………………麻衣にとって、悲しい日々が続いていた。


毎朝いつも一緒に通学していた、栄太が駅のホームで見当たらない。
二人が電車に乗り込むホームの位置は決まっていて、そこが待ち合わせの場所みたいになっていた。

だが、そこに栄太を見かけなくなって……1週間が過ぎようとしていた。
朝のホームは混雑していて、身長の低目の麻衣には遠くまで見渡せなくて。
栄太が同じ時刻発の電車に乗り込んでいることも分からずじまいだった。

麻衣が一人で学校に着くと、教室に栄太は来ていた。
でも、いつものように声をかけようとしても…………
栄太は顔を合わせようともしなかった。


一言も言葉を交わすことも無く一日が過ぎ、栄太は勝手に帰って行っていた。

明らかに…………
あの時のことが元だと、麻衣は唇を噛んだ。

戦闘ヒューマノイドにさせられて以来。
麻衣の抱える問題は、これまでで最も緊迫した状況となっている。
当初は自分一人で抱え込まなくてはならなかったゲリラ式戦闘ヒューマノイドとしての宿命も、エリック=ティーチャーや華裏那、キッド三人衆と迎合出来たことにより少しは重みを減らせた気がしていたが。
同時に近いうちになるであろう、イスロとの真っ向対決に備えなくてはならなかった。
そして、それは…………
母親と研究室スタッフ以外の誰にも知られてはならない機密事項であり、麻衣にとっても最優先事項であった。
その為に、どうしても犠牲にしなくてはならないこともあった。

普通の高校生なら学校での友達やステディな異性との時間を楽しめるはずが、最近の麻衣にはそれが出来なくなっていたのだった。
振り返ると…………
知らぬ間に栄太に対しても以前より素っ気無く接していたかもしれない。
先日のような配慮の足りなかったと見られる言動に結び付いたのも、そうした自分の無意識から出てしまったのだ…………と麻衣は自身を責めていた。

栄太との関係を修復したい…………
でも、もう遅いかもしれない…………

皮肉なことに今の麻衣には、戦闘ヒューマノイドとしての問題を相談出来る相手は居ても、こうした普通のティーンエイジャーの抱えがちな悩みを相談出来そうな相手は見当たらなかった。

そんな…………ある金曜日の夜。
麻衣のスマートフォンを鳴らした者が居た。
クラスメイトの島崎朱莉だ。

「麻衣。
急にゴメンね。
ちょっと話せる?」

朱莉は、ここのところ学校でも塞ぎ込んでいる麻衣の様子を案じていた。

「…………立ち入ったこと、訊くようでゴメンね。
最近、栄太君と何かあった?」

麻衣は思いがけない電話に驚くと同時に、抱え込んでいた悩みを聞いてくれそうな朱莉を有り難く感じた。

「…………うん、へへ。
わかっちゃった?」

麻衣は照れ笑いをしてみせた。

「話せば長いけど、わたしが勝手に誤解したせいで…………
栄太を傷付けちゃったんだ」

戦闘ヒューマノイドの目から涙は出ない。
しかし、麻衣の話す声は。
次第に泣き声になっていた。

「そっか…………
でも、誤解だったんでしょ?
麻衣だけじゃなくて、栄太君も。
お互い誤解しちゃってたんだね」

朱莉は麻衣をなだめようとする。

「誤解なら、解消すれば問題無いわ。
同じクラスなんだから、チャンスは幾らでも作れるはずだし。
…………私で良ければ、いつでも協力するから」
朱莉の思いやりが、胸に沁みた。

「…………ありがとう。
そう言ってもらえるだけで、マジ嬉しいよ」

麻衣は一呼吸した。

「もうちょっと、頑張ってみる。
それでもダメなら、お願いね」

「大丈夫?」

「うん!
朱莉のおかげで、元気出たよ」

麻衣は笑ってみせた。
それは本心だった。

…………だが。
やはり、友人に甘えることは出来ない。
自分で撒いた種は自分で……
幼い時から麻衣は、そういう性格だった。
その性格のせいで
"素直でない”
"可愛げが無い”
と受け取られることもあった。
そんな感じだった為、栄太に限らず異性との付き合いも友達以上の関係になったことは無い。

人に甘えるのが下手な性分なのだ。
プライドが高いとか、そういうものでも無く………………

しかし麻衣は、初めて自分を変えたいと強く願った。 
他ならぬ、栄太の為に。



その日は朝方は晴れていたが午後から雨となり、退校時刻には強い降りとなっていた。
栄太は変わらず、麻衣に一瞥もせず教室を出て行く。

それに麻衣は、付いて行く。

玄関の下駄箱から靴を取り出す栄太に、麻衣は思い切って声をかけた。

「…………ねぇ。
今日、わたし、傘持って来てないんだ。
…………一緒に入れてくれる?」

麻衣の呼びかけに応じることも、麻衣に目を向けることも無く、栄太は黙って靴を履き替え出て行く。

栄太も、傘を持ってはいなかった。

足早に歩いて行く栄太を、麻衣は追いかける。

「…………待って!」

既にずぶ濡れになったセーラー服も気にせず、栄太の背中を追う麻衣。
……と!
道路のマンホールに足を滑らせ、転倒してしまう。
そんな麻衣に気付きもせず、先を歩いて行く栄太。

ヒューマノイドの機械の脚でも、こうした突発的な衝撃はダメージに繋がる。
足首のケーブルのコネクターが、一つか二つ外れかかっているようだった。
立ち上がり歩き出すことまでは何とか出来そうだが、走ることは無理のようだ。

雨に打たれるまま麻衣は、その場にしゃがみ込んでいた。

麻衣は、泣いていた。
嗚咽していた。
滴り落ちる雨の粒が、涙の代わりをしていた。
戦闘ヒューマノイドになど、ならなければ………………
誰にも言えない哀しさに麻衣は包まれていた。

「麻衣、どうした?」

顔を上げると…………
側に栄太がしゃがんでいる。
栄太も同じく、ずぶ濡れだった。

「…………ちょっと足、くじいちゃってさ」

麻衣は、照れ笑いで誤魔化そうとした。

「…………」

栄太は無言で麻衣を抱き締めた。
濡れたブレザーの匂いがした。

麻衣も、もう強がらなかった。
こらえていた感情が溢れ出て来た。

「…………ごめんね。
ごめんね!栄太!!」

あとは言葉にならなかった。

「麻衣…………ごめんな」

他に、二人に必要な言葉など無かった。

降りしきる雨の中、人目も気にせず。
麻衣と栄太は互いの温もりで……………
語り合っていた。

〈雨のリアライズ・完〉

※文中の団体・組織名及び人名は

実在するものと一切関わりありません
キャラクターアプリ;Picrew.me ChatGTP
Gemini
画像アプリ;You Can Perfect