【1】それは利益が出た“から”とった行動だった!

 1》予想外に大きかった“利益”

 ある企業(A社)で、予想外の利益が出た“期”がありました。
 その期の下半期に入ったとたん、駆け込みのように“新規受注”が取れたからです。

 当然、社長はご機嫌でした。
 そして“この機を逃してはいけない”と、
 長年の課題であった“オフィスの内装工事”を行うことにしたのだそうです。

 どんどん増え続けるパソコンのケーブルが、オフィスの美観を損ねるだけではなく、
 露出したケーブルにつまずく転倒事故があれば、
 それこそ労働災害になってしまうからです。

 さて、この話をどう思われますか。それが今月のテーマです。


 2》インテリジェント・オフィス

 A社は、印刷業からパンフレットの企画を経て、
 今では販売促進企画を提案実行するユニークな企業です。

 大企業の宣伝広告も、その企画段階から任されることもあります。
 しかも、人員を急速に増やすのではなく、業務をできるだけシステム化することで、
 経費の増加以上に収入を増やす基盤をも注意深く作ってきました。

 先行投資続きで、なかなか利益が出なかったのが、
 ようやく今期報われようとしているのかも知れません。

 そんな達成感も手伝ってか、A社は
 “オフィスの床を二重構造にして、その中にすべての配線を隠す”工事、
 つまり“ひと昔”流に言えば
 “インテリジェント・オフィス”化の工事を進めたわけです。


 3》大きく外れた社長の思惑

 ところが社長の思惑は、大きく2つの点で外れてしまいました。
 その1つ目は“税金”です。

 内装工事費は、あれこれ含め合計で200万円弱でしたが、
 その全額を“当期費用”で落とせると、社長は期待されていたからです。

 内装は建物と同様に資産ですから、耐用年数に合わせて
 “減価償却”して行かなければなりません。
 今期の利益をそのまま使えるというものではないのです。

 『利益が出たから、その節税のために内装工事をしよう』
 とした社長の思惑は1つ外れました。

 しかし、もう1つの思惑外れは、もっと大きなものだったのです。


 【2】“から”発想がもたらす“ありがち”な展開…

 1》ほころびが出た“インテリジェンス”

 内装工事から1年も経たないうちに、A社の“企画提案”業は更に増え、従業員が
 “顧客の前でパソコンによってプレゼンテーションをする”機会が急増したのです。

 そこで当然、従来のデスクトップ型ではなく、ノートパソコンが増えます。
 デスクに据え置くパソコンなら、有線でLAN(パソコン・ネットワーク)を組むのが
 最適ですが、ノートの場合は、無線LANの方が便利だと気付いたのはその時でした。

 当初、無線LANはデータ交換スピードが遅かったのですが、
 最近ではずいぶんと解消され、A社の仕事量では不都合を感じません。

 それより、
 『ケーブルのある所でしかパソコンを使えない』
 のが“うっとうしい”ということの方が“不都合”なのです。


 2》むしろ心配事になってしまった?

 その時、ふと社長は考えました。
 『全部のパソコンを無線でつなげば、配線自体が必要ないのだから、
 そのための内装工事も不要だったのではないか』と。

 しかも、四角いプラスティックのブロックのようなものを
 何枚も敷き詰めた床について、従業員の間では、
 『地震の時、これで大丈夫なのか』
 という不安も広がっているようです。

 もちろん専門業者の工事ですから問題ないのでしょうが、
 素朴な不安を訴えられると、なかなか答が見つかりません。


 3》“から”発想の危険性

 無線にすれば必要のない資産が、償却を始めたばかりのところで
 “別の不安”を生み出す…、いったい何をしているのでしょうか。
 そして、どうしてそんな結果になるのでしょうか。

 その要因の底には、実は“から”発想があるのではないかと思うのです。
 つまり“利益が出たから..何かをしよう”という発想が、
 利益を食いつぶすだけではなく、
 意外な損失をもたらしているのではないかということです。