【3】仮説を作る能力を“結果検証”で更に磨く!
 
 1》顧客の反応を“印象的”に記録する
 
 たとえば、常連Bさんが好むと思われた襟や袖口の“形”で選んだ服では、
 Bさん自身やBさんに似た趣向の客に、形を強調してアピールします。
 そして、実際に買っても買わなくても、
 その反応をパソコンの“記録”に書き加えるのです。
 
 たとえば『襟と袖口の個性的な形が受けると想定したのに、
 Bさんはスカートの長さばかりにこだわった』とか、
 『襟が大きいのは可愛いけれど、自分には似合わない』と
 “漠然とした理由”で断ったとか、
 顧客の反応を印象的に記録するということです。
 
 
 2》仮説と印象のすり合わせ蓄積の成果
 
 具体的な顧客をイメージしながら仮説を作り、それを実際に検証するという
 活動を蓄積して行くと、徐々に『想定通りの反応で買う客が増える』と、
 その講師候補者は言います。
 そして、感性というのは、何となく持つものでも天性で持つものでもなく、
 実務的に時間をかけて鍛え上げるものではないか
と指摘するのです。
 その言葉がAさんの心に響きました。
 
 瞬間のひらめきのような、天才的な感性も重要かも知れませんが、
 まさに実績と経験に裏打ちされた“この種の人にはこの服が売れる”という
 感性は、もはや感性の域を超え、確立されたビジネス“勘”、あるいは
 経営“勘”とも言える
ところに至っているとAさんは感じたからです。
 
 
 3》先見性は記録・分析の蓄積結果?
 
 それは婦人服の流通ビジネスに限りません。
 どの企業にも、売れそうな商品や買いそうな客を見つける先見性は
 不可欠
ですが、それを感性や直感だけに頼っていたのでは、
 すぐに限界が訪れるからです。
 しかも記録して分析する習慣がつけば、
 思い込みが激減して“気付き”が大いに増えるでしょう。
 
 Aさんは、交流会メンバーの中で『どうしてこっちが売れて、
 こっちが売れないか分からない』と嘆くケーキ屋のCさんや、
 『直感的に値段をつけるが、後でいつも、もっと高くても売れたのにと
 後悔する』という飲食業のDさんの話を思い出しました。
 そして、これは良いテーマだと感じたのです。
 
 
 【4】先読み力は“仮説を作る力”の延長上にある
 
 1》会合テーマの“視点”を変えた!
 
 しかしAさんは、異業種交流会にどちらの“候補”も呼びませんでした。
 講師を呼んで一方的に話を聞くより、むしろ二人の講師候補の姿勢の違いに
 ついてメンバーで話し合う
方が、実りが大きいように思えたからです。
 
 そんな露骨な“比較材料”にするために、講師を呼ぶわけには行きません。
 
 会合では、まずAさんの“二人のバイヤー(商品仕入れ担当者)”
 比較報告から始まりました。
 
 その報告の中には、後日追加調査した
 “それぞれの企業の業績データ”も含まれていました。
 
 もちろん、二人目の候補の企業の方が圧倒的に優良でした。
 
 
 2》先見性は“仮説創造力”の完成形?
 
 会合の後、『やっぱりメンバーの多くも、私と同じように感じた』
 と言いながら、Aさんは、先見性は“仮説を作る”能力の延長上に
 あるものだ
というのが会合の“結論”だったと報告してくれました。
 
 そして『私たちは、先が見えないとか、予想外のことばかりが起きる、
 などと嘆くけれど、先を見よう、予想をしようとする熱心な努力に欠ける
 部分があった』と言われるのです。
 
 更に、たとえ間違っても、先を見て仮説を作り、その仮説を実績と比較して、
 どこがどう違ったかを丁寧に見て行く
習慣を持てば、先を読む力は、
 漫然と経営している時より格段に付いて行くはずだ、とも言われていました。
 
 
 3》時代変化の重さ
 
 特に、異業種交流会メンバーの一人が、多くの顧客が“流行”に躍った
 以前なら、感性だけの人も仮説志向の人も、大きな差は出なかっただろう。
 
 しかし買い手が豊かになり、あるいは高齢化して、社会全体が
 “商品選択眼”を高めている今は、直感だけではやって行けない。
 それがそのまま、二人のバイヤーが属する企業の業績になって表れている

 指摘した時には、皆自分の事業を想起してか、しばらく口が聞けず、
 やや重苦しい空気が流れたのだそうです。
 
 確かに顧客の欲求を先読みする力なくしては、今後の経営は
 更に難しくなるでしょう。しかし、どうすればよいのでしょうか。
 
 
 【5】日々の経営の中で“先読み力”を鍛えるには?
 
 1》“先読み力”のトレーニング?
 
 Aさんの異業種交流会では、先読み力をアップさせるために、
 まず、“何が読み切れていないか”という視点で不足点を探すことから
 着手したそうです。
 
 具体的には、たとえば年度末が来る3ヵ月前に今期の売上予想や
 利益見込みだけではなく、来期の見込み(予算)を立ててみること
などから、
 意識的に取り組んでみたということです。
 
 するとまず、売上にしろコストにしろ、スラスラと予測できる部分と
 イメージが湧かない部分
がはっきりするといいます。
 
 そのイメージが湧かない部分が“先を読めていない”部分で、Aさんは、
 だいたい思わぬ損失はその部分から生まれているのではないか
 感じるケースが多いと言われていました。
 
 
 2》見えない部分の発見と更に…
 
 実際に、仮説として立てた見込みを実績と比較できるのは、
 まだ先のことですが、その際に困らないよう、次回のテーマは
 予算管理法(単年度計画法)にしよう
というのが、
 異業種交流会での大勢だったそうです。
 
 仮説は、それを作る段階から、実は十分には見えていない部分
 特定してくれるという効果をもたらしますが、その仮説を丁寧に実績と
 比較することで、先の婦人服流通業者のように、得難い経営勘の蓄積をも
 生み出してくれるはずです。
 
 
 3》“先見性”“先読み力”が重要になった現代で…
 
 まじめに頑張っていれば、まず間違いないという時代は去り、
 先を読む力が、様々な経営分野で求められる状況になってまいりました。
 
 しかし、先読みの力は短兵急につくものではなさそうです。
 そして、簡単には得られないものだからこそ、
 経営ノウハウとして非常に重要
なものなのでしょう。
 
 そうした他社が真似のできない“経営勘”の養成のために、
 弊事務所でお手伝いできることはないか、と考える今日この頃なのです。