広田弘毅 | 中央線で読む新書

広田弘毅

 「国民の人気に頼りがちな近衛は、世論を煽って熱狂的な支持を得た末に、日中戦争を収拾できなくなった。もともと職業外交官であり、経験に富む広田は、一回り以上若い近衛を諫める立場にあった。しかしながら、現地での停戦を否定するかのように近衛内閣が派兵や戦費調達を決定するなかで、副総理格の広田は消極的に賛成を繰り返した。
 そのころの広田は、軍部に抵抗する気力を欠いていたし、大衆迎合的な近衛の手法とも距離を保てなくなっていた。近衛流ポピュリズムの危険性に気づいたのは、むしろ外務省中堅層であった。だが広田は、部下たちの意見を受け容れなかった。」(196)

 「ただでさえ国民は、非常時であるほど長期的な見通しよりも感情に流されがちである。そのようなときこそ外交指導者は、勇気をもってポピュリズムや世論から距離を保たねばならない。しかし広田の外交は、強い意志を感じさせるものではなく、むしろ日中戦争が長期化する一因をつくったといわねばなるまい。」(197)

城山三郎「落日燃ゆ」は広田を持ち上げすぎじゃね?が本書の本旨。上記引用箇所に当たる196から197は、書き手の意志がみなぎる文面で、圧倒される。

広田が首相になる際に天皇がいった「名門を崩してはならない」とは、貴族院改革や華族制度改革に慎重を期するようにとの謂い。(それでも広田は貴族院制度調査会を設置し自ら会長になるが改革の実現にはいたらない)

【通勤用にGOOD】 2008年
広田弘毅―「悲劇の宰相」の実像 (中公新書 1951)/服部 龍二