その夜はとても過ごしやすい夜…のはずだった。


AM4:00を過ぎた頃、あの恐怖とも言える音で目を覚ました。
「まさか…‼‼⁉」
こんな時期にやつがくる訳がない…。
ボクは、きっとただの空耳だろうと思っていた。いや、そう思いきかせていた。


しかし、ボクはすぐに恐怖の現実を叩きつけられるのであった…。


「っっ…。左手の中指が痒い…‼‼」

恐る恐る自分の中指を見ると、そこには、わずかに腫れ上がった桜色の痕が…。
「やられた!よりによって1番痒くなる指をっ!」

応急手当の為、少し腫れているその痕に、爪でバッテンを作る…。
しかしその間に…ボクの耳元であの音が鳴る。

“プゥ~ゥ~ン”


ボクは理性を失っていた。“報復”という2文字がボクの中を支配した。
夜中かどうかなんてものは関係なかった。
全ての電気を付けヤツを探し出す…。
息を潜め…目で部屋中をくまなく見渡す…。


いない。

ボクは迷わずタバコに火を付けた。部屋の中は禁煙にしていたのだが、そんなものは関係ない。

この時期に蚊取り線香やベープなどないのだから…。

少し深く吸い込んだタバコの煙を棚の裏に吹きかけた…
すると、壁づたいに吹き上がる白い煙の中に小さい黒い点が見えた。

ヤツだ。



「消えて無くなれぇぇぇ!」


電光石火の如くほとばしる右手の平が壁に突き刺さる。


バンッ‼




ボクは静かに手の平を見た…。
壁はヤツに吸われたボクの血で染まっていた…。
ヤツは生き絶えていた。


壁の血をティッシュで拭きながら、我に返ったボクは思った…。
「こんな結末しかなかったのか?」と。
「憎しみ会い、殺し合う事でしか解決できなかったのか?」と。

自問自答を繰り返し…バッテンのついた痕にキンカンを付け、ボクはまた穏やかな眠りについた…。

そして、朝…。
今度は目の痒みで目が覚めた。

「ちっ…今度は花粉かっ!」
布団から起き上がり洗面所にむかう。
眠い目と痒い目をこすり、鏡に向かう。


ボクは恐怖で言葉を失った…。

何故ならその目の痒みは…
“報復”だったのだから。
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