クリスマス・イブを目前とした、ある日。


山本家では一騒動があった。

朱莉とデートの為に24日の夜は外出させて欲しいとの山本君の申し出に、父・徳之進が猛反発したのだ。


「ま〜だ、そのような、たわけたことを申すか!

この西洋かぶれめがッ!!」


その剣幕に、お母様も呆れ顔。


「もう、お父さんたら!

今時そんなこと言う人は居ませんよ!!

もう磯之進も高校生なんだし、クリスマス・イブくらい自由にさせてあげたらどうですか」


「うるさいッ!!

黙れ黙れ!!

………そこまで申すなら、我が城に姫を呼べば良い!!」


というムチャクチャな流れで、24日は朱莉を山本家へ御招待することとなったのだった。


山本君は困った。

自分一人であれば、この厄介な父親に対応出来るが………

果たして朱莉はどう思うか?

時代錯誤な父に、朱莉が傷付けられるようなことがあってはならない。


(姫様を、御守りせねば!)


山本君は早急に対策を練ることにした。

まず、朱莉に相談する。


「え?

山本君の御父様が、私を招待してくださるの?」


何も知らない朱莉は嬉しそうな感じだったが………山本君は自分の父親の素性について説明する。


「………わかったわ!

私なりに考えてみる」


朱莉は賢い娘だった。


24日当日。

朱莉は学校から自宅へ帰ると、あらかじめ母親に用意してもらった振袖に着替える。

何と、朱莉はクリスマス・イブに振袖姿で山本家へ訪問するつもりなのだ!

それもこれも、古風な考えの山本君の父に対応する為である。

海外在住の頃、外交官である父親の開くパーティで振袖を着る機会があった為、朱莉の着こなしも慣れたものだった。


夕方の5:30過ぎ。

朱莉は山本家へと到着した。


玄関から山本君が付き添い、それまで入ることの無かった居間へと通される。

朱莉に合わせて、山本君も羽織袴姿だ。


居間は20畳ほどの大広間で、上座には大きな掛け軸に「八幡大菩薩」とあり。

その手前には長さ二尺以上はあろう日本刀が鞘に収まり脇差しと共に立て掛けてあった。

それらを背に、山本君の父・徳之進は厳つい顔で座り。

朱莉を迎えた。



朱莉は、徳之進の正面二間前まで摺り足で寄り。

正座し三つ指をつき、深く頭を下げる。

その右斜め後ろに山本君が座って控える。


「………朱莉にございます」


挨拶する朱莉を、徳之進は眼光鋭く見据える。


「我は磯之進が父、徳之進である。

そなたに尋ねたき義を申す」


朱莉は顔を伏した姿勢のまま、黙して聞き入る。


「なにゆえ、磯之進を慕い申すか?

かような愚息などではなく、世間には他に男子(おのこ)など、幾らでもおるものを。

何ぞ他意でもあるか?」


顔を伏したまま、朱莉は答える。


「いいえ。

けして、そのようなものはありませぬ。

ただ、ただ、磯之進様をお慕い申し上げております」


朱莉は常日頃、山本君との会話から昔風の言葉使いに慣れていた為。

自分でも驚く程すんなりと話せている。


と、おもむろにカッと目を見開く徳之進。


「それはまことか!?

偽りを申すでないぞッ!!」


徳之進の剣幕にも臆せず、朱莉も声を高くして訴える。


「偽りではございませぬ。

山本君……磯之進様は………この私を常々大切にしてくださいます。

まこと、優しい方にございます。

そのような磯之進様を……朱莉も心からお慕い申し上げております」


その時。

朱莉の胸には………

海外から帰って来たばかりで誰一人心を許せずにいた自分を、今日まで包み込んでくれた山本君の姿が去来していた。

山本君の優しさが心に沁みた日々を思い出していた。

山本君の父親から問いただされたことで、自分の彼への思いがどんなものかを、改めて思い返していたのだった。

すると……朱莉の瞳からは涙が溢れて来た。

徳之進の剣幕が怖いからではなく、そんな朱莉の感情の昂りがそうさせたのだった。


「………お願いにございます!

どうか……どうか磯之進様との仲をお許しください」


頭を下げたままの朱莉の涙がポツリ、ポツリと畳を濡らした。

山本君も貰い泣き寸前だった。

改めて朱莉の自分への思いを聞くことになり、胸が一杯となっていた。

朱莉の啜り泣きが、広い居間に響いた。


徳之進も表情を変えていた。

自身にも思いがけず、申し訳無い気持ちが生まれていた。

そもそも……この時世に、このように律儀な振る舞いの出来る女子(おなご)がおろうとは!


「良い……………もう、良い。

磯之進!」


徳之進は懐からハンカチを取り出し、近寄った山本君へ渡した。


「………吹いて差し上げろ(涙を)」


朱莉は山本君に抱きかかえられながら、ハンカチで目を覆った。


徳之進が、パン!パン!と手を叩くと。

障子戸を開けて、お母様が料理の膳を抱えて入って来る。

呆れ顔だ。


「もう!

いい加減、二人とも"戦国ごっこ”止めたら!?

ほら〜、朱莉さん泣いちゃってるじゃないの!!」


バツが悪そうな父・徳之進。

膳を並べる妻と息子をよそに、朱莉に向き直り、頭を下げる。


「朱莉殿。

そなたの心持ち、この徳之進。

しかと承った!

かような愚息であるが、よろしく頼む!!」


朱莉は、未だ涙をたたえた瞳のまま。

再び三つ指をつき、頭を下げる。


「……………ありがとうございます」


朱莉の姿に同情する、お母様。


「ホントにねえ。

わざわざ今日の為に、こんな綺麗な振袖まで着て来てもらえるなんて………

そちらの親御さんにも申し訳無いわ」


配膳された料理にだけは、今風にフライドチキンやサラダ、サンタの乗ったショートケーキ等が並んでいた。

それに着物姿の三人………

この時代的ミスマッチ感漂う空間で。

若い二人にも、ようやく笑顔が戻って来ていた。


まるで正月のような………
日本的クリスマス・イブの山本家であった。


〈振袖のクリスマス・完〉


※文中の団体・組織名及び人名は

実在するものと一切関わりありません

キャラクターアプリ;Picrew.me ChatGTP

Gemini

画像アプリ;You Can Perfect