こぶ~さん、実はかなりの映画好き。

韓国ドラマを観るようになったのも映画がきっかけでした。

 

最初に観た韓国映画ではないけれど今も印象に残る「共同警備区域 JSA 」( 2000 )

 

キム・グァンソクが切々と歌う「二等兵の手紙」が思い出されます。

 

もう一本挙げるなら「春の日は過ぎゆく」( 2001 )かな。
 
異性を部屋に上げる口実、「ラーメン、食べますか?」あるいは「ラーメン、食べていく?」という伝説的セリフを生み出しました。
 
え、どちらにもイ・ヨンエが出演してるだろうって?
それはまあ、きっと、たまたまです (^^ゞ
 
おっと、のっけから話が逸れてしまいました。
 
今回お題にするのは、初恋映画の金字塔といわれる「建築学概論」( 2012 )
公開時の観客動員数が 400万人を超えたヒット作でもあります。
ポスターに記されたコピーが「私たちは皆、誰かの初恋だった」
 
今まで映画をあまり記事にしなかったのは、ネタバレがどうしても避けられないから。
けれども今回は、完全なネタバレ進行となる事をあらかじめご了承ください。
サスペンスやミステリではないので、許される範囲かとの勝手な判断です。
 
このお話は「現在」と「あの頃 1996年」が交差します。
 
「現在」
開浦洞(けぽどん)に暮らす江南(かんなむ)奥様 ヤン・ソヨン(ハン・ガイン)が、建築事務所に勤務する建築士 イ・スンミン(オム・テウン)を突然訪ねます。
 
ふたりは大学時代の知り合いの筈なのに、何とも微妙(というか不穏)な空気が漂います。
 
ソヨンの用件は「済州島(ちぇじゅど)に家を建ててほしい」
 
ところがスンミンは「戸建はウチの専門じゃない」「上司の許可が取れない」などと理由を付け、何とか依頼を断ろうとします。
なのに所長が余計なひと言「とんでもない、そうしたご依頼は弊社も大歓迎です」
 
かくしてスンミンは、済州島のソヨンの家を設計施工する羽目に。
 
江南奥様のソヨンに似合うようスンミンはモダンな設計案を幾つも提示しますが、ことごとく却下されてしまいます。
 
「横文字を並べて英語村でも作るつもり?」とか、それはもうさんざんな悪評。
このふたり、全く気が合っていないようです。
 
「どれも親しみが湧かない」と言うソヨンに、ソヨン父が建てた築 30年の古家の躯体を活かし、リノベーション(改築)してはとの提案が出ます。
(実はスンミンのアイデアではない)
 
「これが良いと思う」とようやく OK が出て、工事が始まります。
 
はてさて、工事の行き着く先は。
 
 
「 1996年」
音楽科 1年生のヤン・ソヨン(ペ・スジ)は、一般教養科目として建築科の「建築学概論」を受講します。
 
そういえばこぶ~がまだ学生だった頃、他科の専門科目の受講が推奨されていました。
今ではどうなのでしょうか。
 
「建築学概論」最初の課題は、自宅から大学までの道を地図に記す事。
自分が暮らす街を再認識しようという趣旨です。
また、この地図で舞台が新村(しんちょん)の延世(よんせ)大学と分かります。
(実際の撮影は別の大学)
 
済州島出身のソヨンは、ソウルにはやって来たばかり。
 
寄宿先がたまたま貞陵洞(ちょんぬんどん)というだけなので、教授の「貞陵は誰の陵?」との問いに「正祖… 正宗… 丁若鏞?(ちょんじょ、ちょんじょん、ちょん・やぎょん?)」という珍回答で周囲の失笑をかってしまいます。
ちなみに正祖(ちょんじょ)は、ドラマ「イ・サン」( 2007-08 MBC )の主人公でもある朝鮮王朝 22代王。
陵は水原(すうぉん)の隣、華城(ふぁそん)市の健陵(ごんるん)
 
正宗(ちょんじょん)は、かつての正祖の廟号。
けれども現在では日本酒の代名詞(だった筈)
 
