【3】“気温”では気付きがあったが“経営”では…?
 
 1》細かく見ると気付きが増える!
 
 気温の変化を考えても、“平均気温”だけを見ると、
 下のグラフのように、ただ上昇傾向しか見えません。
 
 
 そして漠然と“温暖化”を感じることしかできないのです。
 
 ところが、前回のグラフのように、
 総合平均を“一日の最高気温と最低気温”の
 それぞれの月平均に分けただけで、実態の見え方が大きく変わってきます。
 
 『データを細かく見るだけで、こんなに気付きが増える』と、
 それがAさんの驚きだったのです。
 
 
 2》それは経営にも言えること…?
 
 そして、それは店の“経営”にも言えることではないかと、
 Aさんは考えました。
 つまり、儲かったとか儲からないとか、総合的な結果しか見ないから、
 商売の実態も顧客の動向も十分に見えていないのではないかという思いが、
 腹の底から湧いてくるように感じたのです。
 
 そこでAさんは、気象データ分析?をやめ、
 現実的な経営データについて考え始めました。
 
 マネジメント上でも、
 もっとデータによって気付きを増やすことはできないだろうかと…。
 
 
 3》勉強してはみたものの…
 
 そこで今度は書店に行き、経営分析経営指標に関する書籍を探し、
 何冊か買って来ました。
 『こんなに本を読むのは久しぶりだ』と言いながら、
 Aさんは2週間で3冊の本を読みました。
 
 ところが、その感想は意外にも、
 『なんだかピンと来ない』というものだったのです。
 
 気温のデータでは、あんなに短い時間に驚くほどの“気付き”があったのに、
 なぜマネジメントの話になると、ピンと来ないのでしょうか。
 そこには2つの理由がありました。
 
 
 【4】知識としての“経営分析”が役立たない理由
 
 1》経営指標で分かるのは“対世間レベル”
 
 Aさんがマネジメントの本を読んで、ピンと来なかった理由の1つは、
 そうした書籍の多くが“内側から経営を見る”のではなく、
 部外者として企業の業績や体力を外側から比較するために
 書かれたものだからです。
 
 たとえば投資家が投資をし、銀行が融資をする際、
 優良企業とそうでない企業を見分けるために、分析視点や指標を
 持つわけです。
 もちろん、自社の優良性の世間的レベルをつかめるという意味では
 指標は参考になりますし、売上高利益率など指標を決めて、
 経営改善を図る基準にするという活用は可能です。
 
 しかし“自社の実態を知る”際には、
 それほど直接的に役立つものではないのです。
 
 
 2》レジ伝票で“現場”データを収集
 
 そこで、Aさんは何か自分で納得できる“データ”を作ってみることに
 しました。
 そして、たまたま昨年からとり始めた“客単価”データを
 より充実させることにしたのです。
 
 具体的には、レジ伝票の裏に『満足度、人数、時間帯、支払者の年齢層』の
 4つを素早く記号で書くことから始めました。
 たとえば、夜の7時から9時半まで50歳代の人が3人連れでやって来て、
 顧客が満足そうに帰ったら、M(満足度)3ポイント、P3、700~930、
 50前半などと書き込むことにしたそうです。
 
 満足度は1~3で表現し、Pは人数、700~930は時間帯、
 50前半は支払者の年齢です。
 
 
 3》何がしたいかが不明なら知識は役立たない?
 
 そもそも“客単価”データをとり始めたのは、来店者数が伸び悩む中で、
 いかに収入を上げるかの答が“客単価アップ”と“リピート促進”にあると、
 Aさんが考えていたからです。
 
 そして、単価アップとリピート促進策を企画する前に、どんな客が高単価で
 リピートするかを実際的に観察してみたくなったわけです。
 これで書籍がピンと来なかった2つ目の理由を解消したことになります。
 
 何がしたいかが決まらなければ、データや分析を知識として学んでも、
 必ずしも役には立たないということです。
 
 
 【5】自分流“現場データ”の副次効果と着眼点!
 
 1》意外に早く出た“(副次)効果”
 
 Aさんのデータ化戦略?は、まだ始まったばかりですが、
 早々から効果が出ているといいます。その第一は
 “1.自分も従業員も顧客をよく観察するようになった”ために、
 自然とサービスがきめ細かくなったということです。
 店の空気が変わりました。
 
 そしてそれが、飲み物やデザートなどを“2.タイミングよく勧める
 姿勢を喚起し、顧客に満足していない様子が見えたら
 “3.何が不満だったかを皆で考える”習慣にもつながりました。
 
 単に機械的に仕事に取り組むのではなく、目的を持ってデータ収集を行うと、
 1.顧客観察力アップ、2.営業姿勢向上、3.サービスの反省
 が、比較的自然な形で発揮されたというわけです。
 
 
 2》本当の“効果”はこれから出る
 
 客単価自体の分析は、まだ先のテーマですが、
 その際にも先の気温分析のように、月平均等を比べるに留まらず、
 たとえば支払額の大きさ、年齢、人数、時間帯などの分析視点を決めて、
 満足度やリピート度との“関連”を探し始めると、
 驚くような発見が多々あるはずなのです。
 
 その意味で、Aさんの店の来年が楽しみです。
 
 
 3》有効な“着眼点”に至るには…
 
 以上のように“現場のデータ”は、変化を的確に把握する上で非常に重要な
 示唆を与えてくれますが、何を着眼点としてデータをとるかについては、
 自社の状況と経営方針などを踏まえ、個々に決めて行かなければならない
 ものなのです。
 
 書籍には、様々なヒントはあっても決して答はありません。
 Aさんのケースでは“客単価”という明確な視点がありましたが、
 そうした着眼点が見つかっていない場合は、着眼点を見つけるためにも、
 まずは日常の業績管理をしっかり行うことからお勧めします。
 
 あるいは、はじき出された業績を、
 気持ちをいったん白紙にして眺め直してみるのもよいかも知れません。
 
 それが事実をしっかり反映した業績管理であれば、
 経営視点を見つけ出すことも、それほど困難ではないはずです。