日向が、イスロ本部の地下室へ幽閉されて一ヶ月以上が過ぎていた。
排泄以外は部屋を出ることは許されず、しかも監視兵が付き添うこととなっていた。

絶望に支配された日向には、物を口に運ぶ気力さえ残っていなかったが。
それでも一日二度の乏しい食事だけは与えられた。
監視兵は、その食事の運搬も行った。

当初、監視兵は通常の成人兵士の担当だったが。
つい数日前から一人の少年兵に変わった。
少年兵の名はバヤルといった。
訊けば、まだ12歳という。

Old man, if you don't eat a little, it's not good for your health
(おじさん、少しは食べないと身体に毒だよ)

バヤルは。
恐らく覚えさせられたばかりの、たどたどしい英語で話す。
母国はどこなのか訊いていなかったが、この少年兵の名前と言葉のニュアンスから近辺の中米ではないかも知れない…………と日向は感じ取っていた。

ハッキリしていたのは。
幽閉されている自分が誰で、何という名前なのか等はバヤルには一切知らされておらず…………日向自身も、それを求めていないということだけだった。

「...Ah, thank you... Leave it there」
(……ああ、ありがとう………そこに置いてくれ)

バヤルの持って来た食事に目を向けることも無く、日向はうずくまったまま返事だけをする。

バヤルは…………
日向の着ている白衣が気になっていた。

バヤルの故郷…………中央アジア寄り中東国内の紛争地域では、白衣を着ているのは数少ない医者だけだったからだ。
病院は爆撃によって破壊され、野外の救急テント内で懸命に負傷者へ手当を尽くす医療関係者達。
しかし、そんな彼らさえも明日をも知れぬ身。
例え国連から派遣されて来たスタッフ達でも、命の保証は無かった。
にも関わらず、彼らは救護の手を緩めることをしなかった。

バヤルから見ると。
そんな自分の持つ"白衣の人”のイメージから、なぜ?こんな所で投獄同然でいるのか?
不思議でならなかったのだった。

「Hey, you're a doctor, right?
Why are you here?
(ねえ、おじさんて、医者だよね?
何で、こんな所に居るの?)

バヤルは、思い切って尋ねた。
日向は、ゆっくりとだがバヤルに顔を向けた。

「A doctor...?
Hehe, maybe something close to that
(医者…………?
フフッ、まあ、それに近いかも知れないな)

日向は寂しそうな笑みを浮かべながら、少年兵に語り出す。
「No...I'm not a doctor or any other noble person.
I'm just a useless scientist who keeps building robots and failing over and over again」
(いや…………
医者なんて崇高なもんじゃない。
ロボットを作っては失敗を重ねてばかりいた、ポンコツ学者さ)

ロボットを作っていたと聞いて、バヤルは目を輝せる。
「Are the robots your makes for military use?」
(おじさんの作ってたのって、軍用ロボットかい?)

「…………Yes」
(…………そうだ)

「That's great! 
It's a ground attack type or an aerial
drone!!
(偉いね!
地上攻撃型とか空中ドローンとかだよね!!)

日向は思った。
同じ年齢の日本の子供達なら、普通はロボットと聞いて、こんな受け取り方はしないだろう。
アニメや漫画に出てくるような…………とまではいかなくても、せいぜいペットやぬいぐるみ代わりの家庭用マスコットくらい………………

「What I was making was a guerrilla combat humanoid.
It usually has a human form, but when danger approaches, it changes into a combat humanoid.
However, it is too expensive, so it has not yet been deployed in actual combat
(私の作っていたのは、ゲリラ式戦闘ヒューマノイドという物だった。
普段は人間の姿をしているが、危機が迫ると戦闘ヒューマノイドにチェンジする仕組みだ。
だが、コストがかかり過ぎて実戦には未だ配置もされていない)

それを聞いて、ますますバヤルは興奮する。

「I was also assigned to a guerrilla unit!! How could we deceive the enemy and how many enemies could we kill? 
That was what I enjoyed!!
 If our unit had been equipped with more of the combat humanoids that your made, we would have killed more enemies and achieved greater results!!
(俺もゲリラ部隊に配属されてたよ!!
いかに敵を欺き、何人敵を殺すか?
それが楽しみだった!!
俺達の部隊にも、おじさんの作った戦闘ヒューマノイドが多く配備されていたら、もっと敵を殺して戦果を出せただろうね!!)

12歳の子供が。
「敵を殺すのが楽しみだ」
と目を輝かせて言う………………
これが世界の紛争地域の現実なのだと、日向は改めて実感していた。
この"楽しみ”とは、日本の子供達の言う"楽しみ”とは意味合いも重みも全く違うのだということも日向には理解出来た。

そこでは………………
殺るか?
殺られるか?
を迫られた状況では、大人も子供も無く。
自分達の命を狙う"敵”を可能な限り多く殺すことこそが唯一、明日を生きる・生き残る希望へと繋がっているのだ。

自分の求めていたゲリラ式戦闘ヒューマノイドも、その理念に合致してしまっている…………
日向の胸に複雑な思いが交差していた。

「......Bayar.
But I was wrong.
I... wanted to prevent innocent people from being unjustly invaded and their lives taken.
I developed guerrilla-style combat humanoids to protect ourselves, without relying on the government, the military, or the United Nations.
But in every era, there is a risk that such advanced technology can be misused, and I was not cautious enough...」
(…………バヤル。
しかし、私は間違っていたのだ。
私は…………不当な侵略を受け、罪も無い人々が命を奪われるのを防ぐ為に。
政府や軍、国連に頼らず、自らを守る為のゲリラ式戦闘ヒューマノイドを開発した。
だが、いつの時代にも、そうした先端技術は悪用されるリスクを持つことに対し、私は用心が足りなかったのだ………)

日向は続けた。


「For that purpose, I transformed my own daughters into guerrilla combat humanoids.

