【3】まずは“ミス”を“スキ”にしない感覚が重要
 
 1》半年間も料金不払いを放置…?
 
 A社の社長が経営者の会合で“入出金ミス”を話題にすると、
 新聞配達店の経営者であるBさんが、こんな話を始めました。
 
 スポーツ新聞を毎月とっていた顧客が、ある日
 『夜間に集金されるのは嫌だ』ということで、
 口座振替に変えてほしいと依頼してきました。
 
 そこで早速、書類を郵便受けに入れたのですが、

 この書類の“不備”で、手続きが完了しません。
 そのことを顧客に言うと、詳しい話も聞かず怒り出してしまったのです。
 新聞店の担当者は、怒鳴られて萎縮し、その件を放置しました。
 
 一方、いきさつを何も知らない配達員は、以前のとおり新聞を届けますが、
 口座振替になるということで、集金はしません。そんな状況で、
 新聞料金不払いの客に
半年も新聞を届けてしまった
のだそうです。
 
 
 2》様々に起こるミスを、はたして排除できるのか…?
 
 そのミスは“顧客側”からの『なぜ口座からの引き落としがないのか』という
 指摘から、話し合いになって“半額”集金までこぎつけたそうです。
 これは単なるシステムミスではありません。
 
 『ちょっとしたことが“複数”重なって、思わぬミスにつながり、
 その結果、入金や顧客自体を失うばかりではなく、こちらの姿勢が疑われる。
 こう言っては何だが、客にバカにされると、自分に対して猛烈に腹が立つ。
 どうにかすることはできないのか…』と、
 お二人の社長は考え込んでしまったそうです。
 
 
 3》会合の講師の“助言”
 
 そこに、その会合の“講師”が現れ、こんな助言をしたといいます。
 その助言には、大きく分けて3つの視点がありました。
 
 その第一は“ミスを起こす”ことではなく

“ミスをなくす”という思いが、
 かえって“会社のスキ”になるということです。
 
 業務にはミスがつきもので、それはゼロにはなりません。
 ですから、ノー・ミスを標榜すると、ミスが起きた時に
 “精神的に弱い立場”を自然にとることになり、
 
 そこが“付け入るスキ”になるというわけです。
 
 しかし、ミスを容認することはできないでしょう…。
 
 
 【4】“頭”ではなく“尻”から見るマネジメント?
 
 1》ミスがあるという前提で“チェック体制”を作る
 
 講師によれば、大切なのはミスを出さないことではなく
 ミスがあるという前提で

チェックを行うのだと強く意識することなのだ
 そうです。
 特にA社やB店の集金ミスなどは、

当月の売上と入金を“結果”から
 チェックすることを怠らなければ、顧客より早く見つけることが
 できたでしょう。
 
 担当者は“自分がしたことが正しかったかどうか”という判定は
 比較的得意ですが、結果としてすべての

“計算尻”が合っているかどうかは、
 管理者や経営者でなければチェックが難しいのです。
 
 『頭(手続きの流れ)から見るのではな

く尻(結果)から見る』マネジメントを意識すべきだと、

講師は言うわけです。
 
 
 2》ポイントは“1.変動”“2.整合”“3.新規”
 
 つまり担当者の業務を後追いチェックするのではなく、まず
 1.毎月の試算表や伝票の合計で

  いつもと違うところはないか、を見ます。
   これは“1.変動チェック”です。そして次に、
 2.製品別売上と顧客別売上などの

  “帳尻合わせ”を行います。
   これは“2.整合チェック”です。更に、
 3.新しく始めたことが決められたとおりに

  できているかどうか、を見ます。
   “3.新規チェック”です。
   
 言葉にすれば当たり前なのですが、こうした
 “1.変動チェック”“2.整合チェック”“3.新規チェック”は、
 帳票や一覧表が整備されていなければ、なかなかスムーズに進まないため、
 1、2、3チェックをいかに自分流に

 やりやすくするかがポイントだとさえ言えるのです。
 その工夫がミス発見を促進するからです。
 
 
 3》失敗回避の前に失敗を知れ!
 
 講師の話の2つ目の視点は、管理方法を工夫するだけでなく、
 できるだけ失敗事例や対処事例を集めることでした。
 
 しかも、その事例には“ミスがあった”という事実だけではなく、
 そのミスがどのように生じたかという

要因把握がなければなりません。
 失敗要因を知ることが大事なのです。
 
 しかし、その要因把握を阻むものがあるそうなのです。
 
 
 【5】問題は“ミス”自体ではなくその“対処法”!
 
 1》責任の追及より事実の追究が先!
 
 その要因把握を阻害するものとは“責任の追及”だということです。
 
 一般に、ミスが生じた時、私たちは何が起きたかという事実把握より、
 誰が悪いかという責任把握に走りがちです。
 しかし責任追及されると

人は事実を隠す傾向に走るのが現実なのです。
 
 担当者を叱ったり、責任追及したりする前に、
 “何が”“どのように”起きて、

その結果が“どうなったか”
 丁寧に見なければならないわけです。
 
 事実を丁寧に見て行くと、100%正しい人がいないのと同様、
 100%不正な人もいないことに気付き、
 責任追及を恐れてパニックになる人も減るでしょう。
 
 そして何より、

 事実から善後策の知恵を得ることができるのです。
 
 
 2》顧客のクレームは“ミス発見”促進剤?
 
 この観点に立てば第3視点も理解しやすくなります。
 それは、顧客はミス発見の協力者だと思えというのが
 3つ目の視点のポイントだからです。
 
 顧客クレームにどう対処するかではなく、
 顧客がミス発見を手伝ってくれるという感覚に立てば、
 顧客対応は様変わりになるのではないかということです。
 
 “お礼の言葉”などが非常に自然になるわけです。
 
 “クレーム対処法”として、クレームを抑え込むことばかりを
 教えるケースもあるようですが、完全主義に陥らず、
 ミスもあり得ると考えるなら、クレームはむしろ感謝材料かも知れません。
 
 もちろん顧客のクレームには“悪質”なものもありますが、
 事実把握を心掛ければ、その性質はすぐに明らかになるでしょう。
 
 
 3》ミスがあっても信用をなくさない体制?
 
 ミスを起こさないという視点ではなく、
 いつでも起き得るミスにどう対処するかを考えるのは、
 非常に現実的かも知れません。
 
 なぜなら“ミスゼロ”を目指すのは、
 顧客や取引先への信用を失わないためだとするなら、
 ミスがあっても信用をなくさない準備をすれば、
 目的は果たせたことになるからです。
 
 ただし、そのためには
 『1変動、2整合、3新規のチェックを

自分自身に分かりやすくする工夫』
 『ミス発生要因事例研究』
 『顧客クレームの再評価』が欠かせないとも言えるようです。
 
 今後もご一緒に更なる“研究”を進めてまいりましょう。