僕が9歳だったころ、僕はアルジェリアの路上にいた。
僕は路上で新聞を読む。
僕は黒ぶちのメガネをかけている。
メガネは拾ったの。
新聞も拾ったの。
口にしているマンゴーは、近くの木に生っていたんだ。近所のおじさんがくれたんだ。
おいしいよ。
僕は新聞にたまに出てくる「日本」に興味があったんだ。
日本日本日本日本
平面上に出てくる日本は僕の中で平面ではなくて、もう現実の土地として頭の中にあって、いつか絶対日本にいってやるってずっと思ってた。
周りの奴らは新聞なんか読まないさ。
だから日本なんて知らないのさ。
あいつらの中では「日本」という文字は新聞紙を彩る模様にしか過ぎないんだ。
なんてバカなんだろう。
だから無学のやつって嫌いなんだ。
ただのマンゴーかじって
おいしいおいしいといって
30、40年後もこの土地で生きるのさ。
僕は絶対みんなと同じにはならない。
シャープ、トヨタ、ホンダ、精鋭で進んだものづくりが得意な国なんだ!
日本はこんなにもすごいんだ
10年後―
僕はオオサカにいた。
僕は黒ぶちの眼鏡をかけていた。
僕はカフェで新聞を読む。
メガネはヨドバシカメラで買って。
新聞は御堂筋のホームの売店で買って。
ほらね日本は間違いじゃなかった。
僕は間違いなくステイタスとお金を手に入れたよ。
だって外国で働いてるんだよ
先進国日本で
すごいじゃないか
僕はすごいんだ
僕は
僕は
僕は。
僕の仕事はなにかって。
僕の仕事はゴミ拾いさ。
だってゴミ拾いでもアルジェリアの平均賃金のお金がもらえるのさ。
ただ日本のマンゴーは高くてまずい。
おいしくない。
だってアルジェリアの新聞には書いてなかった。
日本がこんなに固くて体制がすすんでない国ということ
外国人就労者がこんなにも働きづらいこと
新聞の隅から隅まで読んでも書いてなかった。
マンゴーがこんなに高くてまずいことも書いてなかった。
アルジェリアのマンゴーはうまかったな
