2024年11月22日に札幌コンサートホールKitara大ホールで、世界的なピアニストのスタニスラフ・ブーニンさんのピアノ・リサイタルがありました。

 

 (札幌市中央区中島公園 コンサートホール きたら)

 

 (エントランス)

 

 

開場の1時間前からエントランスは人で溢れ、前売り券も完売で当日入場券も有りませんでした。

 

 

ブーニンさんのファンたち(女性が多い)が椅子などに集い、ブーニンさんの奥さんは日本人で骨折などの病気を献身的に介護したので再起できた、などなど長い待ち時間を楽しくお喋りしておりました。

 

 

17時45分開場とともに入り3階2列に着席しましたが、調律師がピアノのチューニングを慎重にしており開演前の舞台からすでに緊張感がありました。

 

 

演奏のプログラムを見ますと、前半は大好きなショパンでした。

 

 

18時30分に開演しブーニンさんが舞台に一人で歩み出て、中央に静かに強く立っておりました。

凄い存在感でした。

聴衆の割れるような拍手で迎えられて演奏が始まりました。

 

ノクターン「遺作」がはじまりました。

ブーニンさんの音は深く響くピアノで、音が丁寧に隅々まで沁みてきます。

ブーニンさんは自分の耳をピアノに傾けて、音を確かめながら一音一音を大事に弾いています。 そのピアノの大きな音量は大ホールの隅々の私の席まで響き、以前この大ホールで聴いた交響楽団と同じような音量と、大きく響く音に感じました。

 

ブーニンさんのピアノを弾く姿、ショパンは素晴らしい!!

「雨だれ」、「ポロネーズ」ブーニンさんの命が今燃えている

この演奏にすべてをかけている

ブーニンさんの音が身体に染み込んで震えました

ピアノの音が身体に染み込んで来ました

深い柔らかさ

 

『雨だれ』を聴きながら、マヨルカ島で恋人ジョルジュ・サンドとの道ならぬ恋の逃避行

山奥の人目を避ける修道院の暮らし

雨降るなかサンドを独り待つ

サンドを失うのではないかと恐怖するショパン

ピアノにぶつける悲しみ

・・・が目の前に思い浮かび鳥肌が立ちました

感動 感動 感動

客席では涙を流す女性もおりました。

 

『プーランク』

「トッカータ」はジャズピアノの曲の流れと似ていました。

ジャズがトッカータに似ていると言えます。

その柔らかさと確かさは、ビルエバンスよりも加古隆よりも凄く響いて来ました。

ジャズよりもジャズ的に響きました。

前半はブーニンさんに圧倒されました。

大きな感動の嵐

 

中間の休憩があり、休憩中も調律師がチューニングをしてました。曲の内容に合わせてチューニングしているのかと。

 

 

後半はシューマンの曲でした。

前半が素晴らし過ぎて、シューマンは大人しい感じで曲の起伏が少なくなだらかで、嵐の後の静けさに感じました。

独断と偏見で考えますと、ブーニンさんのエネルギー、体力と気力は、前半のショパンで使い果たしたように感じました。

そのように思うと、ショパンの曲は情熱的でした。

 

午後8時半ころにリサイタルは終わり、割れるような拍手でブーニンさんは何度も舞台に出て挨拶のお辞儀をしました。

大ホールは大きな感動で包まれたのです。

 

 

5~6才の頃、仙台の天苗(てんみょう)幼稚園に通っていました。

幼稚園に着くと、浅沼先生が毎朝モーツアルトのトルコ行進曲をピアノで弾いていました。ピアノの音とはそれが初めての出会いで、その後小学校や中学で音楽の時間などでピアノを聴き、大人になってからもコンサートなどで様々なピアノの音を聴いてきました。

そのつたない経験の中で、ブーニンさんのピアノの音が一番素晴らしかったのです。

 

リサイタル終了で皆さんが出口に向かうなか私はピアノを見たいと思い、人の流れに逆らうように舞台まで行きました。

すると保護者が子供(中高生)を連れて15人くらい、やはりピアノを見に集まって来ました。

一体どんなピアノで、あの凄い音が出るのだろうと。

遠い客席からはピアノメーカーの文字が読めないのです。

 

 

そこに有ったのは『Fazioli』だったのです。

Fazioli Pianoforti S.p.A.社 

「ファツィオリ」は、イタリアで、1981年に設立された歴史わずか40数年という新興のピアノメーカーです。

ショパン国際ピアノコンクール第一位のブルース・リウが使用したピアノも『Fazioli』でした。

 

今までのショパンコンクールは「STEINWAY & SONS」が主流でした。ヤマハも頑張っていますが。

スタインウェイ&サンズは、1853年にドイツ人移民のヘンリー・エンゲルハート・スタインウェイにより、マンハッタンのヴァリックストリートに設立されました。

1853年、江戸時代の嘉永6年にアメリカ合衆国のペリー率いる軍艦4隻が浦賀沖に来航した時代に、ニューヨークのマンハッタンでピアノを作っていたのです。

音響工学の研究者である友人の鈴木英男さんは、マンハッタンで「STEINWAY & SONS」社の音響を長年研究していました。研究論文は英文で私にはチンプンカンプンなのですが。

英男さんは「スタインウェイ&サンズ」のライバルは「スタインウェイ&サンズ」だと言っていました。それほどの長い歴史のあるピアノメーカーに並び競い合って『Fazioli』は急速に伸びたのですね。驚きです。

 

30年前のブーニンさんの映像を見ると『スタインウェイ&サンズ社』を弾いていました。テレビ映像なのでスピーカーも貧弱で音の違いはほとんど分かりませんが、何となく硬い音に感じました。

 

2023年8月に札幌のコンサートホール「きたら」でNHK交響楽団のコンサートを鑑賞しました。ピアノ協奏曲第一番は松田華音さんのピアノでグイグイ惹き込まれました。その時のピアノは「スタインウェイ&サンズ」だったと思います。

松田華音さんはかき鳴らすピアノ、素早いテクニックで圧倒されるピアノでした。

 

ブーニンさんは深く響くピアノ、音が丁寧に身体の隅々まで沁みてくるピアノ。

ブーニンさんのは、交響楽団と同じような豊かな音量と柔らかい響く音に感じました。

 

 

音楽は楽器の違い、演奏者の違い、コンサートやライブ会場の違いなどで、同じ曲でも違った味わいがあり奥が深いと思いました。

良いものは良いという原則は、いつの時代でも変わらない普遍的なものと思いました。北海道にいながら、世界でも一流の芸術と触れ合うことが出来て幸福な時間を過ごせました。