丁若鏞(チョン・ヤギョン)は正祖の直属の部下。
健陵のある水原華城(すうぉんはそん)の建設に貢献。
 
語呂合わせだけではなく、一応、正祖つながり。
 
貞陵は朝鮮王朝の始祖「太祖(てじょ)」の継妃、神徳王后(しんどくわんふ)陵が正解。
でも実は、笑った周りの学生たちだって同類項。

瑞草洞(そちょどん)に暮らす遊び人、江南先輩ジェウク(ユ・ヨンソク)も漢江(はんがん)を挟んだ隣町、普光洞(ぽぐぁんどん)が全く分かりません。
「普光洞ってソウル市内 ? 」と迷回答。
今をときめく梨泰院(いてうぉん)のすぐ傍なのに。
 
関係ありませんがユ・ヨンソクは「応答せよ 1994 」( 2013 tvN )のチルボン役。
チルボンも江南出身で、まさしく同時代の延世大野球部のエース。
そうか、江南先輩はチルボンの闇の姿だったのか…
 
建築科 1年生のイ・スンミン(イ・ジェフン)は地図を辿り、ソヨンが同じバスで通学している事に気付きます。
 
スンミンは貞陵生まれの貞陵育ち。
貞陵はソウル市内とはいえ、北部の急斜面にあるかなり庶民的な街。
それを、ちょっとしたコンプレックスに感じています。
こうした地理感覚が、外国映画の難しさと感じる時があります。
 
貞陵洞は、ソウル北部の仏教シリーズ稜線、普賢峰(ぽひょんぼん 727m )、文殊峰(むんすぼん 727m )、羅漢峰(なはんぼん 715m )への登山口でもあり、「ソウルとは思えない自然が残る」と言われたりします。
 
対照的な瑞草洞、開浦洞などのある江南エリアは、都市計画に基づく高層アパート(マンション)が林立し、お洒落なお店が多く集まる新興富村(新興高級住宅地)です。
 
つい東京での例えを考えてしまいますが、発展過程や地理的条件が異なるため、比較はあまり意味を持たないようです。
 
もうひとつ、「延世大学」と特定可能な描写も気になります。
韓国の進学熱をシニカルに描いたドラマ「 SKY キャッスル」( 2018-19 JTBC )の「 SKY 」は、ソウルの大学御三家
S = ソウル大
K = 高麗(こりょ)大
Y = 延世大
を象徴しています。
 
延世大はプロテスタント系私学、東京六大学で例えるなら…
 
どんな屁理屈を述べようとも、スンミンはこんなに可愛い子がご近所さん!と密かに浮かれ、ソヨンにすっかりひと目惚れ。
 
1990年代とはいえ、ファッションに疎いこぶ~から見てもソヨンの装いは相当にあか抜けていないように思えます。
時流に合うのはせいぜい、ぺたんこ靴くらいでしょうか。
 
大学時代のソヨンを演じた、ペ・スジが所属するアイドルグループ「 miss A 」ファンの一部からは「あまりに古い、歪曲された初恋イメージ」などと酷評されます。
ペ・スジは 1994年生まれ。
同世代のファンからすれば自分たちが生まれた頃、親世代といえるのかもしれません。
 
その一方 1980-90年代にリアルキャンパスライフを送った層からは「国民の初恋」と絶賛されます。
 
「建築学概論」の課題、「自分が暮らす街を旅する」のため、スンミンが貞陵を歩いていると、思いがけず(同じ課題をこなす)ソヨンに出逢います。
 
「ここは空き家なんだ。でも、理由はよく知らない」とスンミン。
それにはお構いなく、空き家に入り込んでしまうソヨン。
 
「私はこの街をよく知らないから、地元のあなたと一緒に課題をしよう」と、ソヨンに誘われたスンミンは心の中では完全に有頂天。
 
物語序盤のこの場面が、実はかなり微妙な影を落としています。
あか抜けない、地方出身で知り合いもいないソヨンが、不安感を積極性に転換しようと努めるのに対し、地元を少し恥じ、自分のダサさを自覚するスンミンは消極的に口ごもります。
 
様々な思いはあれど、課題を一緒にする事にしたふたり。
今日はバスに乗って、お出かけします。
 
スンミンの Tシャツにご注目。
ロゴが「 GEUSS 」?
 