I even took their lives away.

I received no retribution!!!」

(私は、その目的の為に。

自分の娘達を、ゲリラ式戦闘ヒューマノイドに改造した。

娘達の人生をも奪ってしまった。

何も、報われ無かったんだ!!)



バヤルは。
日向の話を聞いてから、暫く黙り込んでいた。

そして語り出した。
「It seems you're Japanese.
We hated developed countries.
Adults used to say that wars were caused by developed countries ganging up on each other because they wanted oil.
My father was killed in battle when I was eight years old.
From that moment on, I decided to become a soldier to avenge my father's enemy.
All my friends became soldiers too.
More than ten of those friends have now died.
...Our enemy isn't just one.
It's everyone who started the war!
USA, the EU, and Japan!!
The reason I came to Isro was because I wanted the strongest weapon I could find to defeat my father's enemy」
(おじさん、日本人らしいね。
俺達、先進国を憎んでいたよ。
戦争は、みんな先進国達が石油を欲しがって、寄ってたかるのが原因だって大人達が言ってた。
俺が8歳の時に、お父さんが戦死した。
その時から俺は、お父さんの敵を討つ為に兵士になろうと決めた。
友達もみんな同じ兵士になった。
そんな友達も、もう10人以上も死んだ。
…………俺達の敵は、一つじゃない。
戦争を起こした奴ら、全部だ!
アメリカも、EUも、そして日本もだ!!
俺がイスロへ来たのも、お父さんの敵を討つ為に必要な、最強の武器が欲しかったからだ)
「!!」
バヤルの話に。
日向は今更の自分の認識の無さに、衝撃を受ける。

しかし……バヤルは続けた。

「But you're not wrong!
You created a guerrilla combat humanoid to protect everyone from an aggressive war.
I thought the Japanese were a people who only wanted their own safety.
But you thought about conflict zones and even went so far as to sacrifice your own child.
If I were your child,
I wouldn't hesitate to say,
 "Transform me into a combat humanoid!"
Even now, I hope that's the case!」
(でも、おじさんは間違ってないよ!
みんなを侵略戦争から守る為に、ゲリラ式戦闘ヒューマノイドを作った。
俺は、日本人は皆、自分達だけ安全なら良いと思ってる奴ばかりと思ってた。
でも、おじさんは自分の子供達を犠牲にしてまで、紛争地域のことを考えてくれてた。
もし、俺が、おじさんの子供だったら。
迷わず自分から
"戦闘ヒューマノイドに改造してくれ!”
って言ってたよ。
今からでも、そうして欲しいくらいだ!!)

日向は、改めて涙を禁じ得なかった。

「...Bayar.
To children like you, who have a future.
The adults who created a world where such things could be said are all to blame.
Me too is included.
I have no desire to transform you into a combat humanoid!
I don't want you to carry a gun either!
Science and technology must be used to once again restore a world without conflict!!」
(…………バヤル。
君のような、未来有る子供達に。
そこまで言わせる世界を作ってしまった、大人達が全て悪いのだ。
この私も含めてだ。
私は、君を戦闘ヒューマノイドになど、改造したくはない!
銃を持たせたくもない!
争いの無い世界を、もう一度取り戻す為に科学技術は使われなくてはならないんだ!!)

バヤルは応えた。

「Well then, that's settled!
You don't belong in a place like this, You!
 I'll help you get out of here as soon as possible!!」
(それなら、話は決まったな!
おじさんは、こんな所に居るべき人じゃないよ!
早く、ここから出て行けるように俺も協力するよ!!)

日向は。
入口の見えないトンネルの先に、一筋の光を見た思いがした。
それは決して、そこから自分が解放されたい意味ではなく。
もう一度、自分を正しき道へと照らす光だった。

「What's your name?」
(おじさん、名前は?)

「I'm Hyuuga」
(私は、日向だ)

「OK, Mr. Hyuuga!
First, we need to eat something!!」
(OK,Mr.ヒュウガ!
まずは、腹ごしらえしないとダメだよ!!)

バヤルの持って来た食事は冷え切っていたが、これ程までに美味く感じた食事は無かった。

日向に、再び立ち上がる勇気を与えたのは。
紛争地域から来た、一人の少年との誓いだった!!

〈少年兵との誓い・完〉

※文中の団体・組織名及び人名は
実在するものと一切関わりありません
キャラクターアプリ;Picrew.me ChatGTP
Gemini
画像アプリ;You Can Perfect