オレはヒドイ奴だった…。

人を裏切るコトなんて、何とも思わなかった。

人を傷付けるなんて、何とも思わなかった。

人の人生が崩れていく様は、何よりも素晴らしいエンターテイメントだと思っていた。

そんなオレのせいで全てを失った人間は皆、

「お前はいい死に方をしない!」
口々にそう言っていた…。



しかしどうだろう?
皮肉にも私は94歳になり、ひ孫までいる。
今こうして沢山の家族に囲まれ、病院のベッドで静かに…先立った妻の迎えを待っている。

「いよいよか…………」
私には分かっていた…。
身体は動かず、しゃべるコトもできない。

しかし聞こえる。子供達の…孫達の…ひ孫達の……
オレを呼ぶ声が……。

おまけに雲一つ無い天気。

くしくも、オレは“最幸(さいこう)な死に方”で人生を終わる。


長男は一言も言わず静かに涙を流した…。
「泣くな!オレは幸せだった!こうしてみんなに囲まれて逝けるんだから…」

大学生の孫娘はオレの手を握り、ずっとお祈りをしてくれていた。
「優しい子に育っなぁ…。その温かい手…死んだ家内にそっくりだ…
お前はイイ女になる。」

次男の孫のせがれは、まだ3歳だったかな……?
その辺を元気に走り回ってる。
「お前にはまだ“死”理解できないか…。ただお前はそのまま元気に、元気に生きて行くんだぞ。」

『おじぃ!起きて!!!』

こらこら…元気だなぁ。残念だが、おじぃはもう動けないぞ。

『おじぃ!!浣腸!!!!!』

こらこら…元気だなぁ。でもそんなコトをしても、おじぃはどうにもならんよ。

『おじぃ!!見て!??点滴ロケットぉ!!!』

こらこら………おじぃの点滴の針が抜けたぞ。

『おじぃ!!アメあげる!!』

こらこら……舐めかけのチュッパチャップスを鼻に入れるんじゃない!!
息ができないから!!

『スーパーターボジェットON! おじぃスーパースイッチOFF!!』

こら!!!そのスイッチは!!
ダメだって!!

『おじぃ!浣腸!!』

コラ!!!
ズボンを下ろして直に浣腸をするな!!
それより早く!早くスイッチを戻せ!!死んじゃうから!!

『アメあげる!!』

新品のチュッパチャップスはもう一方の鼻の穴には入らないから!!
イイからスイッチを戻せ!!
いくら覚悟できてるからって……
ひ孫のいたずらで死ぬ……なんて………
鼻からチュッパチャップスの棒、2本出て……るから………
せめて……丸出しの…お尻…を……隠し……………て く………れ……………………。


……………………。


家族は皆泣いていた…。
『なんちゅう死に方してんだ!』と。
笑い転げていた。