ある日、自分では一張羅だと思っていた Tシャツが、いわゆるパチモンと知らされた上、ソヨンにもそれを知られてしまい、スンミンは絶望的な気分に陥ります。
 
「こんなシャツ捨ててやる!」と、スンミンは母親に毒づきます。
 
しかし物語終盤 15年が経ち、物を捨てられない母親が、あの「 GEUSS 」を今も着ている事に大人となったスンミンが気付きます。
「幼過ぎた僕の姿」の残像ってやつでしょうか。
 
更にはヤン・ソヨンの大学時代を演じたペ・スジがその後、本家「 GUESS 」の広告モデルになったりして、混乱の度が一層深まります。
これはまあ、余計なお話。
 
本題に戻り、今回の課題は「遠くに出かけてみる」
貞陵から一番遠くまで行くバスに乗り、江南までやってきたふたり。
 
15年後のソヨンが暮らす、開浦洞(けぽどん)
バスの中でソヨンが「ケポドン?何だかミサイルみたい」とつぶやきますが、北朝鮮の弾道ミサイル「テポドン 1 号」の存在が実際に知られたのは 2年後の 1998年。
まあ、ちょっとしたご愛敬です。
 
急斜面の多い貞陵とはあまりにも異なる、高層アパートが建ち並ぶ新興高級住宅地の風景に加え、スンミンはここで相当なカルチャーショックを受けます。
 
ソヨンの母が早くに亡くなった事、スンミンの父も亡くなったなど、互いの身近な話をしていると、ソヨンが当時の最新型 CD プレーヤ「ソニー・ディスクマン D-777 ( 1995年発売、新品価格 32,800円)」を、トートバッグからさりげなく取り出します。
 
この画像では分かりにくいですが、ダイモテープライターで打ち出した「 SEOYEUN 」という名前が貼り付けてあるあたり、郷愁を誘う憎い配慮です。
日本では 1990年頃からデジタル式のテプラが普及し、機械式のダイモは廃れてしまいました。
 
更にイヤフォンを差し出され、「一緒に聴こう」と誘われます。
 
異性とイヤフォンを共有し、音楽を一緒に聴くなんてスンミンにはおそらく初めて。
 
しかも片方のイヤフォンから流れてきた曲が、とてつもない衝撃。
 

キム・ドンリュルとソ・ドンウクのデュオ「展覧会(チョンラムフェ)」が歌う

「記憶の習作」( 1994 )

( 전람회 [ 기억의 습작 ]  1994 )

 

スンミンは、あまり音楽に親しむタイプではないようです。
部屋にミュージシャンのポスタなどは無く、古いレコードプレーヤに LP レコードとカセットテープが少しだけ。
 
自分が知らなかった内面を表現するような曲の存在に驚き、ソヨンが「好きな歌」として日常に組み入れている事も驚きです。
 
有名曲を意味取るのは、強烈に恥ずかしい(笑)
なので文字が微妙に小さく…
超絶意訳なので、あまりあてにしないでくださいね(^^ゞ
もう 耐えられないのと 哀しく笑い 僕の肩にもたれ
(きみは)瞳を閉じるけれど

今なら 言えるよ きみの哀しい瞳が 僕の心を
辛くさせるんだ

僕に話してくれないか

* (もし)きみの心に 入る事が出来たなら
幼過ぎた 僕の姿には どんな意味があったのだろう

長い年月が過ぎ 僕の心が疲れはてた時
僕の心の中には 薄れかけてゆく きみの記憶が
また よみがえる

思い出すだろうか 大きくなり過ぎてしまった未来
そんな夢の中では 忘れかけていた きみの記憶を
思い出せるだろうか *
 
* - * Rf.
 
長い年月が過ぎ…
この曲が、映画の中の若いふたりを象徴しています。
とはいえ、この歌詞の苦い意味を知るには、ふたりはまだ若かったようです。
 
余計な事ですが「建築学概論」を監督したイ・ヨンジュは 1970年生まれで延世大出身。
「展覧会」のメンバー、キム・ドンリュルとソ・ドンウクは共に 1974年生まれで延世大出身。
「記憶の習作」はキム・ドンリュルが作詞作曲を手掛け 1994年に発表。
 
1990年代のリアルが微妙に交錯しています。
 
つまり、劇中のスンミンが知ったら気絶しそうな事実。
「記憶の習作」を歌う「展覧会」のふたりはスンミンとほぼ同年代なのでした。
 
ここまででちょっと力尽きた感があるので、次回へとつづきます。