僕は車を運転する時、特定のミュージシャンは別にして、だいたい70〜80年代くらいの、自分が思春期の頃の音楽を流して聴いている。

 話は変わるが、中学生の時、同じクラスにバスケットボール部に所属しているI君というクラスメイトがいた。
 彼は体が大きく、運動神経も良く、不良生徒たちとも仲良くできるが、ちゃんとまじめにもできる男子で、言わば、クラスの顔的存在だった。
 性格も明るくて人柄もいいため、クラスの誰からも慕われていた。
 中一の時、4時間目が終わり、弁当の時間になる少しの時間、彼から
「グラタンパン買いに行こう」
 と言われて、一緒に学校を出て、パン屋さんに行ったことがある。
 そこは僕の知らない所で、近いのかと思ったら意外に距離があり、僕はお金を持ってなかったので、半分くらい食べさせてもらったのか、それともただ行くのに付き合っただけだったか、よく憶えていない。
 ただ、グラタンパンという食べ物を初めて見た(食べたのも?)。
 知らない場所を開拓するのはワクワクするし、とても楽しい時間だった。
 学校から無断で外に出ることはルール違反と知っていたが、近そうだし、退屈だったし、まあいいか、と思ったが、帰ってきたら担任も他のクラスメイトも、もう弁当を食べていて、僕らが教室に入ると、何だか一瞬、空気がシラーッとなったような気がした。
 黙って、カバンから弁当を取って、食べようとしたら、担任から呼ばれて
 「お前らどこ行ってたんだ?」
 と叱られた、
 ちょっと外に出かけただけでうるせえな、と思い、それが面倒臭くてもうそれ以降はしなかったが(もう一回くらいしたかな?)、まあ、今考えると僕らが悪い。
 しかし、あれから僕は、グラタンパンのファンになった。
 また彼は、アイドルに詳しく、売れる前の堀ちえみに目をつけていた。
「ちえみちゃんが可愛い」
 などと話しているので、誰のことかと思っていたら、堀ちえみが売れて、テレビに出始めたので、
「あ〜、この子のこと言ってたのか〜」
 と思った。
 ただ、彼が「可愛い、可愛い」と力説していたので、僕の中で見る前の堀ちえみに対するハードルが上がってしまって、もちろん可愛いと思ったが、グラタンパンほどは好きになれなかったし、僕には憧れの君の方が何倍も可愛かったので、別に興味を持つことはなかった。
 彼とは小学校が違っていて、初めて会ったのは中一だったが、当時、木陰で女性が服を脱ぐと、下が水着で、それを新発売カメラで誰かが盗み撮りしている、というテレビのCMが人気を博していた。
 今だとYouTuberに見つかって、私人逮捕の対象にされそうなCMだが、その女優がそれまで見たことのない女優で、それは誰かとずいぶん話題になった。
 その女優は、当時まだタレントでもない女子大生の宮崎美子で、ずいぶん人気になって、僕も興味をもった。
 彼もそうだったようで、その頃、恐らく道でたまたま会ったのだと思うが、そのCMの写真?カード?を持っていて、「今、買ってきたんだ」と言って、僕に見せてくれた。
 宮崎美子が笑って写っている、CM通りの写真で、なんとなくそれを持っている彼に対して「大人だなあ」と思った記憶がある。
 その帰り道「家どこ?」と聞かれて、二人で家の方角に向かったのだが、その頃、僕は家とか家族がちょっと辛くなっていた頃で、何を考えたか、彼に「ここだよ」と言って、近所の家を自分の家と嘘をついて教えてしまった。
 彼はすごく良い人だったし、これから仲良くしたいなあと思っていたのに、自分がなぜそんな嘘をついたのか、いまだによくわからない。
 I君にはずっと申し訳なく思っている。
 いつか謝って本当のことを言いたいと思っていたが、付き合いがそれ以上深くならず、その機会を逸してしまった。
 先日、車の中でいつものように70〜80年代の音楽を聴いていたら、あのCMの歌が流れてきた。
「今の君はピカピカに光って…」
 I君の大きな体と豪快な笑顔が頭に浮かんで、ドライブがちょっと楽しくなった。
 自然と僕はその歌を聴きながら、君をイメージしていた。
 あの頃の宮崎美子も可愛いかったけど、やっぱり君の方がもっともっと素敵だ。
 あの頃ももちろん君はピカピカに光っていたし、亡くなってずいぶん経った今だって、僕の心の中でピカピカに光っている。
 僕の中では何も変わらない。
 ずっとずっと、呆れ返るほど素敵なのだ。
 なんだか急にグラタンパンが食べたくなってきた。

 今日は帰り際にパン屋さんに寄って、グラタンパンを買って帰ろう。