【1】ミスは単純な失敗というより会社の“スキ”?
 
 1》1本のクレーム電話
 
 生鮮食品を個人向けに宅配販売するA社に、
 ある朝1本のクレーム電話が入って来ました。
 
 その内容は、毎月銀行口座から引き落とされている
“金額”がおかしい
というものです。
 その電話に“今風”の担当者が『はあ~』という調子で応えたために、
 クレームは怒りに変わり、その場で取引が解除されてしまいました。
 
 長年のお得意様だったそうです。
 
 その担当者は
 『私が何か悪いことをしましたか?』という表情で謝罪もしませんが、
 A社の社長も、
 『担当者の対応が客を怒らせたのではなく
 問題の根は深い』

 と言われるのです。
 
 
 2》ミスは会社の“スキ”になる!
 
 取引を継続するかどうかを迷い始めた顧客は、
 続けるかやめるかを決める“きっかけ”を求めます。
 
 顧客側にとっても“継続関係”を終了させるには、
 それなりのエネルギーが必要なのです。
 
 そんな時“ミス”が目につけば、
 “決断”の絶好のチャンスとなるのでしょう。
 特に、取引関係を終わらせたいと思いながら、
 なかなか踏み切れない顧客はそうです。
 
 もちろん、そんな迷いの期間を過ぎれば、
 また以前のような良好な関係に戻れるものですが、
 『ミスは先々の修復可能性をも
 破壊する“スキ”になり得る』

 と社長は言われるわけです。
 
 
 3》本当の意味での対応“ミス”は…
 
 今回の電話対応では、実は担当者の“受け答え”ではなく、
 数値ミスを指摘する顧客の“真意”を
 読めない
ところに未熟さがあったと
 言わざるを得ませんが、社長は、
 『顧客の心情を読むほどの担当者は
 なかなか育たない。
 やはり“会社のスキ”になりかねない
 数値ミスを減らす以外にない』

 と考えているそうです。
 
 そして、こうした観点からミスの発生状況を捉えると、
 そのミスを引き起こす“要因”の意外さに驚かされてしまうことが
 少なくありません。
 特に非常に見つけにくくなった数値ミス
 どう発見するか、それは非常に重要な課題になりつつあるのです。
 
 
 【2】“勘違い”によるミスにはなかなか気付けない!
 
 1》A社の口座引き落としミスの要因は…
 
 A社の銀行口座引き落としのミスは、
 収納代行会社を変更したことから生じました。
 
 収納代行会社変更に際し、顧客の口座番号や引き落とし金額を、
 新しく入力し直す必要があったのですが、その際、入力担当者が、
 ある月だけの金額を
 “毎月固定的に発生する額”の欄に入力
 
してしまったのです。
 
 ミス発生4ヵ月後に、たまたま“通帳記入”をして気付いた顧客は、
 買い物量にかかわらず、毎月“定額”が引き落とされているのに驚きます。
 
 そして、タイミング悪く届いた“痛んだ野菜”への不快感も手伝って、
 一気に“嫌気”が爆発したのでしょう。

 その上、担当者の電話対応が、カッコウの導火線になりました。
 
 
 2》続発する送金トラブル
 
 A社側の業務フローでは、一旦“固定額引き落とし”欄に入力された客は、
 毎月の“変動”額を入力すべきリストに名前が出て来なくなりますから、
 ミスになかなか気付きません。
 4ヵ月も経過してしまったのは、そのためでした。
 
 支払いや集金のシステムが便利になって、
 こうしたミスや勘違いは増えているようです。
 A社自身もかつて、取引業者への支払いで、
 トラブルを起こしかけたことがあるからです。
 
 それはインターネットで支払おうとした時でした。
 
 
 3》支払った“つもり”なのに…
 
 今日ではわざわざ銀行へ行かなくとも、
 インターネットで振込業務が簡単にできます。
 その手続きも、パソコン画面に表示される案内に従うだけで、
 難しくありません。
 
 しかし、必要事項をすべて打ち込み、指定内容が画面に表示された後に、
 『確認ボタン』をクリックしなければ
 手続きが完了しない
のです。
 
 間違った内容で送信してしまわないための安全弁ですが、
 その確認ボタンを押さないというミスを犯して、
 送金したつもりなのに
 送金業務が終わっていない
ことがあり得るわけです。
 
 業者から再三“未入金”に対する督促があり、
 一時は険悪なムードになりかけたのだそうです。