小出スキー場の敷地内、桜並木の横に、悠然とした姿を見せる、小出オールシーズン・シャンツェ。
ジャンプ台の飛距離の規模を表すK点は50m。通称40m級といわれる台です。
全国中学校大会に使用される台も、この40m級です(インターハイからはノーマル・ヒルが使用されます)。
「なあんだ40m位しか飛ばないのか、オリンピックとかで見るノーマル・ヒルやラージ・ヒルより全然小さいじゃないか」と笑われる方もおられるかもしれません。
しかし、この40m級こそが、ジャンプ選手を育てていく為に必要不可欠な飛距離の台なのです。
新潟県は日本のスキー発祥の地です。
クロスカントリーとアルペンの競技では、新潟県のスキー選手は過去に何度も様々な全国大会で頂点に立ちました。オリンピックの代表にも何人も送り出して来ました。
しかし、ジャンプ競技(純飛躍、ノルディック複合)だけは、他の都道府県に遅れをとって来ました。
私の生まれ育った魚沼の小、中、高校にもクロスカントリーやアルペンのスキー部と同じくジャンプ部も存在しました。
しかし、全中やインターハイ、国体で華々しい成績を重ねるアルペンとクロスカントリーに対し、ジャンプ陣の選手達はそれらに出場する度に、いつも悔しい思いをして帰ってきているのを見てきました。
新潟県のスキー競技全般を当時から応援してきた私も、何故このような差が生まれてしまうのか、腑に落ちない気持ちで更に残念でした。
後年になって、新潟県のスキーの歴史を学習する機会を得、そうした理由をようやく知りました。
まず、歴史が違っていたのです。
この歴史については別の機会を設けてお話しさせて頂くとして、現在新潟県内に現存する常設ジャンプ台(シャンツェ)は全部合わせてたったの5台。
ノーマル・ヒルの台が妙高市と南魚沼市(石打丸山スキー場内)に一台づつあり、同じく南魚沼市に20m級(五日町スキー場内)が一台、魚沼市(小出スキー場内)と小千谷市に40m級が一台づつありますが、小千谷の台はオールシーズン型ではなく、近年の小雪の影響と中越地震の影響で現在使用できず。
ですので、実質現在新潟県内使用可能の台は4台です。
この小出40m級オールシーズン・シャンツェは、その県内4つしかない貴重な台の中でもジャンパーが「子供から大人へと移り変わる」大事な時期をつなぐ、新潟県ジャンパーなら一度は飛ぶ台なのです。
スタート。この場所からは着地点も見えないし、下で待っている方々も豆粒状です。
眼下に広がるのは魚沼市街地。
時速約90kmの助走で選手が飛び出す踏切台(カンテ)。
この瞬間、何を思うのだろうか。
選手が空中に浮いているであろうエリア。前傾、前傾!と自らを奮い立たせつつ・・・・
間もなく着地が迫る地点。奥の赤いラインがK点(これ以上飛ぶと危険とされる距離)。
できればテレマーク姿勢を!
何度も見学していると、選手それぞれの個性もわかってくる。
毎年5月5日には、この小出公園におきまして「つつじ祭り」というイベントが開催されます。
その中のイベントの一つとして、魚沼ライオンズクラブ主催スキー・ジャンプ大会も毎年開催されていて、かくいう私も観戦に行きます。
(以下、昨年の写真)
この大会は、実質新潟県のジャンプ関係者が集合するイベントとなります。
40m級ということもあり、出場選手は小学生から中・高・大学生、社会人国体選手、元オリンピック出場選手、現役を引退されたベテラン・ジャンパーまで実に幅広い層の方々が一同に同じ台を飛ぶというバラエティ豊かな大会です。
現在のは昔と違い、V字飛行がしやすいように工夫されているようです。
こんな小さな体で40mの台を飛ぶ試合前にも関わらず、笑顔が絶えません。
少年ジャンパー達をコーチする、’06トリノ五輪ノルディック複合出場、日本チーム団体6位入賞メンバーの北村隆(きたむら・たかし)選手。
一昨年国体のノルディック複合で優勝。純飛躍でも準優勝。
現在新潟県ジャンプ陣の精神的支柱の存在。
後輩達の面倒見もとても良く、新潟県少年ジャンパー達から「タカ兄ィ」と慕われています。
そして、現在。
我が新潟ジャンプ陣の期待の星であり、救世主とも言える存在の若者がいます。
彼の名は、清水礼留飛(しみず・れるひ)選手。妙高市在住。新潟県立新井高等学校の二年生です。
純飛躍と複合の「両刀使い」。
中学1、2年生時に全中の純飛躍を連覇。
中学3年生時は惜しくも全中では準優勝でしたが、国体ノルディック複合の少年組で高校生を向こうに回し堂々の3位表彰台(前半飛躍では1位)。
また、この年北海道・札幌での雪印杯・中学生の部で、並み居る地元北海道勢を退け優勝。
そして高校生になったばかりの今シーズン・インターハイ純飛躍で、見事デビュー・ウイン優勝!!
新潟県初の純飛躍五輪代表(次回ソチ大会)も期待されます。
写真:小出シャンツェにて練習中の清水礼留飛選手(HARIMAYA撮影)。
礼留飛選手のお父様の清水久之氏は、国体34回連続出場、現役大ベテランのノルディック複合選手。
二つ上のお兄さん亜久里(あぐり)選手も同じカテゴリーの優秀選手です。
清水親子のお三方は、この小出の大会にも毎年揃って出場されています。
写真のこの日も、親子揃って「K点越え」の距離と美しいテレマーク姿勢の着地を披露していました。
ちなみに礼留飛という名前は、新潟県上越市にて日本で初めてスキーを伝えたオーストリア人レルヒ少佐の名からお父様久之氏が付けられた、まさにスキーの申し子とも言える名前です。
五輪出場選手のバックアップを受けながら、清水選手達若き才能あるジャンパーが育ちつつある新潟ジャンプ陣。男子だけでなく、女子では県立八海高校の笛木美沙(ふえき・みさ)選手も有力で、まさにこれから羽ばたこうとしています。
私としましても、スキー発祥の地のプライドをかけて新潟のスキー競技がカテゴリー問わず強くなり、日本のスキー界を牽引していくことを願って止みません。
その為に、この小出40m級シャンツェは今後も重大な役割を担っていくのは間違い無いと私は見ています。
私の出来ることといえば、この新潟のスキー競技を応援していくこと位ですが、インターハイや国体で連覇が続き伝統の「距離王国」を自負するクロスカントリー以上に、また御屋形様はじめ幾人ものオリンピック選手を生んだアルペン以上に、この新潟のジャンプをずっと応援していきたい!
今年も来る5月5日の大会は必ず選手達の応援に行くつもりです。
スキー・ジャンプ強豪都道府県の皆さん。
我が新潟県は、来るシーズンも清水礼留飛という刺客を送り込みます。
どうぞ、楽しみにお待ち下さい。
<清水礼留飛選手のインターハイ・デビュー制覇を報じる新潟日報新聞>














