


ブータンの人は、自分たちの食事を外国人が食べられるとは思ってもいないので、黙っているとマイルドなインドやネパールの料理を出されてしまう。


エマダツィの作り方は、鍋に水を入れて、大きな唐辛子が軟らかくなったところで、コテージチーズのような地元のチーズを加えて、出来上がり。


これに、玉ねぎなどを足す事もある。


試してみては、いかがだろうか?


【画像出典】